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くるみ_226
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第6話 隠しきれない「好き」
月曜日の昼休み。
会社の休憩室。
仁人は一人、自動販売機でコーヒーを買っていた。
「……あ。」
隣の棚に、小さな猫のフィギュア付きのお菓子が並んでいる。
全部で6種類。
「……。」
1つだけ。
本当に1つだけ。
そう思って手を伸ばした、その時。
「仁人ぉ!」
「うわっ!?」
突然後ろから肩を叩かれ、仁人は飛び上がった。
「太智!」
「めっちゃ驚くやん。」
「急に来るな!」
「ごめんごめん。」
太智は笑いながら、自販機の横に並んだ。
「何買うてたん?」
「コーヒー。」
「ちゃうちゃう。」
太智が棚を指差す。
「こっちやろ?」
「……。」
猫のフィギュア付きお菓子。
仁人は気まずそうに目を逸らした。
「べ、別に。」
「欲しかったん?」
「違う。」
「ほな何でずっと見とったん?」
「……。」
「図星や。」
「うるさい。」
太智はケラケラ笑う。
「昔から猫見たら顔ゆるゆるになるもんなぁ。」
「ならない。」
「なる。」
「ならない。」
「なる。」
「……。」
仁人は諦めたようにため息をついた。
「1個だけ。」
「素直やん。」
「今日だけ。」
「はいはい。」
「その返事は勇斗だけで十分。」
「似てもうたなぁ。」
二人は笑いながらレジへ向かった。
◇ ◇ ◇
夕方。
勇斗の会社。
「勇斗。」
舜太が書類を持って近づく。
「仕事終わったら飲みに行かへん?」
「今日は帰る。」
「即答やな。」
「仁人が待ってるから。」
「相変わらずやなぁ。」
舜太は苦笑する。
「ほんま、仁人くんのこと大事にしとるな。」
「うん。」
「迷いないん?」
「ないよ。」
勇斗は優しく笑う。
「仁人と一緒にいる時間が、一番落ち着く。」
その言葉に、舜太は肩をすくめた。
「柔太朗がおったら、『はいはい、ごちそうさま』言うとるで。」
二人は顔を見合わせて笑った。
そのタイミングで、柔太朗がやって来る。
「何笑ってるの?」
「勇斗がまた惚気とった。」
「え、また?」
「またや。」
「違うよ。」
「違わへん。」
三人の笑い声がオフィスに響いた。
◇ ◇ ◇
夜。
仁人が先に帰宅すると、ソファの上に昼に買ったお菓子を置いた。
「……。」
開ける。
中から出てきたのは、小さな黒猫のフィギュア。
「……!」
思わず笑顔になる。
「かわいい……。」
テレビ台の上へそっと飾る。
その時だった。
「ただいま。」
「っ!?」
勇斗が帰ってきた。
仁人は慌ててフィギュアを隠そうとする。
「何してるの?」
「な、何も。」
「今隠した?」
「隠してない。」
勇斗はテレビ台を見る。
そこには黒猫のフィギュアがちょこんと座っていた。
「猫。」
「……。」
「買ったんだ。」
「……たまたま。」
「かわいいね。」
「……うん。」
ぽろっと本音が出る。
「あ。」
しまった。
仁人は口を押さえる。
勇斗は優しく笑った。
「そんなに好きなら、隠さなくてもいいのに。」
「……恥ずかしい。」
「なんで?」
「26にもなって、かわいいもの好きって……。」
勇斗は少しだけ首を傾げた。
「好きなものに年齢なんて関係ないよ。」
「……。」
「仁人が好きなものを好きって言えるほうが、俺は嬉しい。」
その言葉に、仁人は静かにフィギュアを見つめる。
「……笑わない?」
「笑わない。」
「引かない?」
「引くわけない。」
「……ほんと?」
「ほんと。」
勇斗は穏やかに笑った。
「だって、そういう仁人も全部好きだから。」
部屋が静かになる。
仁人は耳まで真っ赤にしながら、小さく笑った。
「……ずるい。」
「何が?」
「そういうこと、さらっと言う。」
勇斗は照れ笑いを浮かべた。
「本当のことだから。」
仁人は猫のフィギュアを手に取り、大事そうにテレビ台へ戻す。
もう、隠す必要はない。
そう思えたのは、勇斗が隣にいてくれたからだった。
窓の外では、夕焼けから夜空へと景色がゆっくり変わっていく。
穏やかな時間の中で、二人の心の距離もまた、少しだけ近づいていた。
コメント
1件
いやあ、仁人が黒猫のフィギュアを「かわいい」って思わず言っちゃうところ、めっちゃかわいかったです!😭 そして勇斗の「そういう仁人も全部好きだから」ってさらっと言うセリフ、ずるすぎます……。もう隠さなくていいんだよって優しく言ってもらえるの、仁人にとってすごく安心できる瞬間だったんだろうなあ。お菓子を買う前の太智とのやりとりもほっこりしました!