「……うん、わかった。ごめん、急に。うん……じゃあ、元気で」
通話を切った直後の静寂が、耳の奥に刺さる。
握りしめたスマホの画面が、真っ暗に沈んだまま動かない。
別れ話なんて、いつだって突然だ。
でも、こういうのはたぶん──前から決まってたことなんだろう。
泣くよりも先に、乾いた笑いがこぼれた。
「……そっか。そーだよな。俺、彼氏としては微妙だったし……」
忙しくて、連絡もまめじゃなかった。
会うたびに、仕事の話ばっかしてた。
『翔太はアイドルとしてはすごくかっこいいよ。でも、私の恋人としては…ちょっと寂しかった』
最後に聞いた彼女の声が、妙にあたたかくて、だからこそ切なくて。
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「翔太ー!おつかれ!今日の収録、めっちゃウケてたな!」
「マジで笑った〜あのくだり、まじやばかった笑」
収録が終わったスタジオの廊下、メンバーたちが和気あいあいと集まる。
俺もその輪の中で、にこにこと笑っていた。
「いや〜俺もあそこでああなるとは思わなかったし!」
「康二の顔、限界超えてたもんな」
「ちょ、やめてや〜!また放送後にSNS荒れてまう!」
ツッコミ合い、笑い合い、騒ぎながら向かう控室。
誰にも気づかせないように、俺はちゃんと笑ってる。
──でも、ほんの少しだけ、その頬の緩みはぎこちなかった。
「しょっぴー、今日の打ち上げ行く?」
ラウールの無邪気な声に、一瞬迷ってから首を横に振る。
「ちょっと用事できちゃってさ。俺、先帰るわ」
「そっか〜。おつかれ、気をつけてね!」
軽く手を振って、背を向ける。
エレベーターの扉が閉まり、音が消えると足取りが、急に重くなる。
スタジオを出ると、夜風が頬をなでていく。
繁華街から離れた静かな道を、ポケットに手を突っ込んで歩いていた。
人の気配のない場所に来た途端、胸の奥に溜めていたものが、ゆっくりとこぼれ出す。
「……はぁ……」
立ち止まって、ビルの壁にもたれた。
上を向いて目を閉じる。
涙は、もうこらえきれなかった。
ポツ、ポツ──
頬を伝う涙が、無音の夜に落ちる。
自分が思っていたより、ずっと…寂しかった。
繋ぎ止めたかったのに、手を伸ばすことすらできなかった。
「……なにやってんだ、俺……」
そのときだった。
「翔太?」
聞き慣れた、静かで落ち着いた声が響いた。
はっとして振り返ると、そこには涼太がいた。
コメント
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めっちゃ続き気になる終わり方する…!!