テラーノベル
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待ち合わせ時刻よりも十五分ほど前にホテルのロビーに到着した瑠衣は、女風オーナーの彼を探してみる。
背が高く、クールなイケメンだと事前に凛華から聞かされているが、それらしき人物はいない。
(来るのが早過ぎたかな……)
漠然と考えていると、視界の右側から上背のあるスラリとした男性が、瑠衣の方へ向かって歩いて来るのが見えた。
彼女の前でピタリと止まり、男性は柔らかで落ち着いた声音で呼び掛けた。
『失礼ですが、九條瑠衣さんですか?』
『はっ……はい、そうです……』
顔を上げると、上質なダークグレーのスーツに同色系の白いドット柄のネクタイのノットが目に入る。
更に上を向くと、少し短めの黒髪をアップバングにした、奥二重の切長の瞳を持つ男性が、瑠衣に向けて笑みを湛えていた。
身なりがきちんとしている所を見ると、やはり経営者なのだ、と瑠衣は思う。
『俺は中崎 拓人と言います。よろしく』
『よ……よろしくお願いしますっ』
緊張のあまり、何度もペコペコとお辞儀をしている瑠衣を見た拓人が、フっと小さく笑う。
『もしかして、緊張してる?』
『はい……。かなり…………緊張……してま……す……』
『俺、恐らく瑠衣さんよりもけっこう年上になると思うんだけど、大丈夫かな?』
(え、この人って、そんなに年上なの? 私よりも三〜四歳しか違わない感じがするけど……年齢聞いたら失礼かな……)
この人に会うのは最初で最後と思った瑠衣は、失礼を承知の上で拓人に聞いてみる事にした。
『あの、本当に失礼な質問して申し訳ないんですが……中崎さんって、おいくつなんですか?』
『俺? 俺は二十九。瑠衣さんは?』
『私は二十二です。中崎さん、すごく若々しいから、私と三〜四歳くらいしか違わないのかと思いました』
『嬉しい事を言ってくれるね』
そう言うと、拓人は照れ笑いを見せた。
『じゃあ…………行こうか』
彼は、ニッコリしながら瑠衣の腰に腕を回すと、エレベーターホールに向かって歩き出した。
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