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「健……」
紗羅は恐る恐る、その額に手を伸ばした。
毛並みはまだ逆立ち、熱を帯びている。
それでも……震えていた。
『俺は……また、紗羅を……』
低くかすれた声が、獣の喉から零れ落ちる。
その瞬間、紗羅の胸に刺さるような痛みが走った。
「いい。私、ここにいるから……」
そう言って頬をなぞると、健はゆっくりと紗羅の上から退いた。
重みが消え、紗羅はようやく息を吐く。
だが……
『……アカン』
健は両手(半分は爪のまま)で顔を覆った。
『次、我慢できる自信……ない』
その声には、人間の理性と獣の渇きがせめぎ合う響きがあった。
夜風が吹き抜け、二人の間に月明かりが差し込む。
『俺……やっぱ、お前のそばおったら……危ない……。』
そう言い残し、健は踵を返し、林の奥へと消えようとする。
「待って!」
叫んで手を伸ばした時……
ガサリ、と茂みが揺れ、低い声が響いた。
〔……やっと見つけたぞ、化けオオカミ〕
見知らぬ男が、銀色の短剣を手に立っていた。
その刃先は、真っ直ぐ健へ向けられていた。