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「黄泉戸喫(よもつへぐい)だな」
部屋のテーブルに並べられた料理だったものを見て、白紙さんは言った。
僕があんなにおいしそうだと思っていた料理は、全て幻想だった。
元々、料理ではなくゴミや腐った食材などが並べられていただけのようだ。
「ヨモツヘグイってなんですか?」
「黄泉戸喫は簡単に言うと、黄泉の国の食べ物を食べることだ。食べると、もう黄泉の国から戻れない」
「つまり僕はこれを一口でも食べていたら、死んでいたってことですか?」
「そうだ。間に合ってよかったな」
背筋が寒くなった。白紙さんからの電話がなければ、僕はとっくにこの世にいなかっただろう。
改めて彼に感謝だ。
「でもこの女性はどうして僕を殺そうとしたんでしょうか」
「それはあの女が心霊スポットHの幽霊で、なおかつあの場に、取り憑けそうなのがお前しかいなかったからだろう」
「ただそれだけで……ですか」
「悪霊はいつも仲間を探している。お前、あの女がどうして死んだのか知ってるか」
僕は黙って首を振った。あくまで心霊スポットHの噂話しか知らない。
「悪霊はいつも仲間を探している。お前、あの女がどうして死んだのか。知ってるか」
僕は黙って首を振った。あくまで心霊スポットHの噂話しか知らない。
「時期は不明だが、かなり前の話だ。浮気された女が男を刺殺した後に、近くの公園のトイレで自殺した事件があった」
その話を聞いてドキリとした。
先程僕は、もう一人の誰かを体感していた。
その時に、まゆかという名前が出てきたとき、僕はばれないようにしなければならないと焦っていた。
「話を来た限りでは、さっきのお前は当時の状況を体感したといっていいだろう。殺された男の立場にされた同行者くんは、そのまま同じ運命を辿るところだった」
僕の体には、まだ殺された男性の記憶が残っている。
その時にどう思ったのか、それよりも前はどう人生を歩んできたのか。
まるで自分の記憶のように、思い出すことができる。
だが何よりも強烈な記憶があった。あの女性が、楽しそうに微笑む姿だ。
二人で幸せになることは、できなかったのだろうか。
「そろそろ出るぞ」
白紙さんは、玄関の扉を開けて立っていた。外にはただ真っ白い世界だけが広がっている。
「これってなんなんですか?」
「俺にも正確なことはわからない。だが、こういう風に世界から隔絶された空間を作り出せる霊もいる。今回は記憶の中というところだろう」
白紙さんが光の中に踏み出すと、姿が見えなくなった。
僕も慌てて後を追う。
次の瞬間には、家の玄関の前にいた。
あたりに音が戻ってくる。
車の走る音や、風の音。
世界には想像以上に、色んな音が溢れていた。
念のため家の扉を開けてみると、そこには本当の僕の家があった。
テーブルの食事や、落ちていた包丁もない。
無事に帰ってきた。
白紙さんにこのことを報告しようと振り向くと、アパートから少し離れたところまで歩いている。
僕は家の鍵をかけて、走って後を追った。
「白紙さん」
「なんだ」
白紙さんの横顔は、いつもよりずっと生気がなかった。
心なしか、息遣いも荒い。
「さっきの女の人はどうなったんですか」
ぴたりと白紙さんは立ち止った。
電柱の光が、彼のいつもより青白い顔をさらに強調している。
「消えた」
「そういうことじゃないですよ。僕ちゃんと見たんです。あの女性はお腹からねじ切られたようになっていました。そのあと、下半身もなくなった。それに白紙さんからは、何か得体のしれないものを感じました」
僕はしっかりと白紙さんの目を見て答えた。
最初の面接とは対照的に、今度は白紙さんがふいっと顔を逸らした。
「もし聞けば、お前はこのまま手伝ってくれるのか」
一瞬何を言われているのかわからなかった。
呆けていると、白紙さんの目が僕をじっと見据えた。
答えはもう決まっている。
「もちろんです。命の恩人の手伝いをしないなんて、男が廃りますよ!」
白紙さんはふっと笑った。いつものふてぶてしい笑みだ。
「俺は、二十五歳で死ぬ」
これは、余命だろうか。
何か不治の病にでもかかっているから、この顔色の悪さなのかもしれない。
「白紙さん、今いくつですか」
「二十三だ」
「あと二年しかないじゃないですか。何かの病気なんですか?」
どんな物事も、自らの手で無理矢理こじ開けていきそうな白紙さんが、死ぬ……。
正直、僕には実感が湧かなかった。
「ふっ、まあ病気もあながち間違いではないかもしれないな」
自虐的な笑みを浮かべた白紙さんは、電柱の下でゆっくりとしゃがみこんだ。
「これは呪いだ。俺は神に呪われている」
神とは、あの神様のことだろうか。
幽霊ではなく、神。
「じゃあさっきの女性は……」
「その通り。奴は俺に害をなそうとしたから喰われた。自らの食事を守るために、排除されたんだ」
「そんな……それだと白紙さんが食べられるみたいじゃないですか」
「その通りだ。俺はその呪いを解いくために、心霊スポットに行っている。ひょっとしたら神に勝てる大物がいる可能性に賭けてな」
白紙さんの発言が腑に落ちた。
あの時の違和感は、これだった。
Hで言っていた「ここもだめか」という言葉だ。
既に視聴者の間では怪奇現象が起こっていたのだから、配信としては大成功のはずだ。
あのだめは、選別の結果だったのだ。
「俺が近づけば、霊は逃げていく。
だから今まで、何一つとして成果が上がっていない」
強烈な食事の光景を考えれば、不可能に思える。
一瞬で、体が震えあがってしまう。
あの存在は、強烈な悪意の塊だった。
「そこで同行者くんの出番だ」
「え? 僕ですか?」
「お前にはこうして幽霊が寄り付くという結果が出た。それは嬉しい誤算だ」
なんだか嫌な予感がした。
「これを使わない手はないだろ?」
「あの、やっぱりさっきのは……」
「さっき自分で言ったはずだ。俺を命の恩人だと」
僕の選択は、間違っていたのだろうか。
「これからよろしく頼むよ、同行者くん」
白紙さんは、青白いその顔にふてぶてしい笑みを浮かべた。
コメント
1件
みぅだよ🤍🥀 今回の話、めっちゃゾクゾクした…!「黄泉戸喫」の仕掛けも怖かったけど、白紙さんの正体が少しずつ見えてきたのがすごく気になる。特に「俺は神に呪われている」って言った瞬間、背筋が冷えたよ。それで心霊スポット巡ってたんだね。主人公(同行者くん)の「はい、そうです!」って返しが純粋すぎて逆に切なくなる…最後の「これからよろしく」の笑顔、めっちゃ不気味で続きが気になる!
#最後はハッピーエンド予定
#衝撃のラスト
山根利広
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