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「おっあれがあのマザコン野郎の前歯を折った弟か」
な、何で知ってるの!?
口をパクパクして顔を真っ青にしていると、部長は目を細めて笑った。
「ちょっと待っとけ」
スーツケースを渡されると、部長は単身で侑哉に話しかけに行く。
どうか、いきなり侑哉が殴りかかりませんように。
と神様に祈ったのが効いたのか、ちょっと渋い顔をして侑哉は何度か頷くと、すぐにバイクを走らせて消えて行った。
「じゃ、行くか」
「あの、侑哉に何を言ったんですか?」
私がそう尋ねると、部長は少しだけ眉を引きつらしたが、すぐにいつものポーカーフェイスに戻った。
「お前が色々と質問に答えたら、教えてやるよ。ほら、来い」
スーツケースを奪うと、タクシーの運転手に預けて、私に乗るように促す。
逃げられないんだと、心臓が握りつぶされるような緊張感を感じながらも、タクシーへ乗り込んだ。
部長の目的が分からず、どうして良いのか分からない不安と、
久しぶりの部長に少しだけ懐かしさを感じながら、
タクシーは夜の街へと走っていく。
***
「いい?」
たらふく食べた部長は、煙草をトントン指で叩くので頷く。
駅から5分ぐらいの場所にある普通の24時間のファミレスだったが、人も疎らで沈黙が重かった。
部長はそんなのお構いなしで、ハンバーグセットとミックスグリルと唐揚げを完食して、食後のコーヒーと煙草を味わっている。
私は、何故か部長が頼んだ抹茶パフェを満腹なお腹の中にちびちび入れていた。
――てか、部長はタクシーの人にココを迷わず教えてたけどよく来るのかな?
あ、子会社がある関係でよく来るのかな?
ってか、あ!
「部長、有沢さん! 合コン! 何で!」
言葉が纏まらなかった私に、部長は面倒臭そうに言い放つ。
「だから、お前は俺の質問に答えてからって言ってるだろ」
「し、質問ってなんですか!!」
フ―っ
深く煙草の煙を吐き出しながら、どんどん部長の目が鋭くなっていく。
説教する時は、もっと『怒ってます』オーラが出てたけど、今日の部長は淡々とつめたい感じで怖い。
身構える私に言った言葉は、想像していたどんな言葉より優しかった。
「どーして俺に相談しなかったんだ?」
「へ?」
「あのクソマザコンは、青森だっけ? 田舎に帰ったぞ。よかったな、あんなのと結婚しなくて」
トントンと灰を落としながら、――優しく微笑んだ。
その笑顔にホッとして涙が滲みそうになる。
ズルイよ。
一緒に働いてた時は、そんな笑顔したことなかったのに。
「聞いたんですか? 部長以外もみんな知ってるんですか?」
「ああ。だがお前が暗くなるような事は何もない。ってか、心配してたぞ。誰かうるさそーな女の一人にでも連絡してやれ」
「し、んぱい」
どこまでバレたんだろう。
彼には、何を言ったんだろう。
「大丈夫。聞いたのは俺だけ。同じ営業の俺に愚痴ってきたから、鼻で笑っておいた。
ママンが長男なんだから跡取りを産むのに金がかかる女はダメだとか言ってたから、ってうるさかったから殴っといた」
「なぐ!?」
どうして、部長も侑哉も、すぐ手を出すの!?
ってか、部長、ペンより重たい物は持たない主義だとか言ってたし、そんな細い体でよく殴れたね……。
「まさか、企画室長になったのは、殴った為の左遷!?」
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