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「あっ、忘れてた!」
「私、用事があるんだったわ…」
花溪さんはそう言って、口をぽかんと開けた。
その口を手で覆い、大袈裟とも思える態度を見せてくれる。
これは本心としか思えない。
彼女のようなことを「「天然」」と言うに違いない。
だが、用事とは何のことだろう?
先程まで悠々と漫画を描いていたが、果たして大丈夫なのだろうか?
「私には帰らなければならない場所があるのよ」
「それは家のこと…?」
それなら最初から家と言えばいいのに…
「家ではないわ」
「でも、私にとっての居場所なのよ」
「家じゃ、ないの…?」
「ええ」
「ちょっと“特別”なのかも知れないわね――」
そして更に付け加える。
「でも心配しないで」
「私は大丈夫だから」
最後にそれだけ言い残し、彼女は教室を後にした。
僕はただそれを傍観することしかできなかった。
家以外の居場所なんて、どこにあるのだろう?
だがきっと大丈夫なんだろう。
彼女は不思議な人だから。
実は僕は薄々、花溪さんが人間でない可能性を考えていた。
確かに彼女は、ごく普通の高校生で ごく普通の生活を送っているように見える。
でも纏っているオーラが明らかに異様なのだ。
人間味がないと言うか、現実的でないと言うか……
上手く言葉は見つからないのだが、
とにかく僕と同じ世界に生きていないということを確信していたのだ。
ということは僕は、人間ではないナニカに恋をしているのか――……
そう考えると、なんとも言えない感情が体中を駆け巡った。
―――ああ、僕は何を想ってるんだろう。
―――叶わぬ恋なのか?
いや、そんなこと初めから分かりきっていた。
叶わぬ恋に違いない。
だが何となく、彼女と一緒に過ごせる時間は少ないのではないかと
心のどこかで感じていた。
こんなことは彼女ももちろん話していなかったが
ここまでの偶然と奇跡が重なることなんてあるのだろうか。
―――僕は彼女に恋をする資格などないはずなのに。
なのに、好きという感情は抑えられずにいる。
これが本物の恋なのだろうか。
恋とは、抑えきれずに爆発する「好き」を表しているのだろうか。
そう深く考えていくうちに、時間は過ぎていっていった。
僕はふと我に返り、時計を見る。
もう日も暮れ始め、辺りはしんと静まり返っている。
僕は急いでスクールバックを背負い、教室を出た。