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テレビ番組の司会者が、実はとても大きな顔をしていると視聴者は気づいているだろうか
有名な日本を代表するキャスターの顔を、康夫はしょっちゅう見るけど彼らの顔は体の割にものすごく大きかった
康夫は常々カメラに向かって顎を突き出してしゃべる練習をしていた
康夫はひそかに身体のわりに、自分の顔が小さいからキャスター番組を持たせてもらえないのではないだろうかと考えていた
日々、常に自分のテレビ映りを気にしている、今までは昼の暇なオバサンしか観ない百貨店の総菜をレポートする番組や、世論調査の仕事ばかりだった
中には台風情報で大袈裟に10分も時間をとって視聴者をビビらせるニュースも読まされたりした
そんな仕事しか自分には回ってこない、今年はもっとディレクターに自分を売り込まないと
それでも仕事があるだけありがたいと、何でも今までこなしてきた。しかしそれは局に入りたての新人のやる仕事だ自分はもうベテランだ
康夫は歯をギリッと食いしばり、ハンドルをイライラと叩いた、この家路に着くまでの渋滞はなんとかならないのだろうか
同期達にみたいに自分の番組が欲しい・・・・
まだ出世競争に負けたと思いたくない。もっと給料も上げて欲しい、企画からシナリオ制作まで携わって、視聴者を唸らせる良い仕事がしたい
男三十代・・・仕事でやりがいを感じる充実した生活を送りたい、自分のキャスターとしての力試しをしたい、何のために報道哲学を大学で学んだんだろう
疲れ果てて家にたどり着いた。それでも今日は少し早めに家に帰れた
ガチャ・・・「ただいまぁ~・・・・」
途端に目の前に靴でぐちゃぐちゃの玄関が目に入って来た
新築で購入した家は、いくら晴美の親が頭金を払ってくれたとしても月々のローンを払うのは自分だ
綺麗だったオレンジ色のタイルの玄関は、灰色に黒ずんでる、晴美は家を購入してから一度も玄関を磨いたことがない
今は子供達の長靴やスニーカー、傘、晴美のなぎ倒されたブーツなどでいっぱいだった
康夫はため息をつきながら、どうして下駄箱にしまわないのだろうと、一つ一つ下駄箱に靴を直して行く
そして自分の皮のローファーに消臭剤をふって、きちんと玄関の隅に並べた、こうしておくと明日の朝スムーズに出かけられる
報道局の先輩が
「実家暮らしの女は家事を親にやってもらっているから結婚したら家事が出来ない」
と言っていたが、まさに晴美がその典型的なパターンだった
付き合っている時は見えなかったものが、いざ結婚して毎日一緒に暮らしていると嫌でも見えて来る
先輩のアドバイス通りに、結婚する前に少しでもいいから同棲したらよかった
それでも彼女なりに一生懸命やってるのだから、口うるさいことは言わないでおこうと自分に言い聞かす
リビングから末っ子の斗真の鳴き声が聞こえる
うわぁ~ん「にゅうにゅう~~~飲む~~!!」
イヤイヤ期絶好調の斗真が、キッチンでひっくり返って手足をばたつかせて泣いている
「おかえりなさい!早かったのね」
晴美がキッチンで慌ただしく動いている。その様子を見たらシンクで朝使った皿を洗っている
朝食の皿を今洗っているのか?
夫が疲れて帰ってきてるのに
いったい今まで何をしていたんだろう
「斗真が泣いてるぞ!」
「そう思うなら斗真を見てよ!早く帰って来るならそう連絡してよ!今から急いで晩御飯作るから 」
晴美が忙しそうに言う
俺は早く帰っ来ちゃいけないのかよ・・・
「・・・今日何してたんだよ?」
「朝から幼稚園の行事の決め事よ!私が幹事をやってるの!みんな優柔不断でなかなか決まらないんだから急いでお買い物して帰ってきて洗濯物を畳んだ所!帰ってきて一度も座ってないのよ」
不機嫌そうに晴美が言う
うわぁ~~~ん「にゅうにゅう~~~!!」
「あなた!悪いんだけど斗真に牛乳あげて幼稚園で疲れてて機嫌が悪いの」
―俺だって疲れてるよ!―
そう心で思ったが口には出さず、康夫は仕方がなくジャケットを脱ぎ、冷蔵庫から牛乳を取り出しコップに入れてひっくり返って泣いている斗真の所へ行く
「ほら・・・斗真・・・牛乳だよ・・・ 」
うわぁ~~~ん「ママがいい~~~~~!」
暴れて斗真がバシンッと康夫の持っているコップを叩いた。途端にリビングの床に牛乳が飛び散った
「何やってるの!」
晴美がヒステリーを起こす
「ママがいいって言ってるんだよ!」
「あなたがいつも家にいないから懐かないのよ!」
「僕にどうしろって言うんだよ」
ハァ~・・・とため息をつく