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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第36話:テレビ局の突撃取材! 招かれざる客
北海道十勝地方。
木々が鮮やかに色づき、落ち葉が風に舞う季節になっても、俺たちの古民家の縁側は相変わらずの絶対的平和空間だった。
「ふわぁ……今日のほうじ茶は一段と美味しいですね、お兄さん」
「ああ。純金の物置(元・石油王からのプレゼント)に当たった太陽光が乱反射して、ちょっと眩しいのを除けば、最高のお茶日和だ」
縁側では、シロが放つ『適温25度の神聖結界』の中、キタキツネのコン吉とコン次郎がシロの足元でフカフカのクッションと化している。
俺と小春ちゃんは、そんな三匹の尊すぎる寝顔を眺めながら、のんびりと【日常チャンネル】の配信を行っていた。
今日も同接は250万人を突破し、画面の右端では世界中の大富豪たちによる「シロ様に貢がせろ」「いや私のMeTubeギフトを受け取れ」という謎の札束殴り合いバトルが平和に(?)繰り広げられている。
これぞ、俺がブラック企業から逃げ出して手に入れた、何者にも邪魔されない絶対的なスローライフ。
――のはずだった。
ブロロロロッ! キキィッ!!
突如、村の静寂を切り裂くように、乱暴なブレーキ音が庭のすぐ外で鳴り響いた。
「……ん? なんだ?」
石油王が派遣してきたSPたちの黒塗りの高級車ではない。
窓ガラスにスモークが貼られた、東京の品川ナンバーのレンタカー(大型のミニバン)だった。
バンッ! と乱暴にドアが開く音がして、中から数人の男たちがぞろぞろと降りてきた。
先頭を歩くのは、季節感のない薄手のブランド物のカーディガンを肩に掛け、頭にサングラスを乗せた、絵に描いたような『ギョーカイ人』風の中年男。
その後ろには、肩に巨大なテレビカメラを担いだ男と、音声マイクを持った若いADらしきスタッフが続いている。
「おい、ここかぁ? 例のバズりまくってるっていう猫の家はよぉ」
「はい、ディレクター! ネットの特定班の情報を辿ったら、間違いなくこの村のこの家です!」
男たちは、他人の家の敷地だというのに、一切の躊躇なくズカズカと庭に足を踏み入れてきた。
しかも、すでにカメラの赤いランプが点灯している。
「あ、あの……お兄さん、なんかすごい人たちが来ましたよ……?」
小春ちゃんが怯えたように俺の袖を掴んだ。
『ミャウ?』
『コンッ?』
『キュン?』
シロとキツネ兄弟も、不躾な足音に目を覚まし、警戒するように耳をピクピクと動かしている。
「おーい! いたいた! 君たちだろ、ネットで話題の『日常チャンネル』の配信者ってのは!」
サングラスを頭に乗せたディレクターらしき男が、ズカズカと縁側まで近づいてきて、まるで旧知の親友にでも話しかけるような馴れ馴れしい口調で大声を上げた。
「いやー、探したぜ! 俺、東京の『帝都テレビ』で情報番組のディレクターやってる者なんだけどさ!」
男は名刺を出すこともなく、台本らしき丸めた紙で俺たちをビシッと指差した。
「今、ネットのバズり動画を特集するコーナー作っててさ! 君たちのチャンネル、なんかCGだかトリックだか知らねえけど、ヒグマに土下座させたり温泉湧かせたりして、すげぇバズってんじゃん?」
男の言葉には、あからさまな見下しと、「田舎の素人がネットで小銭稼ぎしてる」という侮蔑のニュアンスが隠しきれずに滲み出ていた。
「だからさ、うちの全国ネットの番組で、その『トリックの裏側』を大々的に暴いて……いや、特集してやろうと思って、わざわざ東京から来てやったってわけ! 嬉しいだろ?」
「……」
俺は無言で、手元の湯呑みを縁側に置いた。
小春ちゃんの持っているスマートフォンの配信画面では、チャット欄が急激に荒れ始めていた。
『は? なんだこいつら』
『テレビ局? アポなしで勝手に敷地に入ってきてんのか?』
『「来てやった」って何様だよ』
『シロ様の神聖な空間に、土足で踏み込んでくるな!』
『(ドバイの石油王からの¥50,000ギフト)=”Master! Who are these rude monkeys!? Should I send an assassin!?“(主よ! この無礼な猿どもは誰だ!? 暗殺者を送ろうか!?)』
石油王が本気で物騒な提案をしているが、俺の心境もそれに近いものがあった。
「ささっ、とりあえずカメラ回ってるから! そこ座って、いつもみたいに猫撫でてよ! あ、そこのJKの子は、もうちょっと胸元……じゃなくて、顔をカメラに向けて笑顔作って!」
ディレクターが傍若無人に指示を出し、カメラマンがズイッとレンズをシロと小春ちゃんに近づけてきた。
「ひゃっ……! や、やめてください……!」
小春ちゃんが顔を引きつらせ、シロを庇うように身をすくめる。
――その瞬間。
俺の脳内で、『プツン』と何かが切れる音がした。
東京のブラック企業で、数え切れないほどの理不尽な上司に耐え、クレーマーに頭を下げ続けてきた俺。
他人の時間を奪うことになんの罪悪感も抱かず、自分の権力(この場合はテレビというメディアの力)を笠に着て、弱者を踏みにじる人間。
俺が、この世で最も忌み嫌う人種だ。
「……カメラを止めろ」
俺の口から出た声は、自分でも驚くほど冷たく、絶対零度の吹雪のように低かった。
「あぁ? なんだよ兄ちゃん、緊張してんの? 大丈夫だって、適当に編集で面白くしてやるからさ――」
「聞こえなかったのか」
俺はゆっくりと立ち上がり、ディレクターの男を見下ろした。
コールセンターの最前線で培われた、感情を完全に殺した『顧客対応モード』。
だが、今の俺から放たれているのは、SPたちを退けた時のような防衛のオーラではない。
相手の精神を根こそぎへし折るための、純粋な『拒絶の覇気』だった。
「アポイントメントのない取材はお断りしています。ここは私有地です。ただちにカメラの電源を切り、敷地から出て行ってください」
「はぁ? なにマジになってんの? 全国のテレビに出れるんだぜ? チャンネルの登録者だって増えるし、お前らにとっても得しかないだろ?」
男は俺の冷たい視線に一瞬怯んだものの、すぐに鼻で笑ってカメラマンに顎で合図をした。
「いいから回しとけ。田舎者の素人が調子乗って――」
ディレクターが強引に取材を強行しようとした、その時だ。
『……フシャァァッ!!』
俺の足元で、シロが低く、恐ろしい威嚇の声を上げた。
普段の甘ったるい鳴き声からは想像もつかない、大気を震わせるような獣の咆哮。
そして、シロのサファイアとアンバーのオッドアイが、爛々と妖しい光を放ち始めたのだ。
「うおっ!? なんだこの猫……! おい、今の顔のアップ撮っとけ!!」
空気を読めないディレクターがカメラマンをけしかける。
俺はため息をついた。
ああ、俺は警告したぞ。
シロのテリトリー(絶対不可侵の聖域)で、彼女の愛する小春ちゃんと俺の平和を乱すことが、どれほど恐ろしい結果を招くか。
この愚かなテレビマンたちは、数秒後に、己の常識が物理的に破壊される絶望を味わうことになるのだった。
コメント
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読了したわ。 今回のテレビ局の連中、マジでクソだったな…アポ無しで敷地にズカズカ入ってきて、しかも「トリックの裏側暴く」って上から目線。こっちは石油王が暗殺者送ろうとしてるレベルの聖域だってのに。 でもそこで冷静に「アポイントメントのない取材はお断り」って絶対零度で返したお兄さん、めっちゃかっこよかった🔥 ラストのシロの威嚇で終わったから、次回どうなるか気になって仕方ないわ。あのディレクター、マジで物理的絶望味わうんだろうな…笑