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祖母が亡くなった夜、遺品の中から古いカセットレコーダーが見つかった。
白く変色した本体に、マジックでこう書いてある。
**「再生するな」**
そう書いてあるものほど、再生したくなる。
私は深夜、ひとりでイヤホンを差し込んだ。
カチ、と再生ボタンを押す。
最初は無音。
やがて、ざああ……という微かなノイズ。
その奥から、祖母の声が聞こえた。
「もし、これを聞いているなら……後ろを見ないで」
心臓が、どくりと鳴る。
「絶対に、振り向かないで。何があっても。音がしても。名前を呼ばれても」
そこで、テープは一瞬途切れた。
ガサッ。
イヤホンの向こうではない。
私の背後で、何かが擦れる音がした。
息が止まる。
祖母の声が、再び流れる。
「今、あなたの後ろにいる。それは、顔を見られると――」
ぶつり。
テープが止まった。
同時に、部屋の電気が消えた。
暗闇。
イヤホンの中からは、もう何も聞こえない。
だが、背後の気配は消えていない。
いる。
すぐ後ろに。
首筋に、冷たい息がかかる。
振り向くな。
振り向いたら終わりだ。
わかっているのに、人間は「確認」せずにいられない。
本当にいるのか?
気のせいじゃないのか?
私は、ほんの少しだけ、視線を横にずらした。
その瞬間、耳元で囁きが聞こえた。
「……見たね?」
全身が凍る。
違う。振り向いてない。まだ見ていない。
なのに――
ゆっくりと、両肩に何かが乗った。
重い。
細長い指が、顎を掴む。
上を向かせようとする。
関節が、みしり、と鳴る。
嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ。
目を閉じる。
すると、暗闇の中で、まぶたの裏に「顔」が浮かんだ。
目がない。
鼻がない。
ただ、縦に裂けた口だけがある。
その口が、にぃ、と開いた。
イヤホンから、再び祖母の声が流れ出す。
「だから言ったでしょう。振り向く前に、目を閉じても、もう遅いの」
冷たいものが、首の後ろから中へ入ってくる。
皮膚をすり抜け、背骨を撫で、頭蓋の内側をなぞる。
視界が赤く染まる。
気づくと、私は自分の部屋を見下ろしていた。
床に座ったままの「私」。
首が、不自然な方向に曲がっている。
その背後に、それがいる。
顔のないそれが、ゆっくりとこちらを向く。
そして、今。
あなたの後ろにもいる。
さっきから、気づいているでしょう?
小さな音。
呼吸じゃない、もうひとつの呼吸。
もし、今この文章を読んでいて、
少しでも後ろが気になっているなら――
もう、遅い。