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#狂愛
柏木さくら
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臣桜
213
90
「みんな、自分のことばっかり! 誰も子供のことを考えてくれないのね」
そう言うと、瀬里香はお腹に手を当てた。
「いちばん可哀想なのは、この子じゃないの?
この子には何の罪もないのに、命を授かった時から ずっと辛い立場に立たされてんだよ?」
皆一斉に、深刻な表情に変わった。
「陸斗、 あなたは父親なんだよ。ほんの一欠片でも、親になるっていう自覚はあるの?」
「あるよ! だから子供が出来たと聞いた時、すぐにお義父さん達に報告しようって言ったよね」
「それは、自分にとって都合が良くなったからじゃなくて?」
「リゾートホテルに泊まった時も、瀬里香は疲れてるみたいだったし、お腹の子のことも考えて レストランで夕食摂るのは控えたよね」
焦りながらも、陸斗は必死だった。
「面倒臭かっただけじゃないの? それに、緑さんと食事をするために隠した朝食券も 確保しとかないといけなかったし」
陸斗は何も言えなくなり、思わず俯いた。
「謝ってよ! この子に。 ちゃんと謝って!!」
「…ごめんなさい」
陸斗は瀬里香のお腹に向かって頭を下げた。
「私ね、もう子供を授かるのは難しいかなって どこかで諦めかけてたの。…でも陸斗に出会って 初めての恋愛で嬉しかったし、結婚して ずっと欲しかった子供にまで恵まれて、凄く幸せな気持ちになった。陸斗のこと愛してるし、生まれてくる赤ちゃんは、愛しくて…堪らないし…」
瀬里香の頬を、涙が伝った。
徹は、哀しくも愛しげに 瀬里香を見つめていた。
「私、ぼおっとしてておっちょこちょいだけど いい奥さんになろうと決めて、私なりに頑張ってたんだ」
勇次郎と美愛子は目に涙を溜め、瀬里香を見つめていた。
緑は俯き、零れ出る涙を何度も拭ぬぐった。
「ママになったら、子供にあんなことしてあげたい、こんなこともしてあげたいって…」
陸斗は、まだ小学生だった頃を思い出していた。
あの頃 光洋と母の多江子たえこは、2人で仲睦まじく 店を営んでいた。
いつも忙しそうだったが、母は陸斗や徹のことは 何かと気にかけてくれていた。
決して裕福な暮らしではなかったが、家の中は いつも温かかった。
母の笑い声に満たされ、陸斗は幸せだった。
「うちの親みたいに 夫婦で仲良く暮らして、子供には 愛情をたっぷりあげて…」
瀬里香の言葉が、陸斗の頭の中で 自分の家の過去を蘇よみがえらせていく。
母が出て行った後、家の中はまるで 闇に包まれた様になった。
と同時に、陸斗は光洋が時々 多江子に言っていたことを思い出した。
『早くしろ! 全くお前は要領が悪いんだから』
中学生の時、見知らぬ男性と母が蒸発したのは、思春期の上に 母を慕っていた陸斗には衝撃的な出来事だったが 今思うと、もしかすると 光洋にもそうさせてしまう原因があったのではないか…陸斗は、ふとそう思った。
これまでずっと父に言い聞かされ 母だけを悪者わるものにしてきたが、そうとばかりは言い切れなかったのかもしれないと 陸斗は今この時、初めて気が付いた。
「やっと掴んだと思った恋は、自分が思ってたのとは違ってたんだね。やっぱり、私みたいなおバカさんは 愛される資格なんかないんだ」
そう言って、瀬里香は悲しそうに笑った。
「そんなこと…ないと思いますよ」
ふいに 緑が口走った。
コメント
1件
うわ、この話めっちゃ重い…でもすごく引き込まれた。瀬里香が「この子に謝って」って迫るシーン、胸がギュッてなったわ。陸斗が過去の母親のことを思い出して「父にも原因があったかも」って気づくところ、あれ良いよね。強さで殴るバトルも好きだけど、こういう心理描写の解像度高い作品も好きだわ。続きめっちゃ気になる🔥