初めて買った喪服を着て、母と一緒に式場へと向かった。
友達が花影で静かに微笑んでいる。
味のしない寿司、大好きなはずの日本酒も全く美味しくない。
ちいさな箱を抱えたあいつのお母さんが真っ白なハンカチに涙をあてがっていた。
そこからの記憶は……………
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「あぁ〜…眠いぃ……。」
…酒を飲みすぎた。ついついうっかりというか、気づいたらというか…まぁ、明日は仕事が休みだし、まだ飲むけどさぁ?
…。いつもなら程々にしてあいつを呼びつけてもう居酒屋出ちゃうけど…
僕はみっともなく机に突っ伏してしまった。そして、大きな、長いため息を吐いて
「あいつ死んじゃったもんなぁー……。」と、小さい小さい声でつぶやいた。
生まれた時から一緒にいた。
もともと、母とあいつのお母様が古くからの友人とかで仲が良かったとかなんとかだから一緒にいるんだよ、と母さんが言っていた。あとはもうぜんぶ腐れ縁。小学生もほとんど同じクラス。家も割と近いのでずっと近所で遊び回っていた。そして当たり前のように一緒の中学へ上がった。
その頃あたりからは、イタズラしたり、テストの点数の良し悪しでギャーギャー騒いだり、素行の割には頭の良いあいつについていくために死ぬほど努力して受験したり…
それから、成人を迎えてからも、たびたび家とか店とかでご飯を食べてお酒飲んだりしたりして、最近どうとか、気圧がきついとか、もうそろそろ浮ついた話あるんじゃないのとか職場がどうのこうの…。たまに話すようなことをしていた。
青春らしい青春はしているなと思っていた。実際に楽しかったし…。
ずっとこんな感じでぼちぼちを酒飲みつつ、年を食っていくのだろうと心の中で思っていた。
あいつ、白波スミレが死んでしまうまでは。
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…頭が痛い…。スミレ…いや、酒の飲み過ぎだからだ、もうやめやめ…。
とりあえず考えるのをやめて、唐揚げをひょいと一つ食べ、続いて酒を煽った。
…「ただいまぁ〜……」フラッフラになりながらなんとか帰って来れた。全くもう、こんなに足がおぼつかないのに、介抱役がいないものだから大変だった。
空気は冷たいのに体だけは火照っていて気持ちが悪い。
とにかく横になりたい。と着替えもままならないまま、バッグも投げ出し、1LDKの狭い部屋の板間にゴロリと寝転がって、ひんやりとした床の感覚が心地良いと、いつのまにか寝落ちてしまった。
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───「なぎ!凪!!良い加減おきなさい!」
………あぃ?母さん…?
バチっと目が覚めた。と同時に、若干ブチギレた母さんの、寝起きの人間に浴びせるにはいささかデカすぎる声とズキズキ頭痛がいきなり私を襲ってきた。最悪…。
…あー、そういえば昨日母さんからメールが来てたような気がする。けど、お酒入ってるし、ベロンベロンに酔った私がそんなメール覚えてるわけがなかった。
……「オハヨゴザイマス…」
「ったくあんたはもー、昨日もどうせお酒飲んでたんでしょ。お酒の匂いが&$¥¥※」……うげぇ、めんどぉ……。
…というか、母さんが家に来るのはいいけど、何しに来たんだろう。
これも、メールで昨日届いてるはずだけど記憶はスポッと抜け落ちている。
このことを聞いたらメールを見ていないことがバレて、ガッツリ怒られそうだ。うわ、どうしよ。
「ったく母さん朝から重めな荷物頑張って持って来たんだけど!」
「え?」「…あんたねぇ……」メールを見ていなかったのがバレた…。
「メール見る見ないは自由だけど、記憶無くなるまで呑んじゃうのはやめなさいよ。」
ごもっともすぎて涙が出そうだ。
「まぁ、いいけどさぁ。…それより、ほら、白波ちゃんの荷物、家に置いておくままだとお母さんどうにもできないから持ってきたのよ。ちょっと前に白波ママから、一番仲良い友達のあんたにって譲ってもらったのに、粗末にしちゃダメでしょ?」
あ、そうだった。
スミレが死んですぐのときに軽くそんなことを話し合った。
あれからもう3ヶ月と少し、荷物を放置しちゃってたのは悪いことをした。
「母さんごめん。ありがと、お茶入れるよ。」
「いい。お母さんこれから職場直行するから。」
ちょっと怒っちゃってるのかなぁ…まじでもう2度と酒は飲まないそう決めた。
「…あんたあんまり思い詰めすぎちゃあだめよ。いつでも帰ってきなさいね。」
急な心遣いの言葉に少しドキッとした。
見透かされているような感じがした。
「んじゃ、もうお母さん行くわよ?
あー、そこのダンボールは日用品と仕送りとか入ってるからね。じゃあまたね。」
母は神であった。