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『おさむ!』
『どしたん、侑』
『これ、おさむにあげよう思って摘んできたんやで!』
目の前に差し出されたのは1輪の真っ赤なチューリップの花
『綺麗なお花やなぁ。嬉しいわ、ありがとう!』
『このお花、ただのプレゼントとちゃうからな!』
『え?』
そう言い残し、侑は走っていってしまった。
──────
───
─
俺は宮侑。高校3年生でもう少しで18歳になる。高校は稲荷崎で、強豪と有名なバレー部でキャプテンを務めている。嬉しい話だが、中々人数も多いため全員をまとめるのが大変だ。痛いほどキャプテンの辛さを実感している。
俺には7歳離れた兄弟がいる。名は宮治。今は専門学校を卒業して、自分の店をだしている。高校は俺と同じ稲荷崎でバレー部に所属していた。クロカンに聞いた話だが、相当うまかったらしい。俺がバレーをやり始めたきっかけは治のプレーを見てからで、高校で髪を染めたのも治の影響だ。
───
時折夢をみる。
幼い頃の夢。
それは人生初告白した日。
俺の気持ちに気づきもせず、笑顔で花を受け取る想い人。
あの時はどきどきで、受け取ってくれただけで嬉しかったが、今思えばただの子供の遊びだと思われているに違いない。
体だけ大きくなって心はあの時のまま。
どんどん前に進んでいく治を見て、俺はなにも成長していないことに気づき嫌気がさす。
原因は自分でもわかっているのに。わかっていても捨てられないこの惨めな気持ち。
最悪な目覚めだ。
「侑ー!はよ起きなさい!」
返事をする気力すらない。
拒否する体を無理やり起こして洗面所へ向かう。
トントントントン
一定のリズムで包丁が動く音。
母の後ろ姿をぼーっと眺めるのが毎朝のルーティーンとなってしまった。
「はぁ..」
最近うまく疲れが取れていない気がする。
それはお互い時間がなくて治に会えていないからだろか。
はよ治に会いたい。たくさんバレーの話を聞いてもらいたい。
でも実際会ってみるといつも素っ気ない態度を取ってしまうのが俺だ。
治を前にするといつも素直になれない。
でもそれも今始まったことではないし、しょうがないことだけど。
「ほい、できたで。」
机の上に並べられた朝食。食べ盛りな俺のために、毎朝たくさんのおかずを作ってくれる母には感謝しかない。
「いただきます」
がっつくように食べている俺を見る母はニコニコ笑顔だ。
「侑が美味しそうに食べてくれるから作りがいあるわぁ」
「そら良かったわ」
母の料理はとても美味しいし、毎日違うメニューで食べていて飽きない。
でも、毎回のようにこう思う。
『治の料理が食べたいな』と。
それは治の手料理に胃袋をつかまれたからだろうか。
それとも他にあるナニカ。
「侑!ぼけっとしとると学校遅れんで!」
母の声ではっと我に返る。
手元にあったスマホで時間を確認すると、まだ出発の10分前。
ご飯を食べ終えようと思い、スマホの電源をおとそうとしたとき誰かから通知がくる。
そこには『宮治』という名が表示されていた。
ドキッと心臓がはねた。
恐る恐るメッセージアプリを開く。
『新作作ったから学校帰りに店よらん?』
一瞬断ろうかと思った。
でも普通の兄弟なら、こんな恋心なんて持っていない人なら、喜んで行くと思った。
俺はその “普通” を演じなければならない。
『行く』
『じゃあ待っとくわ。学校頑張ってな』
文面から伝わってくる優しさ。
これだけで頬が緩んでしまう。
「そんなにニマニマして、もしかして彼女でもできたん?」
思っていたより顔に出ていたらしい。
「いらんわ、そんなもん。」
今は目の前のものを消化する事で精一杯。
それに俺は一生彼女なんか作らないと思う。
治の温かさを、優しさを知ってしまったから。きっと治を忘れることができない。
(よし
頬を軽く叩き、気持ちを切り替える。
今日も、はじまる
─あとがき
幼い頃(7~10歳)の侑が治(14~17歳)にあげたチューリップの花
花言葉は「愛の告白」や「真実の愛」
幼いながらも自分の感情は異常だと理解していた侑は花を使って静かに愛を伝えたのでした
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コメント
5件
花言葉がいい…新作も神か😇✨💕
新作ッ!?待って最高すぎますっ!✨めっちゃロマンチック(?)で年の差って!めっちゃ好きです!😍