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私の家は生きています────
この家と出会ったのは、私が大学生の頃。
一人暮らしをしようと思い、
良い家を探している時のこと。
お金もそんな無くて、諦めていた時、
不動産の人にある提案をされた。
「家賃2万の家があるんですが…」
そう呟くように私に言った。
家賃2万て事故物件とかじゃないの?
そう思いながらも私にとって家賃2万は、
かなりの好都合。
「内見だけしてもいいですか?」
「いいんですか!?」
「はい」
「じゃあ、早速向かいましょう!!」
そう言って着いた場所は至って普通の家。
特にボロいとことか変なとこは無いけど、
今見てるのは外見だしな…。
そう思いながら渋々家の中に入ると、
真っ白な壁から手のようなものが生えていた。
それどころか、動いている。
「ぇ…?」
私が声を漏らすと、
不動産さんの人は汗を拭きながら
「この家は『生きてる』んです」
と言う。
家が生きてる?
「家賃が2万なのは、それのせいですか?」
「そうなんですよ…」
「一応こういう感じで意思疎通も出来ますし、信頼されれば中々使えるものでして…」
そう説明している最中にも、
壁から出た白い手は紙とペンで
何かを描いているようだった。
「便利なら尚更、買う人はいるんじゃないんですか?」
「珍しさとかで…」
「それが中々いないんですよ…」
「なんとも、気持ち悪いとかでね…」
この家と一緒に過ごす。
なんだか面白いかもしれない。
しかも、
この値段の家なんてもう会えないと思うし..。
そう思い、私は
「じゃあ、買います」
そう言うと
「本当ですか!!?」
「こちらとも有難いです!!」
ととても喜んでいるようだった。
後日、引越し業者が来た際、
その人たちは家の壁から出てる白い手に驚いて
中に物を運んではくれなかった。
私が困っていると、
急に誰かに肩をトントンと叩かれ、
振り返ると、
そこには白い手が何かを描いた紙を見せてきた。
『どこにどれを置くか言って欲しい』
そう描いてあって、
『もしかして運んでくれるのかな?』と
思いながら置く場所を教えたら
本当に運んでくれた。
この家で過ごしてるうちに、
なんだかこの『家』が可愛いと思えてきた。
洗濯物を畳むのを手伝ってくれたり、
寝る時だって布団をかけてくれる。
『そんな些細なことで』って思うかもしれない
けど、私にとっては凄く嬉しいことだった。
私はゲームをするのが好きで、
いつも誰かとゲームをしたいと思っていた。
もしかして、
『家』とゲームができるんじゃないか。
そう思い、私は
「貴方ってゲーム出来る?」
と聞くと
『教えてくれればできる』
と描いたメモを渡された。
ちょうど私はゲーム機を2つ持っていたので、
ざっくりとした使い方を教えた。
しかし、問題が発生した。
それは『家』の白い手がとても大きいこと。
だから、
このままじゃゲーム機が壊れてしまいそうだ。
そんなことを思いながら困っていると
『このぐらい?』
と人間と同じサイズの手を見せてきた。
やっぱり、この『家』は不思議だ。
それからというもの、
私と『家』は一緒にゲームで楽しんでいる。
案外、『家』はゲームが上手い。
なんだか少し羨ましい。
前はバイトとか仕事から帰ってきた時、
親も居なくて1人だったから寂しかったけど、
今は『家』が話し相手になってくれるから
寂しくない。
やっぱりこの家、買ってよかったかも。
そういえば夏になると思い出すな…。
夏に家族と一緒に神社を見て回ったこと。
「神社…久しぶりに行きたいな…」
そう呟いた瞬間、グラグラと家が揺れた。
「地震!?」
そう驚く私だが、窓から外を見ると、
家が移動していた。
どこに向かっているのかは分からない。
「え、ええ!?ちょ…」
しばらくすると、揺れが治まった。
『着いたよ』
と家が言うもんだから、
私は不思議に思いながらも家を出ると、
目の前には神社があった。
こんな大胆な行動したら、
たくさんの人に見られちゃうんじゃ…。
と思ったのも束の間、
周りの人達は慌てることなく、
日常を過ごしていた。
普通なら写真を撮ったりするはずなのに。
どうしてだろうか。
それより、
なんで『家』はここに来たのだろうか。
もしかして、私がさっき呟いたのが原因とか?
まぁいいや。おみくじ引いてこよ〜っと。
おみくじは中吉だった。
病気は特に問題無し…。
仕事は..順調か。
恋愛は、2度恋をして1度別れる…。
なんか複雑だなぁ。
私は家に帰り、昼寝をし、
目が覚めると家は元の場所に戻っていた。
もしかしたら夢だったのかな?
そんなことを考えながらも、
おみくじは手元にある。
夢のような旅行..。
「ありがとね」
そう私が言うと、
壁から出てる白い手は親指を立てて、
グッドマークを示した。
そんなある日、
私は会社の同僚と付き合うことになった。
そんな恋愛話を『家』に話すと
熱心に聞いてくれた。
「明日のデートで着て行く服ってどっちの方がいいと思う?」
『こっちのナチュラルな服の方がいいと思う』
「やっぱり?」
「じゃあそっちにしよっかな〜」
なんだかここだけ見れば『家』が恋人みたい。
「じゃ、行ってくるね!」
『行ってらっしゃい』
「佐藤さんは、なんで俺の告白にOKしてくれたの?」
「うーん、同僚だったから中も良かったし」
「それに、話が合うから、もっと知りたいなって思ったのがキッカケかな?」
「そうなんだ…」
「もちろん俺も佐藤さんのこと知りたいからね?」
やっぱり好きだなぁ…。
付き合って結構経ったある日、
「俺さ佐藤さんの家行ってみたいんだけど…」
「いつも俺の家にばっか招いてるじゃん?」
「あー..確かにね?」
「あと…佐藤さんの家見てみたいし…」
『家』を見てみたい…。
でも、私の家って普通じゃないから…。
優くんは私の『家』どう思うんだろう。
きっと大丈夫だよね?
「ここだよ」
そう言って私は玄関の扉を開ける。
途端、
いつものように壁から白い手が出てきて
『おかえり!』
と描いた紙を見せる。
「は…」
「何これ…」
「優くん…?」
「どうしたの──」
「こんな家に住んでる彼女とか気持ち悪ぃ!!」
「別れよ!!」
そう言って優くんは逃げるように帰っていく。
優くんなら大丈夫だって思ったのに…。
私は玄関に座り込むように泣き崩れた。
『ごめん』
『ごめんね、僕が出てきちゃったから』
『ごめんなさい』
そんなことが描かれた紙がふわふわと
上から落ちてくる。
違う。
違うよ。
『家』のせいじゃないから…。
『家』は悪くないから。
「ごめん、もう落ち着いた」
そう言いながら、私は目を擦る。
『今日はもう寝ていいよ?』
そんな優しい言葉が描かれた紙が目の前にある。
「でも洗濯物だって終わってないし…」
「それに───」
『やっておくから休んで』
そう言って『家』は大きな手で私をベッドまで
運んだ。
そして布団をかける。
無理やりにでも起きようと思ったが、
私は諦めて寝ることにした。
夜中くらいに、
私は涙が止まらなくて眠れなかった。
が、『家』が私を包み込むように
手を添えてくれたからなのか、
私はいつの間にか眠りに落ちていた。
気持ちが落ち着いた今日は、
お気に入りのカフェに行くことにした。
いつものようにコーヒーとチーズケーキを
楽しんでいると1人の店員が話しかけてきた。
「今日はおひとりなんですね」
驚いて顔を上げると目に映ったのは、
いかにも犬系男子って感じの人だった。
「彼氏さんは今どこに…」
「別れたんです」
「ちょっと前に」
「ぇ..あ、失礼なこと聞いちゃってすいません!!」
「いいよ、もう終わったことだから…」
そう言いながらも自分で虚しくなる。
それより、この子可愛いなぁ…。
「あの…僕、あなたがずっと好きだったんです!!」
「へ?」
「あ、急にこんなこと言われてもビックリしますよね…」
「でも本当に好きなんです…」
「一目惚れだったんですけど..彼氏が居たので諦めてて…」
「でも!今、もう別れたって聞いてチャンスかもしれないって..思っちゃって…」
「チャンス…」
「僕でもう一度、恋をやり直しませんか?」
そんな顔で言われたら断らざるを得ない。
それに、もしかしたら、この子なら
『家』を “ 許してくれる ” かもしれない。
そう思い、私は
「じゃあ…お願いします」
と答えた。
𓂃 𓈒𓏸໒꒱
まさかのカフェの店員さんは
私と同じ苗字の佐藤で、
名前は蒼空とのこと。
しかも、蒼空くんは『家』を気持ち悪がらず、
それどころか楽しんでいるようも見える。
「家さんは手しか出ないんですか?」
そう蒼空くんが『家』に問うと、
壁から白い足が出てきた。
「へぇ〜!!足も出るんですね!!」
何それ。
足も出るなんて私も知らないんだけど。
𝐹𝑖𝑛.