TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
Love Potion

一覧ページ

「Love Potion」のメインビジュアル

Love Potion

55 - 第55話 それぞれの行方

♥

31

2024年09月17日

シェアするシェアする
報告する

「最近わかったんですが、僕と美月さんは幼い時、友人関係でした。彼女のご両親も知っています。縁があって、こうやって再び知り合うことができたのですが。僕が願うのは、彼女の幸せとシリウスの安泰です。最初にお伝えした通り、九条社長には孝介さんと美月さんの離婚の承諾と、九条グループとの業務提携の話を《《円満》》に白紙にしていただきたい、それだけです。あと、これは後々の話になるのですが、玩具のサブスクにも興味がありまして。遠坂社長には相談中なのですが、ベリーズトイを買収させていただきたいと思っております。友好的買収で話を進めていきたいんですけどね」


そう言って迅くんは微笑んだ。


遠坂社長!?

ベリーズトイって私のお父さんの会社じゃない!!

そんなこと聞いてない!


言葉を発しそうになったが、堪えなきゃ。


「わかりました。離婚は孝介の父親として承諾します。美月さんには本当に申し訳ないことをした」

そう言うとお義父さんは、私に向かって頭を下げてくれた。


「サブスクの件は大変残念です。信用を失うような行動をした《《社員》》のせいで。どうか、この件に関しては、公にはしないでいただきたい」

お義父さんは迅くんに向かって頭を下げた。


「その《《社員》》の今後については、どのようにお考えでしょうか?」

迅くんの冷たい目。


「まだはっきりと決めていませんが。親の私がいたから甘えていた部分もあると思います。一からやり直してほしい。私的に使った資金については、調べて返済するように命じます」


「父さん……」

孝介は涙を浮かべていた。


が――。


「お前には本部から支所へ異動してもらう。あとの処分については、後日検討する」


「えっ。異動って?」

自分の置かれている状況がまだ理解できていない様子だった。


「次期社長は、《《河野》》専務取締役を推薦しようと思う。お前は反省し、一からやり直せ」


お義父さんは立ち上がり

「この度は申し訳ございませんでした」

そう言って一礼をした。


「この件に関しましては、書面にてまとめたものを九条社長に送付いたします。あとでサインをいただいてもよろしいですか?」


「もちろんです。お前も頭を下げろ」


お義父さんは呆然と立っている孝介の頭を抑え、強制的に頭を下げさせた。


「孝介さん。離婚届を書いて、机の上に置いておくね。明日、残っている荷物と一緒に取りに行くから、書いておいてほしい」


「わかった」

彼との最後の会話は、ただそれだけだった。


二人が出て行くのをしばらく見送った後、迅くんが

「終わったな」

そう言ってメガネを外し、ネクタイを緩めた。


本当に終わったんだ。


「美月、大丈夫か?」

ポンポンと肩を叩かれる。


「うん」


どうしよう。

緊張が解けたら、一気に全身の力まで入らなくなっちゃった。


フラフラする、意識が飛びそう――。

「おいっ!美月?美月――!?」

遠くで迅くんに呼ばれる声が聞こえた。




目を開ける。ここは……?

起き上がって周囲を見渡す。


「ここ、病院?」


ベッドに寝かされていた。

誰も居ない。どうしよう。とりあえず、誰か呼びに行こう。


そう思ってベッドから下りようとした時――。

部屋のドアが開いた。


「あっ、美月さん。起きたんですね?」


亜蘭さんの姿が見えた。


「あっ。亜蘭さん!」


知っている顔を見ることができ、安心した。


「極度の緊張から解かれたせいか、美月さん、気を失っちゃったんですよ。念のため病院に運んで診てもらったんですが、特に異常はないそうです。良かった、目を覚まして」


また迷惑をかけちゃった。


「すみませんでした。あの、迅くんは?」


「あぁ。社長は美月さんに異常がないことがわかると、先に本社に帰ってます。九条グループと契約を破棄した後始末とかもろもろ仕事が残ってまして。ま、事前にいろいろ準備してましたし、想定内なので大丈夫です」


お礼とお詫びを言いたい。それに彼の顔が見たい。


「意識が戻ったら帰っても良いと医者からは言われているので。とりあえず九条孝介が帰ってくる前に、マンションに帰って離婚届を置いておきましょうか?動けますか?」


そうだ、私もやらなきゃいけないことがある。


「はい、大丈夫です」


亜蘭さんに送ってもらい、自宅へと帰る。


事前に書いてあった離婚届を机の上に置く。


相変わらず部屋は荒んでいた。

綺麗だった部屋も、数日でこんなに変わってしまうんだ。

孝介が暴れたと思われる新しい傷も至るところにあった。


「とりあえず荷物は明日また取りに来ましょうか?何かあったら困るので、俺が同行します」


そこまで亜蘭さんに付き合ってもらっていいのかな。


「ああ、遠慮しないでください。例えば美月さんに何かあったら、社長まで精神崩壊しそうなので。そしたら俺も仕事が増えて困りますし」


ニコッと笑ってくれてる。

そう言わないと私が気を遣うと思ったのかな。

彼とはそれほど付き合いは長くないが、ふとそう思った。


「はい。よろしくお願いします」

その時、亜蘭さんの携帯が鳴った。


「はい。……。わかりました。そうお伝えします」

誰だろ、迅くん?

「社長からです。今日はホテルでゆっくり休んでほしいと。夜、電話をするから起きていたら出てほしいとのことです」

夜遅くまで仕事なんだ。


「わかりました」

ホテルに戻り、軽食を食べたあと、ベッドに横になっていた。


――。

本当に終わったんだ。長いようで、短かったのかな。


目を閉じ、振り返って考える。


孝介は私のこと《《最初から》》好きではなかったんだ。

今日のやり取りを聞いて、改めてわかった。


本当は美和さんと結ばれたかったんだよね。

家のために好きでもない私なんかと結婚することになって。

どんな気持ちだったんだろう。


いろんな想いが巡った。


その時、電話が鳴った。


「もしもし?」

慌てて出る。


<具合、大丈夫か?>

迅くんの声。


今日会ったばかりなのに、なんだか遠く感じた。

「うん、大丈夫。ごめん!いつも迷惑かけて」


<ああ。良かった。また気絶して、俺のこと忘れてたらどうしようって思った>

冗談か本気かわからないけれど、彼は笑っていた。


「覚えてるよ!迅くんにありがとうって言いたくて」


<いや、これは俺のためでもあるから。美月と一緒に居たいって思う俺のため。明日、離婚届け出したら、今後のことについて相談しよう。いつまでもビジネスホテルってわけにもいかないだろ?>


「うん」


まずは住むところだよね。

しばらくは実家に帰ろうか……。

あっ、思い出した。


「迅くん、お父さんの会社を買収したいってホント?」


<まだ先の話だけどな。一応、美月の父親にはシリウスの社長として交渉はしてる。九条社長にはああでも言っとかないと、美月の父親の会社に何か仕掛けるかもしれないだろ。それに……。俺が買収することによって、美月の親も、今後俺には《《何も言えなくなる》》だろうし>


確かにシリウスの方が力もあるし。迅くんには頭が上がらないよね。


<とりあえず明日は予定通りに亜蘭が行くから。俺が行けなくてごめん。夜に会おう?>

ゆっくり休めよと彼は言ってくれて、電話が終わった。

loading

この作品はいかがでしたか?

31

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚