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第八章 闇が還る月夜
第九話 消えない闇
夜の帝都外縁は、既に戦場と化していた。
轟音。
怒号。
魔物の咆哮。
そして、夜空を覆うほどの黒い瘴気。
城壁の上では、帝国騎士団が必死に応戦している。
炎が走る。
水流が舞う。
風の刃が夜を裂く。
様々な属性魔法が、次々と魔物へ叩き込まれていた。
「西側、押されているぞ!!」
「結界維持班、急げ!!」
「第二部隊、前へ!!」
騎士達の声が響く。
その中を二頭の軍馬が、凄まじい速度で駆け抜けていく。
ハヤト。
そしてジュウタロウ。
二人はそのまま最前線へ飛び込んだ。
目の前には、無数の魔物。
狼のような姿。
翼を持つ異形。
巨大な獣。
形は違えど全てに共通しているものがある。
黒い瘴気。
闇が姿を得た存在達が、帝都へ押し寄せていた。
「殿下!!」
騎士達の顔に、一瞬だけ安堵が浮かぶ。
ハヤトは馬から飛び降りる。
同時に、黄金の剣を抜いた。
「ここを守るぞ!!」
次の瞬間、黄金の光が夜を裂く。
一閃。
巨大な魔物の身体が切り裂かれる。
黒い瘴気が、霧のように噴き出した。
続けてジュウタロウが踏み込む。
銀色の魔力が地面を走る。
一瞬で凍り付いた大地が、魔物達の動きを止めた。
「今だ!!」
騎士達が一斉に攻め込む。
炎、水、風、雷、土。
様々な属性の力が、魔物を退けていく。
帝国騎士団は強かった。
大陸でも屈指の戦力。
通常の魔物なら、問題なく対処できる。
しかし
「……っ」
一人の騎士が息を呑んだ。
倒したはずの魔物。
その身体から溢れた黒い霧が、そのまま地面を漂う。
消えない。
「なんだ……?」
「瘴気が残っている……」
騎士達が戸惑う。
次の瞬間。
黒い霧が、ゆっくりと蠢いた。
まるでもう一度、形を求めるように。
「下がれ!!」
ハヤトが叫ぶ。
だが、遅い。
散ったはずの瘴気が集まり、再び黒い影を作っていく。
そこから、新たな魔物の腕が伸びた。
騎士の一人が弾き飛ばされる。
「嘘だろ……」
「倒したはずなのに……!」
騎士達の表情が凍る。
ハヤトは目を見開いた。
そして、理解する。
魔物を倒している。
だが、 闇そのものは、消えていない。
通常の魔法では、器を壊すことしかできない。
残った瘴気は、再び形を得る可能性がある。
それが今夜の満月によって、さらに強められている。
「……終わらないのか」
ハヤトが呟く。
黄金の剣を握る手に、力が入る。
斬っても。
焼いても。
凍らせても。
瘴気は残る。
まるで、世界に染み付いた闇が、
消えることを拒んでいるようだった。
「殿下!」
騎士の叫び。
ジュウタロウが周囲を見る。
城壁の外。
森。
平原。
遠くの山。
あらゆる場所から、黒い影が押し寄せている。
まるで帝都そのものが、闇を引き寄せているようだった。
空を見上げる。
満月。
雲は完全に晴れ、白い月光が地上を照らしている。
その光を浴びるほど、魔物達はさらに狂暴化していく。
「……満月の影響か」
ジュウタロウが低く呟く。
ハヤトは答えない。
ただ、拳を握る。
脳裏に浮かぶのは、倒れたジント。
苦しみながら、瘴気を吸収していた姿。
あれだけの闇を。
あれだけの瘴気を。
一人で受け止めていた。
そして今、目の前に広がる光景。
倒しても残る闇。
増え続ける魔物。
もし。
もし、ジントがいなければ。
この世界は。
永遠にこの闇と戦い続けるのか。
その時だった。
「うわぁ!!」
巨大な獣型魔物が、騎士へ飛び掛かる。
間に合わない。
その瞬間。
――ギィィン!!
鋭い氷壁が、騎士の前へ展開された。
ジュウタロウだった。
「立て」
銀の瞳が鋭く光る。
騎士は震えながら頷いた。
しかし、ジュウタロウ自身も理解していた。
このままでは、押し切られる。
どれだけ戦っても、どれだけ倒しても、瘴気は残り続ける。
消えることなく。
世界へ漂い続ける。
その時。
遠く、城の方角から赤い音色が響いた。
夜を切り裂くような、強い旋律。
ハヤトとジュウタロウが、同時に振り返る。
ーー城内。
何かが起きている。
そしてこの夜。
満ちた月の下で、世界の闇が、ただ一人の救いを求めて動き始めていた。
コメント
1件
美月ゆめかだよ〜🌸 第29話、読んだよ!! 戦闘シーンの臨場感がすごすぎて、息するの忘れた😭💦 倒しても瘴気が消えないって、その絶望感がひしひし伝わってきた…。ハヤトが「終わらないのか」って呟くシーン、胸がギュッてなったよ。それと同時に、ジントが一人で背負ってたものの重さを改めて感じた… 最後の赤い音色のシーン、めっちゃ続き気になる!次回が待ちきれないよ〜✨