テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第35話:石油王、キタキツネに嫉妬する
十勝の秋風が、日増しにその冷たさを増してきている。
しかし、我が家の縁側は今日もシロが放つ『フェーン現象(適温25度の神聖結界)』のおかげで、極上のポカポカ空間が維持されていた。
「……平和だなぁ」
俺はほうじ茶を啜りながら、庭先を眺めて目を細めた。
足元では、純白の神獣であるシロと、すっかり舎弟として定着したキタキツネのコン吉、そして弟分のコン次郎が、今日も見事な『トリプルもふもふ団子』を形成して昼寝をしている。
二匹の黄金色のキツネの背中の上に、大福のように白いシロが乗っかっているその姿は、見ているだけで寿命が延びそうなほどの尊さだった。
「お兄さーん! 配信の準備できましたよー!」
隣でカメラを構える小春ちゃんも、三匹の寝顔にすっかりメロメロになっている。
俺たちがいつものように【日常チャンネル】の配信ボタンを押し、数百万人の視聴者に向けて挨拶をしようとした、その時だった。
ブロロロロッ……!
村の一本道に、ひときわ重々しいエンジン音を響かせて、見慣れない巨大なトラックがやってきた。
「ん? 宅急便か? でもあんな厳重な装甲車みたいなトラック、この村で初めて見たぞ」
トラックの側面に描かれていたのは、国際的な超高級品専門の輸送会社のロゴだった。
屈強な配達員が数人がかりで荷台から降ろしてきたのは、厳重に木箱で梱包された、人間が一人入れそうなほど巨大な荷物だった。
「アキヤ様ですね! ドバイの顧客様より、特急指定でのお届け物です!」
「は、はい……ご苦労様です」
サインを済ませて木箱を受け取ったが、これが異常に重い。
大人数人がかりで、なんとか庭のど真ん中まで運んでもらった。
「お兄さん、ドバイからって……また石油王さんからですか!?」
「嫌な予感しかしないな……。とりあえず、配信も回ってることだし、開けてみるか」
俺は倉庫からバールを持ってきて、ギシギシと木箱の蓋をこじ開けた。
『石油王からのプレゼントキターー!!』
『また規格外の何かが届いたぞww』
『木箱の時点でヤバいオーラ出てる』
『何が入ってるんだ!?』
200万人の視聴者が固唾を呑んで見守る中、緩衝材を取り除いた俺の目に飛び込んできたのは――。
ピカァァァァァァァァァッ!!!!
「うおっ、眩しっ!?」
「きゃあっ!? なにこれ、目がっ……!」
太陽の光を反射して、暴力的なまでの『黄金の輝き』が庭中に放たれた。
ゆうき あきや
3,596
259
#心理描写重視
木箱の中から現れたのは、犬小屋……いや、サイズ的には『キツネ小屋』と呼ぶべき、一軒の小さな家だった。
しかし、その材質が狂っていた。
屋根から壁、入り口の装飾に至るまで、全てが一点の曇りもない『純金(24K)』で出来ていたのだ。
「……じゅ、純金の、小屋……?」
俺がポカンとしていると、黄金の小屋の入り口に、一枚の最高級羊皮紙の封筒が貼り付けられているのに気がついた。
中に入っていた手紙を、俺は震える声で読み上げた。
「『親愛なる主へ。私は今、ドバイの宮殿で血の涙を流している』……」
「ち、血の涙……?」
「『あの黄金色のキツネたち……コン吉とコン次郎だったか。あいつらが、私の愛する神(シロ)のすぐそばで、あまつさえ下敷きになって寝ているのを見た。許せん。私でさえ画面越しにしか触れられないというのに!』」
どうやら石油王は、シロにべったりと懐いているキツネ兄弟に対して、国境を越えた凄まじい『嫉妬の炎』を燃やしているらしい。
「『あいつらがシロのそばにいるのが悔しくてたまらない。だから、超一流の職人に徹夜で作らせた、この最高級の純金製キツネ小屋を送る! これを庭の隅に置き、キツネたちをそこへ隔離してくれ! シロの隣は、画面越しの私の特等席だ!』……だそうだ」
俺が手紙を読み終えると、チャット欄は前代未聞の大爆笑の渦に包まれた。
『石油王、キツネ兄弟にガチ嫉妬してて草wwwwww』
『嫉妬のスケールがバグりすぎだろ!!!』
『キツネたちをシロ様から引き離すためだけに純金の小屋を作ったのかよww』
『総制作費いくらだよこれ……億超えてるだろ絶対……』
『金持ちのやることは次元が違いすぎるwwww』
「あはははっ! 石油王さん、コン吉くんたちにヤキモチ焼いてるんですね! 可愛いところあるなぁ!」
小春ちゃんが、お腹を抱えて笑い転げている。
俺は眩しすぎる純金の小屋を前に、深いため息をついた。
「おい、コン吉、コン次郎。お前たちのためにドバイから届いた新居だぞ。入ってみるか?」
『キュン?』
『コン?』
名前を呼ばれた二匹が、シロの下敷きになったまま首だけを持ち上げ、純金の小屋を不思議そうに眺めた。
そして、トコトコと小屋に近づき、純金の柱の匂いをクンクンと嗅いだ。
『おっ、入るか!?』
『1億円の別荘の住み心地はどうだコン吉、コン次郎!』
視聴者たちが期待を寄せる中。
キツネ兄弟は、「硬いし冷たいから嫌だ」とでも言いたげにプイッと顔を背けた。
そして、一瞬の躊躇いもなくUターンすると、再び縁側に戻り、シロの足元に丸まって極上の『ダブルキツネ座布団』へと戻ってしまったのだ。
『ミャウ(おかえり)』
シロも当然のように彼らの背中にアゴを乗せ、再び三匹の平和なお昼寝タイムが再開された。
『キツネ兄弟、純金の小屋を完全スルーwwww』
『石油王、キツネにフラれる』
『1億円の純金 <<<(越えられない壁)<<< シロ様の温もり』
『そりゃそうだ、金より神獣のそばの方がいいに決まってるww』
『(ドバイの石油王からの¥50,000ギフト)=”NOOOOOOOO!! WHY!? GOLD IS NOT GOOD ENOUGH FOR YOU!?“(ノーーーーー!! なぜだ!? 黄金ではお気に召さないというのか!?)』
石油王の悲痛な叫び(赤MeTubeギフト)が画面を横切る。
「……まぁ、野生動物に金の価値なんて分からないからな。それにシロの暖かさに勝る暖房器具はこの世に存在しない」
俺は、庭のど真ん中で太陽光を無駄に反射しまくっている純金の小屋を眺め、腕を組んだ。
「お兄さん、これ、どうするんですか? 置いておくだけでも泥棒に入られそうで怖いですけど……」
「そうだな……。サイズ感的にはちょうどいいし、雨風はしっかり凌げそうだ」
俺は一度家の中に戻り、日頃の畑仕事で使っているスコップやクワ、そしてホームセンターで買ってきた『牛糞ベースの有機肥料』の袋をいくつか持ってきた。
そして、あろうことか、それらの農具と肥料を、純金の小屋の中に無造作にドサドサと突っ込んだのだ。
「――――えっ」
小春ちゃんの笑顔が引きつった。
「お、お兄さん……? いま、純金の小屋の中に……牛糞の肥料、入れませんでした……?」
「ああ。ちょうどいい物置がなくて困ってたんだよ。これなら頑丈だし、雨漏りの心配もないからな」
俺は額の汗を拭い、完璧な実用性を見出した自分に満足して頷いた。
200万人の視聴者たちが、一斉に思考を停止させた。
『……嘘だろ?』
『総工費数億円の純金の小屋を……農具入れにしたぞこの男』
『しかも牛糞入れてるwwwwwww』
『石油王が徹夜で作らせた超高級キツネ小屋が、肥料の保管庫にww』
『主の適応力(暴挙)が今日も限界突破してる』
『価値観のバグり方が異常www最高すぎるwww』
『(ドバイの石油王からの¥50,000ギフト)=”HAHAHAHAHA!! MY PURE GOLD TURNED INTO A FERTILIZER WAREHOUSE!! YOU ARE CRAZY, MASTER!!“(ハハハハハ!! 私の純金が肥料庫になっただと!! 主よ、君は狂っている!!)』
「石油王さん、ありがとうございます。おかげで庭がスッキリしました」
俺はカメラに向かって、元社畜の完璧な営業スマイルで一礼した。
石油王も、己の財力が『ただの田舎の物置』として消費された現実に、怒るどころか大爆笑してMeTubeギフトを投げ続けている。
「あははっ! もう、お兄さんには敵いませんよ! 純金の物置なんて、世界中探してもここだけですよ!」
小春ちゃんが、涙を流しながらジンバルを揺らしている。
『ミャウ……』
『キュゥン……』
世界中の大富豪が嫉妬に狂い、数億円の金が庭の片隅で肥料を雨から守っているその裏で。
シロとコン吉、コン次郎は、そんな人間の狂騒など全く意に介さず、ただひたすらに縁側で平和な寝息を立てていた。
どれだけ世界がバグろうとも、俺たちの生活の軸は絶対にブレない。
十勝の冷たい秋風の中、眩しすぎる純金の物置を背景にして、今日も世界一幸せなスローライフはのんびりと続いていくのだった。
コメント
1件
ちょうど読んだとこ!!石油王のキツネ兄弟への嫉妬がスケールバグりすぎて笑い止まらんかった🤣💕純金のキツネ小屋って…しかもコン吉たちに完全スルーされてシロ様のとこ戻るの尊すぎでしょ!!😭💖そして主が肥料庫にしちゃうのまじで天才すぎるww石油王も笑ってるし全部が最高のエピソードだったよ!!続きも楽しみにしてるね⋆♡