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「そりゃ、不倫してる当人でしょ」
私の問いにあっさり答えた祥平は、拭き上げた食器を棚に片付ける。
「だよねぇ」
「けど、怖いな。仲がいいんじゃないの?」
「まぁ……」
「でも、本音で話さない?」
「うん」
「会うの、疲れない?」
「どうかな」
正直、疲れる。いや、疲れていた。
子供の話には共感できないし、節々に感じるマウントには辟易していた。
とはいえ、女同士なんてそんなものだ。
独身から見たら主婦は気楽そうに見えて、子供がいる人から見たらいない人は自由に見えて、子供がほしいのにいない人から見たらいる人は幸せそうに見える。
ないものねだりだ。
大多数の人が、自分の意思で結婚して出産するし、自分の意思で結婚しなかったり子供を産まなかったりする。
なのに、いつの間にか自分と違う決断をした誰かを羨み、それを認めたくなくて自分の幸せアピールをする。
けれど、結局は虚しいだけ。
隣の芝生は青く見える、とは本当によく言ったものだ。
私にも覚えがある。
だからこそ、史子と美佳には気づいてほしい。
自分の庭にも、他人が青くて羨ましいと思う芝があることを。
見慣れているだけで、確かにあることを。
それはきっと、他人に言われてもよくわからないから。
早く、青い芝が確かにあるうちに、気づいてほしい。
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