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#山中柔太郎
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第八章 闇が還る月夜
第十話 赤い旋律
馬車は夜の城道を、激しく揺れながら走っていた。
窓の外。
城壁の向こう側では、絶え間なく光が弾けている。
轟音。
そして魔物達の咆哮。
帝都外縁では激しい戦闘が続いていた。
シュンタは不安そうに空を見上げる。
満月。
雲一つない夜空で、白い月が異様なほど輝いている。
その光を見るだけで、胸の奥がざわついた。
「……嫌な感じや」
小さく呟く。
向かい側では、ダイチがジントを強く抱き抱えていた。
ジントはまだ目を覚まさない。
顔色も悪いまま。
浅い呼吸だけが、かすかに聞こえる。
ダイチはずっと俯いていた。
不安を押し殺すみたいに。
馬車が速度を上げる。
やがて、巨大な皇城外門が見えてきた。
門兵達が慌ただしく動いている。
その時だった。
――クワアァァァ!!
シュンタがハッと顔を上げる。
「……っ!?」
顔色が変わる。
「こんなところまで……!?」
次の瞬間、夜空から黒い影が急降下した。
巨大な鳥型魔獣。
黒い翼を広げ、一直線に馬車へ向かってくる。
「魔物だ!!」
門兵達が叫ぶ。
槍が構えられる。
弓兵達が一斉に矢を放つ。
けれど、速い。
鳥型魔獣は夜空を鋭く旋回し、矢を避けながら突っ込んでくる。
馬が激しくいなないた。
馬車が大きく揺れる。
「うわっ!?」
ダイチが咄嗟に、ジントを庇うように抱き締めた。
魔獣の咆哮。
もう目前だった。
その瞬間。
シュンタの脳裏へ、ある光景が蘇る。
満月。
雪。
ジュウタロウ。
魔物。
あの時、自分は――
「……俺しかおらん!」
シュンタが叫ぶ。
次の瞬間。
揺れる馬車から、転がり落ちるように飛び出した。
「シュンタ!?」
ダイチの声が響く。
けれどシュンタは止まらない。
地面へ着地すると同時に、背中に担いでいた楽器を構える。
黒いリュート。
母から受け継いだ、大切な楽器。
月光を受け、赤い火属性の魔石が淡く輝いた。
シュンタは深く息を吸う。
怖い。
足は震えている。
でも、ここで逃げるわけにはいかなかった。
ゆっくり目を閉じる。
そして、そっと弦へ指を滑らせた。
――ポロン。
静かな音色。
次の瞬間。
赤い魔力が、音へ溶け込むように広がった。
空気が震える。
夜風が揺れる。
旋律が、満月の下へ響き渡った。
シュンタの赤い髪が、ふわりと舞う。
音は次第に強くなる。
優しく。
けれど力強く。
まるで空気そのものを、包み込むみたいに。
その瞬間、鳥型魔獣の動きが鈍った。
「ギャアアッ!」
苦しそうな咆哮。
空中で大きく体勢を崩す。
黒い翼が激しく揺れた。
シュンタ自身も目を見開く。
赤い魔力を纏った音が、魔物の周囲へ広がっている。
瘴気を消しているわけではない。
けれど、暴れる闇の流れを乱し、
魔物の動きを縛っている。
「……効いとる!?」
自分でも信じられない声が出た。
今まで、はっきり形にできなかった力。
それが今、確かに自分の中から溢れている。
赤い音の波が、さらに広がっていく。
魔獣はまるで、見えない鎖に縛られたように動きを止めた。
そして、地面へ激突する。
轟音が響き渡る。
シュンタが顔を上げる。
「今や!!」
その叫びと同時に。
門兵達が動いた。
炎属性の魔導弓兵が、燃え上がる矢を放つ。
赤い軌跡。
次の瞬間、炎の矢が、魔獣の胸へ深々と突き刺さった。
「ギィィアアアアアッ!!」
断末魔。
鳥型魔獣の身体が、黒い瘴気となって崩れていく。
そして夜風へ溶けるように、静かに消えていった。
沈黙。
シュンタは荒い呼吸を繰り返す。
手の中のリュートが、微かに熱を帯びていた。
門兵達が、呆然と彼を見る。
ダイチもまた、目を見開いていた。
「……シュンタ」
いつも笑ってばかりいる。
軽口ばかり叩く。
そんな彼が今。
自分の力で、誰かを守った。
シュンタは汗を拭いながら、へらっと笑った。
けれどその声は少し震えていた。
「なんか……」
自分の手を見る。
「できてもたわ……」
コメント
1件
うわあ、第30話……すごかったですね……! 満月の夜、戦闘の只中でシュンタが自分の力で決断して飛び出した場面、もう胸が熱くなりました。特に、母から受け継いだリュートで旋律を奏で、初めて形になった力で魔獣の動きを封じたところが、音色と一緒に心に響きました。震えながらも「俺しかおらん」って叫ぶ姿に、彼の成長と覚悟がぎゅっと詰まっていて、読み終えた後もしばらく余韻に浸ってました。comiさん、今回も素敵な物語をありがとうございます!