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ルールヴィ
第2章 予想外の展開(前編)
夜の帳が降りていた。
ほんの数分前まで、ベン・カイジェンは数千人の観客の歓声を浴びながら、世界王者のトロフィーを高々と掲げていた。
しかし今、彼はスタジアムのテラスでレイとジョプリと共に立ち、フィッシアーノでのこれからについて語り合っていた。
穏やかな夜風が吹き抜ける。
遠くには街の灯りが美しく輝いていた。
その時――。
ベンの笑顔が消えた。
全身が突然硬直する。
胸を鋭い痛みが貫いた。
力が抜け、その場に崩れ落ちそうになる。
「ベン!」
レイとジョプリが慌てて彼を支えた。
ベンの呼吸は次第に乱れ、額には大粒の汗が浮かぶ。
彼の視線は、まるで誰にも見えない何かを見つめているようだった。
「どうしたんだ!?」
レイが不安そうに問いかける。
ベンは胸に手を当て、震える声で答えた。
「……感じる。」
苦しそうに息を吸う。
「ものすごく強い……二つの気配を。」
しばらく沈黙が流れた。
やがてベンはゆっくりと顔を上げる。
その表情は青ざめていた。
「……父さんと母さんだ。」
ジョプリは眉をひそめた。
「本気で言ってるのか?」
ベンは静かにうなずく。
「あの二人のLEMは絶対に間違えない……。」
レイは考え込んだ。
「離婚はしたけど……。」
「だからって殺し合いなんて……。」
とても信じられなかった。
だが――
ベンの表情には迷いが一切なかった。
何キロも離れた山々で激突する二つのLEM。
その衝撃を、彼ははっきりと感じ取っていた。
鼓動が速くなる。
なぜだ。
なぜ二人が戦っている?
離婚してからも、仕事と私生活はきちんと分けていたはずだ。
なのに、どうして今――。
ベンは静かに目を閉じた。
数秒後、再び目を開く。
そこに焦りはなかった。
あるのは冷静さと覚悟だけ。
「レイ。」
「ジョプリ。」
落ち着いた声が響く。
「二人はみんなと一緒にパーティーへ行ってくれ。」
二人は顔を見合わせた。
「何言ってるんだ。」
ジョプリは即座に答える。
「俺たちも行く。」
レイも力強くうなずいた。
「三人なら止められる。」
しかしベンは首を横に振る。
「いや。」
たった一言。
それだけで二人は口を閉ざした。
「これは家族の問題だ。」
「俺一人で行く。」
その瞬間――
轟ッ!!
突風が吹き荒れた。
三人の髪が激しくなびく。
地面が震え始めた。
ベンの身体から莫大なLEMが溢れ出す。
テラスのガラスが激しく揺れ、
植木は圧倒的な気迫に押し倒されていく。
ジョプリは思わず息を呑んだ。
「このLEMは……。」
レイは拳を握り締める。
「ベン……。」
ベンは何も言わなかった。
そのまま静かに宙へ浮かび上がる。
数メートル上空まで身体が上昇し――
ドォンッ!!
凄まじい衝撃波がテラスを駆け抜けた。
次の瞬間、
ベンの姿は夜空の彼方へと消えていた。
あまりにも速かった。
数秒後――
バンッ!
勢いよく扉が開く。
「ベン!」
駆け込んできたのはメイだった。
彼女は夜空を見上げ、
続いてレイとジョプリを見る。
「何があったの!?」
「どうしてベンが飛んで行ったの!?」
レイは無理に笑顔を作る。
「心配するな。」
「ちょっと用事ができただけだ。」
「あとでパーティーに来るよ。」
メイはゆっくりとうつむいた。
数秒間の沈黙。
そして再び顔を上げる。
「……嘘。」
二人は固まった。
「さっきのLEM。」
「ものすごく不安で、苦しそうだった。」
「私には分かった。」
再び静寂が訪れる。
やがてジョプリが大きくため息をついた。
「……その通りだ。」
「ベンを一人にはできない。」
彼はレイを見る。
「行くか。」
レイは即座にうなずいた。
「ああ。」
「でもLEMは隠す。」
「俺たちが後を追っていることは知られちゃいけない。」
メイは小さく微笑んだ。
「もちろん。」
三人は同時に夜空へ飛び立つ。
その様子を、
近くの廊下から静かに見つめる女性がいた。
腕を組み、
優しく微笑んでいる。
キム。
リッセスの監督であり、
メイの母親だった。
彼女は三人の会話をすべて聞いていた。
それでも止めることはしない。
夜空へ消えていく四人の姿を見送りながら、
小さく呟く。
「ちゃんとパーティーには戻ってきなさいよ。」
その笑みには、
母親としての優しさが込められていた。
――その頃。
ベンは凄まじい速度で夜空を駆け抜けていた。
近づくにつれ、
二つのLEMはさらに激しさを増していく。
遠くの山々では爆発が起こり、
大地は雲の上まで震えていた。
(どうしてだ……。)
(どうして二人が戦っている……。)
(何があったんだ……。)
ベンは歯を食いしばる。
その時だった。
突然、飛行を止める。
目の前に、一人の男が立っていた。
空中に浮かび、
ポケットに手を入れたまま、
穏やかな笑みを浮かべている。
「悪いな、ベン。」
「ここから先へは行かせられない。」
ベンはすぐにその男の正体に気付いた。
「……ニック。」
父・カモティの親友。
そしてフィッシアーノの幹部の一人。
ニックはいつも通り穏やかに笑っていた。
まるで今起きていることが当然であるかのように。
ベンは鋭い眼差しを向ける。
「そこをどけ。」
冷え切った声だった。
「その前に一つ教えろ。」
「どうして父さんと母さんは戦っている?」
ニックは笑みをさらに深くした。
腕を組み、
静かに口を開く。
「サッカーに夢中になっている間に……。」
「お前はずいぶん大事なことを見落としていたようだな。」
「ベン。」
「お前も、随分と甘くなった。」
ルールヴィ
第2章 予想外の展開(後編・その2)
ベンは突然飛行を止めた。
目の前には、一人の男が宙に浮かんでいた。
ポケットに手を入れ、口元には薄い笑み。
ニックだった。
カモティ・カイジェンの親友の一人。
そしてフィッシアーノでも指折りの幹部社員である。
その表情に焦りはまったくない。
まるで最初からベンを待っていたかのようだった。
「悪いな、ベン。」
「ここから先へは行かせられない。」
「引き返せ。」
ベンは拳を強く握り締める。
その瞳には揺るぎない決意が宿っていた。
「何をしている、ニック。」
「どうして父さんと母さんは戦っている?」
ニックは小さく笑った。
「昔のお前は、もっと鋭かった。」
「サッカーに夢中になりすぎたせいで、大事なことが見えなくなったようだな。」
腕を組み、静かに続ける。
「気付いていなかったのか?」
「離婚してから、あの二人の関係はずっと悪化していた。」
ベンはすぐに言い返した。
「父さんと母さんのことを、お前に教えられる筋合いはない!」
「二人は二年前に離婚した。でも仕事では常に割り切っていた!」
ニックの笑みが深くなる。
「本当にそう思うか?」
彼はベンを真っ直ぐ見つめた。
「じゃあ教えてくれ。」
「どうして、お前は知らない?」
「母親が半年前に自分だけの高級ブランドを立ち上げたことを。」
世界が止まったようだった。
ベンは言葉を失う。
「……何だって?」
ニックは淡々と続けた。
「どうしてそんな大事なことを知らずにいられた?」
ベンの鼓動が一気に速くなる。
今日だけで、信じられない出来事が次々と押し寄せていた。
しかし、その中でも今の言葉は最も衝撃的だった。
「何を言ってる……。」
「母さんが……ブランドを?」
「そんなはずない……。」
「一度も聞いたことがない。」
ニックは静かにうなずく。
「だが事実だ。」
「ブランド名は――フェルナンド。」
「旧姓をそのままブランド名にした。」
「世界中から優秀な社員を集めている。」
「ロッテ。」
「ガンモ。」
「ラッサ。」
「レガン。」
「全員がフィッシアーノを辞め、彼女のもとへ移った。」
ベンは息を整えることさえ難しかった。
「……だから何だ。」
「それで二人が戦う理由にはならない!」
「ラグジュアリークラブまで、まだ三か月ある!」
ニックは迷わず答えた。
「母親はすでに新しいコレクションのデザインを始めていた。」
「それをフェルナンドのものとして持ち出そうとした。」
「カモティは拒否した。」
「当然の判断だ。」
ベンの怒りが一気に膨れ上がる。
「……お前は。」
「それを正しいと思っているのか!」
「二十年以上もあの二人を見てきただろ!」
「それなのに戦わせるのか!」
「ふざけるな!」
ベンは一歩前へ踏み出す。
「そこをどけ、ニック。」
「二度は言わない。」
ニックは微動だにしなかった。
その目が鋭く変わる。
ゆっくりと戦闘態勢を取った。
「カモティから命令されている。」
「誰一人として通すな、と。」
「息子のお前でも例外じゃない。」
挑発するような笑みを浮かべる。
「お前がボールを追いかけていた三年間……。」
「俺は世界一のブランドにふさわしい男になるため、鍛え続けてきた。」
右手を前へ突き出す。
身体中を奇妙なエネルギーが駆け巡った。
「よく見ろ。」
「俺のLEMを。」
LEM――
《鏡水(LEM)》。
すべての生命が持つ生命エネルギー。
体内の水と融合することで、自分とは正反対の姿を肉体と精神の両面に具現化する力。
その力を引き出すため、使用者は自らの肉体と精神を意図的に弱体化させる。
弱くなることで――
本当の強さを得る。
ニックの身体が変化を始めた。
筋肉が一瞬しぼみ、
顔色が青白くなる。
次の瞬間――
轟ッ!!
巨大なLEMが山一帯を包み込んだ。
筋肉が爆発的に膨れ上がる。
瞳は鋭く輝き、
圧倒的な威圧感が周囲を支配した。
ニックは笑う。
一瞬で姿が消えた。
「遅い!」
ドンッ!!
拳がベンの顔面へ叩き込まれる。
二発。
三発。
四発。
容赦ない連打が降り注ぐ。
それでもベンは反撃しなかった。
すべての拳を受け止め続ける。
その頃――
数キロ離れた場所。
レイ、ジョプリ、メイの三人も、そのLEMの爆発を感じ取っていた。
「ベンだ!!」
メイが叫ぶ。
やがてニックは攻撃を止めた。
満足そうにベンを見下ろす。
ベンの鼻から一筋の血が流れていた。
しかし彼は手の甲で軽く拭うだけだった。
まるで何も感じていないように。
「ずいぶん気が済んだみたいだな。」
ベンは薄く笑う。
「前から一度、俺を殴ってみたかったんだろ。」
その瞬間、
彼の瞳が変わる。
「だが、お前には興味がない。」
「殺しはしない。」
「少し現実を教えてやる。」
轟ォォォッ!!
凄まじいLEMがベンの身体から噴き上がる。
暴風が吹き荒れ、
雲が吹き飛ぶ。
筋肉が引き締まり、
髪が激しく揺れる。
拳を握り、
ベンも静かに構えを取った。
ニックの額を一筋の汗が流れる。
「そんなもの……。」
声にはわずかな動揺が混じっていた。
「前と同じLEMだからって……俺には――」
バァァァン!!
山全体に轟音が響き渡る。
無数の鳥が一斉に飛び立った。
まるで銃声のような衝撃。
しかし――
それはベンの拳だった。
腹部へ突き刺さる一撃。
ニックの目が見開かれる。
息が止まった。
「な……。」
「何だ……今の拳は……。」
「まったく……見えなかった……。」
ベンは静かに答える。
「これは。」
「サッカー選手の拳だ。」
「だが――」
「自分の本当の姿を、一度も忘れたことはない。」
「俺はカモティ・カイジェンと。」
「メリー・フェルナンドの息子だ。」
「地球最強の二人の子供。」
口元に小さな笑みが浮かぶ。
「空っぽの抜け殻にしては、悪くないだろ?」
ニックは腹を押さえる。
痛みで身体が震えていた。
頭に浮かぶのは一つだけ。
あり得ない……。
三年間サッカーしかしていなかった男が……。
いつ、ここまで強くなった……?
それでもニックは諦めない。
「まだ……終わってない!!」
再び突撃する。
拳が嵐のように襲い掛かる。
だが――
ベンはすべてを紙一重でかわしていく。
「いつか必ず当ててやる!!」
ニックが叫んだ瞬間。
ベンはその手首を掴んだ。
握力は凄まじく、
腕が砕けそうになる。
「地面へ帰れ。」
「お前にできるのは、それだけだ。」
ベンは肘を振り上げる。
ズガァァン!!
肘がニックの頭頂部へ叩き落とされた。
凄まじい衝撃。
ニックの身体は地面へ吹き飛ばされる。
岩を何枚も突き破り、
最後は山肌へ激突した。
静寂。
ニックは完全に意識を失っていた。
ベンは数秒だけ彼を見つめる。
何も言わない。
やがてゆっくり顔を上げた。
遥か彼方。
二つの巨大なLEMが、
今なお激しく衝突していた。
「……あそこか。」
そう呟くと、
ベンは再び夜空へ飛び立った
ルールヴィ
第2章 予想外の展開
第3部(前編)
荒々しい岩山の奥深く――。
二つの人影が静かに向かい合っていた。
激しい戦いによって、大地は至る所で砕け、巨大な岩壁には無数の亀裂が走っている。
一人は、世界最高級ブランド「フィッシアーノ」の代表――カモティ・カイジェン。
腕を組み、まるで遊び相手を見るような余裕の笑みを浮かべていた。
その正面には、息を切らしながらも力強く立つメリー・フェルナンド。
彼女の瞳には、決して揺るがない決意が宿っている。
何としてでも、自分のコレクションを取り戻す。
その一心だった。
カモティは小さく笑う。
「メリー……その程度の力で私に挑みに来たのか?」
「ラグジュアリークラブまでは、まだ三か月ある。」
「もう少し鍛えてから来るべきだったな。」
メリーは荒い息を整えながら、鋭く睨み返した。
「黙りなさい……。」
「私はあなたを倒す。」
「そして、私のコレクションを取り戻す。」
彼女は拳を強く握る。
「でも……この戦いはコレクションだけが理由じゃない。」
「あなたも、それは分かっているでしょう。」
カモティの笑みが少しだけ消えた。
「なら話そう。」
「もっとも、理由はもう分かっているがな。」
彼は静かに言う。
「私が敵を始末することが気に入らない。」
「それとも……シシニアを解雇したことか?」
その名前を聞いた瞬間、メリーの表情が変わる。
怒り。
悲しみ。
様々な感情が入り混じる。
「シシニアのお母さんは病気で亡くなった。」
「彼女は深い悲しみの中にいた。」
「確かに仕事でミスはした。」
「でも、あなたは一度も彼女を理解しようとしなかった。」
メリーは強く言い放つ。
「仲間を守れないリーダーに、人を率いる資格なんてない!」
カモティは冷たく鼻で笑った。
「部下の感情など、私には関係ない。」
「私の下で働くなら、私情は捨てろ。」
「シシニアのミスは一度や二度ではない。」
「顧客の注文を何件も忘れた。」
「そのせいで、格下の相手に殺されかけたことまであった。」
「フィッシアーノの名に泥を塗った。」
「だから切り捨てただけだ。」
メリーは首を横に振る。
「彼女は私のブランドへ来る。」
「そして私たちは一緒に勝つ。」
彼女の瞳は揺るがなかった。
「あなたの残酷なやり方も。」
「冷酷な考え方も。」
「夫だった頃は耐えられた。」
「でも、もう限界よ。」
その瞬間――
メリーは地面を蹴った。
凄まじい速度でカモティへ突進する。
拳に全ての力を込め、一撃を放つ。
しかし――
カモティは片手でその拳を受け止めた。
ドォン!!
衝撃だけで周囲の岩山が震える。
それでもメリーは止まらない。
拳。
蹴り。
連続攻撃。
ありったけの力をぶつけ続ける。
だがカモティは腕すら使わない。
両手を組んだまま――
脚だけで全ての攻撃を受け流していく。
まるで遊んでいるかのようだった。
ルールヴィ
第2章 予想外の展開
第3部(中編)
その一瞬の隙を突き――
ドン!!
カモティの膝が、メリーの腹部へと突き刺さった。
「ぐっ……!」
衝撃でメリーの身体は大きく吹き飛ぶ。
何度も岩肌を滑りながら、それでも倒れまいと踏みとどまる。
息は荒い。
全身は悲鳴を上げている。
それでも――
諦めるつもりはなかった。
「まだ……終わってない!」
メリーは右手を前へ突き出す。
掌にLEMを集中させると、水のように揺らめくエネルギーが集まり始めた。
やがて、そのエネルギーは灼熱の球体へと姿を変える。
「これで終わりよ!!」
轟音とともに、灼熱の水球がカモティへ向かって放たれた。
ドォォン!!
爆発が山々を揺らす。
砂煙が辺りを覆い尽くした。
やがて煙が晴れる。
カモティは攻撃を受けていた。
わずかに体勢を崩し、一歩後ろへ下がる。
その一瞬を、メリーは見逃さない。
「今だ!!」
全力で距離を詰める。
渾身の一撃を叩き込もうとした、その瞬間――
身体が止まった。
「……え?」
腹部に奇妙な違和感が走る。
視線を落としたメリーは息を呑んだ。
自分の身体の前に、巨大な円形の紋様が浮かび上がっている。
その中央に描かれていたのは――
ピアノ。
「まさか……。」
「あなた、いつの間に……!」
メリーは驚きを隠せなかった。
カモティは静かに微笑む。
「もう三十年の付き合いだというのに。」
「まだ気付かなかったのか。」
彼はゆっくりと両手を持ち上げた。
まるで本物のピアノを前にしているかのように。
指先が静かに動き始める。
存在しない鍵盤を奏でるように。
美しく――
そして、不気味な旋律が山全体へ響き渡った。
「犯罪の旋律(はんざい の せんりつ)」
その言葉と同時に――
腹部に浮かんだピアノの紋様が眩しく輝く。
バチィィィィッ!!
凄まじい電撃がメリーの全身を駆け巡った。
「きゃああああああっ!!」
絶叫が山々へこだまする。
全身が激しく痙攣し、膝をつく。
それでも必死に立ち上がろうとするメリー。
しかし、力が入らない。
カモティは静かに指を止めた。
旋律は終わる。
山に再び静寂が訪れる。
彼は冷たく言い放つ。
「ここまでだ、メリー。」
「コレクションは置いて……」
「自分の店へ帰れ。」
その時だった。
「やめろ!! 父さん!!」
若い男の声が山中へ響き渡る。
カモティがゆっくり振り向く。
そこには――
息を切らしながら駆け寄るベンの姿があった。
ルールヴィ
第2章 予想外の展開
第3部(後編)
ベンは迷うことなくメリーのもとへ駆け寄った。
倒れかけた母の身体を、すぐに支える。
「母さん!」
メリーはゆっくりと目を開けた。
「……ベン。」
その様子を見たカモティは、いつものように穏やかな笑みを浮かべる。
「よう、息子。」
「決勝戦はどうだった?」
ベンは父を鋭く睨みつけた。
その瞳には怒りが宿っている。
「ニックに全部聞いた。」
「二人とも、一体何をしているんだ!」
まず母へ視線を向ける。
「母さん……。」
「どうして新しいブランドを作ったんだ?」
続いて父を見る。
「父さん!」
「母さんに『犯罪の旋律』なんて技を使う理由があるのか!?」
カモティは表情一つ変えない。
「ここまで来るつもりはなかった。」
「だが、お前の母は頑固だからな。」
そして静かに続けた。
「今のメリーは、私たちの敵だ。」
その言葉に、ベンは息を呑む。
カモティは真っすぐ息子を見つめた。
「ベン。」
「お前は、どちらの側につく?」
山に静寂が訪れる。
ベンは拳を強く握り締めた。
「どちらも選ばない。」
力強い声が響く。
「二人とも、俺の親だ!」
「俺たちは家族じゃないか!」
「今日の試合が終わったら……。」
「三人で一緒にフィッシアーノを盛り上げていける。」
「俺はずっと、そう信じていたんだ!」
メリーは何も答えない。
しかし、その表情からは複雑な感情が読み取れた。
カモティは静かに指を動かす。
メリーの身体に刻まれていたピアノの紋様がゆっくりと消えていった。
そして、そのまま背を向ける。
「父さん!」
ベンが叫ぶ。
「まだ話は終わってない!」
カモティは立ち止まった。
だが振り返らない。
「今のお前は冷静じゃない。」
「無理もない。」
「受け入れ難い真実を知ったばかりだからな。」
彼は空を見上げる。
「だが、いずれ決断しなければならない。」
「選ばなければ……。」
「お前はフィッシアーノへ戻ることはできない。」
少しだけ間を置き、
静かに言った。
「決心がついたら、私に連絡しろ。」
そう言い残すと、
カモティは空高く飛び立ち、その場を去っていった。
再び静寂が訪れる。
緊張の糸が切れたのか、
メリーの身体が大きく揺れた。
ベンは慌てて支える。
「母さん、大丈夫?」
しかし――
メリーはベンの手を静かに払いのけた。
「……ベン。」
「もう、この件には関わらないで。」
「これは……。」
「あなたのお父さんと私の問題よ。」
ベンは首を横に振る。
「無理だよ!」
「二人が戦っているのを見て、何もしないなんてできない!」
「どうしてブランドなんて作ったんだ?」
「一度も話してくれなかったじゃないか!」
「全部やめてくれ!」
「父さんのところへ戻ろう!」
「そうすれば、また三人で――」
「もう”私たち”なんて存在しない!!」
メリーの叫びが、山全体に響き渡る。
ベンは言葉を失った。
メリーは怒りと悲しみを押し殺すように震えていた。
「私たちは、もう家族じゃない。」
「その現実を受け入れて。」
ベンの瞳が揺れる。
「……母さん。」
しばらく沈黙が続いたあと、
メリーは少しだけ優しい表情になった。
「あなたにどちらかを選べとは言わない。」
「それがどれほど辛いことか、私は分かっている。」
彼女は静かに目を閉じる。
「でも……。」
「私とお父さんの問題には、もう関わらないで。」
「私たちに……。」
「やり直しはない。」
「ごめんね。」
そう言い残し、
メリーも空へ飛び立った。
その場には、
ベンだけが残された。
壊れた岩山。
静まり返った空。
誰もいない戦場。
ベンはゆっくりと膝をつく。
涙が止まらない。
そして――
拳を地面へ叩きつけた。
「くそおおおおおっ!!!」
その叫びは、誰もいない山々へ虚しく響き渡った。
ベン・カイジェン。
二十歳。
彼の本当の戦いは――
今、この瞬間から始まる。
――第2章 完――
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おお、第2章読み終えたわ…いやあ、家族の重い過去が一気に表面化してきたな。 ベンがサッカー世界王者になった直後に父母の戦いを感知して飛び出していく展開、めっちゃ熱い。特に「どちらも選ばない」って言ったシーンは胸がギュッとなったよ。親の離婚・確執って子供にはどうしようもないもんな…。 ニック戦での「サッカー選手の拳だ。でも自分の本当の姿を忘れたことはない」ってセリフ、痺れた。3年間サッカーに集中してても本質は変わってないって示すのがカッコよかったわ。 父母それぞれの事情も結構複雑で、単純な善悪じゃない感じがリアル。続きが気になる!🔥
#家族関係
Shax91
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58
眠狂四郎
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