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ブブブブとスマホが振動する音が聞こえる。
「…なに、もう朝なの?」
カーテンの隙間からは暖かい五月の太陽の光が差し込んでいた。
私は、ベッドから上半身を起こして大きく伸びをしながら今日の予定を考える事にする。
今日は土曜日。普段なら何も予定はないのに、カレンダーには大きな赤い丸がつけられていた。
「やばっ!今日はミツル君と遊ぶ日じゃん!」
慌ててベッドから飛び出して机の上に乱雑に置いていたクシとドライヤーをとる。霧吹きで髪を濡らし、ドライヤーの風を当てながらくしで寝癖を直す。いつもなら数分で終わらすけど、心配になって何度も何度も髪をとく。
ミツル君は、近所に住んでいる小学三年生だ。私は高校一年生なので、かなりの歳の差がある。
私は一人っ子で下の子が欲しかったから、ミツル君を弟のように可愛がっていた。
「ミツル君……」
顔を洗いながら、彼の名前をつぶやく。ミツル君はおでこの隠れたマッシュの良く似合う可愛い男の子だ。まるで女の子のように華奢な体と、他人の事を思いやれる優しさを兼ね備えていた。もし同い年だったら、まさしく理想の彼氏と言えるだろう。
朝ごはんを食べ終えて、約束の公園に向かう。
ベンチで座って待っているとミツル君が走ってこっちに来た。
「ユリさん、おはようございます!」
「おはよう、ミツル君」
手招きして、ミツル君を隣に座らせる。
「ミツル君、今日は何して遊ぼっか?」
私が問いかけると、ミツル君は目をキラキラさせながら考え始めた。
「うーん、鬼ごっこもしたいし、ブランコもしたいな……えっと、他には…」
私に一生懸命伝えようとする姿が愛おしくて、彼の頭をゆっくり撫でる。
「うんうん、いっぱい遊ぼうね」
ミツル君は私に撫でられるのが好きらしく、猫みたいにすり寄ってくる。
「…遊ぶ前に、もっと撫でてほしいです」
「うん、わかったよ。よーしよーし……」
ミツル君は人見知りな性格だけど、私にだけは打ち解けてくれる。彼のこんな甘えた姿を見れるのは私だけだと思うと、つい独占欲が湧いてきてしまう。
そのまましばらく撫でていると、私の胸の辺りに顔を埋めて、抱きついてきた。
「ユリさん好き……あったかい…」
最近、高校に入学したばかりで生活が慌ただしく、しばらく会えていなかった。
久しぶりに私を見て、我慢ができなくなったのだろう。
「ふふふ、好きなだけぎゅーってしてていいからね」
一人の女子として、胸を見られるだけでも性的に嫌悪感を抱いてしまうけど、ミツル君は違う。純粋無垢な彼の素直な欲求の前では、こちらも幸せな気分になるのだ。
やがて、彼の小動物のような腕が離れると、今度は私の手をとった。
「ユリさん、鉄棒しましょう!僕、やっと逆上がりが出来るようになったんです!」
ミツル君が、小さい時にしか出来ない無邪気な笑顔で私に話しかける。
私もそれを真似するようにニッコリ笑い、ベンチから立ち上がった。
まだ春の陽気が残った、身も心も軽くなるような一日だった事を覚えている。