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黒いセダンが、ラブホテル街の路地をゆっくり進んでいくと、デザイナーズマンションを思わせる建物が見えてきた。
「ここ。俺がオーナーの女風の店」
拓人が、建物に向けて顎をクイッと上げる。
「うわ…………イメージしていた女風の店と全然違うよ……」
格子状の黒い枠の中に、コンクリートを打ちっぱなしにした建物を見た優子は、キリッとした瞳を丸くさせる。
「女性客が、気兼ねなく入りやすい雰囲気にしたかったんだよな。女だって、溜まった性欲を吐き出したい時もあるだろ? 俺としては、気楽に発散させたいと思うワケよ」
黒いセダンは、男の店のすぐ脇道を曲がり、建物の裏側にある駐車場に車を止めた。
「支配人と色々話す事があるから、悪いけど、けっこう長い時間、待たせちゃうかもしれない。いいか? 何なら、渋谷の駅周辺でフラフラしていても、俺は構わないけど」
「けど、私、スマホ持ってないし……いつ戻ってきていいか、分からない」
「ああ…………そうだったな……」
拓人が前方を見据えながら逡巡した後、後部座席に放ってあったボディバッグを取り出すと、長財布を引っ張り出す。
「これで、新しいスマホを買ってこいよ」
「…………え?」
男の差し出された手には、一万円札が数十枚ほど握られている。
「これくらいあったら、最新型のスマホも一括で買えるし、それに、スマホがないと、あんたも色々困るだろ?」
「まぁ……そうだけどさ……」
「いいから。もらっておけよ」
優子が、金を受け取るのを躊躇っていると、拓人がハアッとため息をつく。
「わ……分かった。ありが……と……う……」
彼女は、ぎこちなく金を両手で受け取り、頭を下げた。
「さて。俺は支配人と話をしてくるわ。何時に終わるか分かんないけど、とりあえず十八時半に、ここに戻ってきてくれ」
「うん」
二人は車を降りると、拓人は自分の店に、優子は渋谷駅へ向かった。