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ペットショップ?
猫カフェ??
「ぐぬぬ……何じゃこりゃ……」
北の國から降りて来たミッションを見てピークは困惑した。調査先は北の國近くにある広場を横切り、2番目の路地を入った先にある、ほど良い広さのペットショップ。
表向きは健全で、テレビや媒体でCMを打っているペットショップだが、調査では資金洗浄、所謂マネーロンダリングの一翼を担っている、との事。
インテグレーション。出所を不明とした犯罪収益を、合法的な商法による収益として偽造する。先ずは下見として建物の構造等、簡単な潜入捜査からだ。
ピークはシャワーを浴びた後に、髭を整える。髪はいつものポマードを控えて、柔らか目のジェルで分け流す。
当たり障りの無いオフィサーシャツ、その上からウェストコートを羽織る。パンツは落ち着いた色のトラウザー。
更に大きめのレンズが特徴の丸眼鏡で、普段の怪しさを最大限打ち消す。
「……これじゃ、休日に娘と映画に行くパパじゃねぇか……」
ピークは独り、呟く。
「さて、ミケ。お出かけだぞ。魔改造装備が見えないように変装だ……」
ミケは、それを理解する。大体、このピークの歪な恰好を見れば察しは付く。シンパシーネックの左、1つ目のボタンを噛む。装着されている魔改造装備が体毛の奥に隠れていく。眼も、爪も、全てが普通の猫に見える。
「大人しくしてろよ……終わったら美味しい物喰わせっから。」
ピークは、ミケの頭をひとつ撫でる。ピークは自分用のコートを羽織り、ミケにも1枚着せる。
部屋を一歩出ると、冬が目の前に訪れて来た。
ゆっくりと吹き抜ける、凍てつく風。
遠くの森は既に白く染まり始めている。
空は重く、雲も重く、覆いかぶさって来るようだ。
静寂な町は今、本格的な冬の来訪を待つ。
ミケを連れて、ペットショップに向かう。
ギィィ……カラーンカラーーン…
「(いらっ)しゃ(いま)せぇッ!」
エプロンが似合う、若い女性が近づいて来る。
ミケの姿を確認すると、
「今日は、猫にゃんと猫カフェを御利用っスかぁッ?」
「あ……そうですね…猫カフェは初めてなんですが…」
「あざす!!では、こちらにどんぞッ!」
ピークは、待合室のような部屋に通され、椅子に座る。
ミケはバレないように怪訝そうな顔をしている。
「先ずは……ちょーーっと失礼しマッスルねッ!」
女性(猫の形をした名札には「カツヲ」と書いてあるが……)がピークに近づき、首元に鼻を寄せる…
「クンクン……うん匂いは大丈夫っスッ!香水や匂いの強い柔軟剤などは、猫にゃんのストレスになるのでッ!」
カツヲは、なんか変なグーサインを出しつつ、
出来てないウインクをかます。
「では、次に……入室前は手洗いを御願いするですッ!それと注意事項!!行きますよ!!猫カフェは静かな空間で猫にゃんと触れ合う場っす。大声を出したり、走ったりしないでくらはいッ!猫にゃんには無理に追いかけたりせずに自然の距離を保って接して行きやしょうッ!あと、トイレとか食事中は警戒心が強いので刺激しないようにしてチョッ!」
(にゃんにゃん、うるせーなおぃカツヲよぅ…………)
「説明は以上となりますが、何かご不明な点とかありますかにゃ?」
「…ないです……」
「あッ!写真撮られる時は、フラッシュ禁止ダにゃッ!」
「分かりました…」
「では、ゆっくり猫にゃんと触れ合ってくらはいねッ!!」
ギィ…
猫カフェの中には、数名の客と10匹近くの猫。静かなBGMが流れる中で、みんな思い思いに猫と触れ合っている。
床にはフカフカのラグマットが幾つも敷かれており、入口から遠い角近くに陣取る。取り敢えず……コーヒーでも飲むか。
ミケは、知らんぷりをしているが「あぁ、ここはこういう所かぁ」と言う顔をして一瞬、ピークを見た。
逆に猫カフェの猫達は、ミケを意識して警戒している雰囲気を醸し出している。猫カフェには2種類があり、1つは「一般猫カフェ」。家で猫が飼えない人々用、言わば憩いのカフェだ。
そしてもう1つは「保護猫カフェ」。野良猫、捨て猫や飼育放棄された猫達で、里親を募集している。今、ピークが居るカフェは後者……保護猫カフェである。
「なんだぁ……あの猫は……新人……じゃねぇよな」
1匹の猫がミケに近づいて来る。
ミケに顔を近づけ、啖呵を切る。
「なーに者んだぁ、てめぇはよぅ!!」
ミケは……相手にしない。ソッポを向いている。寧ろ他の猫がジャレている高速猫じゃらしが気になるようだ。
他のフリー猫数匹もミケに寄って来る。
啖呵猫はミケを舐めるように見つめ、自分の存在感・優位感を誇張する。
シャーーーー!!!
「ここは俺らの縄張りなんだよ!!
てめぇ!!無視してんじゃねぇぞドルァァ!!!」
カシャッ
ミケはソッポを向きながら、シンパシーネックのボタンを噛んだ。
啖呵を切った猫も、近寄った猫も、
或いは戯れ中の猫まで、一瞬動きが止まった。
ミケは、再度ボタンを噛んで普通の猫の「フリ」を続けた。前へ出て来た猫は……無言で引き返して行く。
ミケは、啖呵猫に近寄る。硬直した啖呵猫に、
「俺だって本当なら500回くらい死んでっからさ……多分。それでもこうやって未だに立ってる。まぁ、仲良くやろうぜ……」
啖呵猫は、ミケと匂いを共有してグルーミング。他のフリー猫も集まって来る。そのミケの主人であるピークは、もっと上位の格付けとなる。
ゆっくりコーヒーを飲みながら、猫ちゃんの写真を撮るフリをして、建物の内観を写真に収める為に、スマホを取り出す。
ぴょーーーーん
啖呵猫だ。啖呵猫がピークの膝上に乗って来た。
ミケはどうでも良い、という顔で他のフリー猫とじゃれ合っている。
ぐぬぬぬ…………
猫が膝に乗ると写真が撮れんではないか…………
ぴょーーーーん
2匹…………
ぴょーーーーん ぴょーーーーん
4匹…………
ぐぬっっっっ………………
終いには、ショップの猫ちゃんが客そっちのけでピークに群がる始末…………
「あは!ピークさーんッ!モテモテですねぇッ!」
し、仕事…………ぐぬっっっっ……
……建物の写真、1枚も撮れてねぇ……
…………………………
猫馬鹿坊主(ねこばかぼうず)
意味:日本では出入り口から一番遠い席が上座となり、そこに主人が座るというしきたりがある。そんな上座に、主人以外で言われなくても座るのは、猫・馬鹿・坊主くらいしかいないという慣用句である。
例:「あの子は本当に図々しいから、会議でも猫馬鹿坊主のように一番良い席に座るんだ」
…………………………