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第三十章 それでも
蓮が居ればそれだけで良かった。
嫌な事があったって、蓮の笑顔でへっちゃらになった。
人差し指で示した行き先は、幸せの絶頂だった蓮と誓った、あの海に似ていた。
変わらずずっとそこにあって、自ら青を放つ。
混じり気がなく、悠然とそこにある。
澄み渡る空が、広く伸びて、少しだけ近い。
不思議と怖くなかった。
知らない国の、知らない街に降り立ち、海を目指した。
広告の写真を頼りに、電車の切符を買った。
どこに向かっているのか、北なのか、南なのかさえ分からない。それでも、電車の窓から吹き抜ける風が、潮風を運んで来ると、胸がドキドキと高鳴った。
終点で降りた街は、煉瓦造りの家々が急な坂道の上に、連なって建っていた。
「素敵な街」
蓮にも見せたい――
メンバーの皆んなにも――
ファンの子達にも。
こんな素敵な景色、きっと皆んな元気が出る。
うん――大丈夫。
綺麗な景色を見て、素敵だって、まだ、思える。
まだ、引き返せる。
自分の足でここまで来れたのだから。
誰にも頼らず。
最後まで――
「さぁ、青を取り返しに行こう」
蓮 side
〈翔太が消えた〉
阿部ちゃんから届いたメール。
気付いたのは半日経ってからのことだ。
最初は慌てたものの、その後、〝少しだけ待ってて〟と翔太から返信があったと連絡を受けた。
遠く、カナダにいる俺に出来ることは何かあるだろうか。
部屋の出窓から見えた空が遠くに感じた。
青がどこかへ行ってしまいそうで、外を眺めるジェームズとフォーカスも心無しか、不安そうに空を見上げているように見えた。
なんだか胸騒ぎがして、ホテルの部屋を飛び出した。
ドアノブが、いつもよりわずかに重かった。
振り返る。
見覚えのあるジャケット。
触れた指先が、かすかに震える。
冷たい。
それでも――残り香。
翔太だ。
ここに来た。
チャイムを押さなかった。
白い腕が、ためらうように伸びる光景が浮かぶ。
震える手。
それでも、押さなかった。
――自分で行ったんだ。
追いかけない。
あれは、追うための背中じゃない。
ジャケットを羽織ってロビーのソファに腰掛ける。
冷えた体を暖炉に向けると、コーヒーの匂いが鼻を掠めた。
「Care for a drink?」
「thank you」
「That jacket looks good on you.」
――似合ってるわよ。そのジャケット。
瞳が重なる。
翔太よりずっと青い瞳。
「ふふっ……He’s shy… he left without seeing me.」
――照れ屋さんなんです、彼。会わずに行ってしまった。
「You let him go.」
――追いかけなかったのね?
暖炉の火が弾ける。
「…Yes」
それだけ答える。
老婦人が微笑む。
「He’ll find his blue.」
――彼は自分の青を見つけるわ
――――――
翔太 side
色褪せた看板。
明らかに寂れた街並み。
観光地の明るさじゃない。
ショップのドアを開けると、ゴムと塩と金属の匂い。
なんだか、急に怖くなってきた。
店の中は、少し暗い。
壁には色褪せた海の写真。
笑顔の観光客。
“Blue Paradise”と書かれたポスター。
でも今の俺には、ただの色の塊。
受付の男が顔を上げる。
「Diving?」
一瞬、喉が乾く。
「…Yes. One person.」
紙を差し出される。
読めない単語が並ぶ。
“risk”
“responsibility”
“emergency”
指が止まる。
「Can I meet the blue?」
――青に逢えますか?
「Of course. If you wish.」
――君が、それを望むなら。
ふぅーっと息を深く吐いた。
署名するペン先が、わずかに震えて、
生きてるんだって思ったら、
可笑しくなって笑っちゃった。
受付の男が怪訝そうに見る。
「You ok?」
「…Yeah」
本当かどうかは分からない。
でも、誰だってそう答えるだろ?
〝You ok?〟
〝Yeah〟ってさ。
コメント
2件
可愛いんだけどカッコいい青に夢中です😍😍😍
