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あたしは今の今まで、某県のオフィスビルで事務仕事をしていたはずなのに、何で草原に立っているの?


周りにはたくさんの人がいる。私服だったりスーツだったり、学生服だったり、大人だったり子どもだったり、男も女も。


その周りには……なんだろう? 茶色いフードを着た怪しい人たちが取り囲んでいる。


みんなザワザワしているけど、知らない人ばかり。みんなもお互いに知り合いはいないみたいだし……。


結果分かったのはあたしたちは召喚? されたこと。みんなの共通点は某県某市のオフィスビル近くにいた事くらい。


そして、あたしたちは帰れないこと。いえ、帰りたければ魔獣とかいうのを倒せばいいらしいけど、話聞いてるととても無理っぽい。




そしたらあたしたちのうちのひとりが“ステータス”とかって呟いて驚いていた。なんでも世間の一部の界隈でこういう物語が流行っていてテンプレなんだとか。ドラマしか観てないあたしにはわからないオタクの世界ね。


みんなも口々にステータスと言っているから、あたしも真似てみる。


「ステータス」


そしたらなんか空中に文字が出てきた。


豊川菜月

25歳

体力 すくなめ

魔力 おおめ

知力 ふつう

スキル 豊穣 算術 防殻

魔術適性 月

加護 月

性格 温和 引きこもり 妄想癖


なにこれ。ざっくりしてるし、なんだか豊と菜月の文字が赤丸で囲まれてるのは訳がわかんないし性格とか悪口かなにか? 引きこもりって──ちゃんと職場で仕事してるしっ? 妄想とか……そりゃ仕事以外はお家で恋愛ドラマとか観て……普通でしょ?


みんなそれぞれに似たようなものが見えたみたいでざわめきは大きくなる。


そして誰かが雄叫びみたいな奇声をあげてから、あたしたちを囲む周りの人たちのどこか冷めた視線が一変した。


そのいかにも絵に描いたようなオタク兄さんが、手から炎を出していたからだ。なんだか「某アニメの影響でほむらって名付けられたことに感謝するときが来るとは思わなかったーっ!」とか叫んでいる。


あっちでは氷が。こっちでは風? が吹いている。


そうするとフードの人たちはみんなしてあたしたちに近づき取り囲んで「何が見えた? 何が出来る?」などと聞いてくる。


みんな口々に答えているけど、あたしは何だか嫌で、


「えっと……引きこもりと算術ってなってます」

そう伝えてみた。思えば今日本語が通じている。ここは一体どこ? 白昼夢?


あたしに聞いてきた人は「そうか、ふむふむ」とだけ言ってさっさと離れてしまった。




あたしたちは近くの王国、お城に連れて行かれた。お城って言っても西洋みたいなあんな煌びやかでもないし、日本のみたいに石垣の上にどっしりともしてない。周りよりかは大きい3階建てくらいのお城。周りの街もどちらかというとテレビで見たどこかの昔の街並み。アジア圏て感じ?


他の人たちは口々に「異世界なのにないわー」とか「コレジャナイ感」とか言っている。さっきまで帰れないからって喚き倒して、炎だして小躍りしてたり、今は街並みに苦言と忙しい人たちだわ。


王城では王様とかいう他よりは少しいい服を着ている人が歓迎してくれて、みんなにお金を渡して去ってしまった。


それからお城の人たちは、修練場とかいうところでみんなを集めて武器の扱いや魔術? を使わせてみたりした。あたし? 算術は人より計算が得意ってか、ここの人たちもそんなに変わらないし、剣なんて重たいし、魔術? 何それ美味しいの? だったから早々と相手にされなくなったわ。


普通のOLに何を求めているのか。普通の……あれ? あの女の子は兵士をぶん投げてる。あの男の子は殴り飛ばしてるし剣で勝っているのもいる。炎がさっきより大きいし。


「みんないいなぁ。あ、ぼく木山っていうんだ。隣いい?」


そう言って座ってきた木山くんは中学生だとか。「自分は大した事なくて放ったらかしにされてる」とか、「ああいうのをチートって言うんだ」とか教えてくれた。




チートな戦闘集団は外で闘って、あたしたちはお留守番。


留守番組もなんだかんだで出来ることがあるらしい。生産職とか言っている。あたしの豊穣もそうみたい。あたしが何の気なしに立ち寄ったら知らない人の家庭菜園が凄いことになってしまって、それからはあちこちの畑に魔力のシャワーをする係に任命されてしまった。


外で闘ってる人たちが魔獣を倒しても帰れない。嘘つかれた! と思ったら、魔獣は一体だけじゃないとか。


いつまで続くのか。ご飯は美味しくないし、トイレはぼっとん。というか地面掘ってる。不思議体験もちょっとならいいけど、やっぱりスマホがあってショッピングセンターがあってテーマパークとか……というか普通に生きて日本で幸せになれるのが1番よ。


そのうち誰かが「現代知識チートやるぜ」とか言って盛り上がって、撃沈したみたい。何かしたいけど、あたしたちは日本でも大体エンドユーザーだし、何かを生み出すのにも既にあった何かを使うんだから、あたしたちがいきなり出来る事なんてそんなにない。


現代人がそんな都合よく知識持ってたりする? スマホなんて作れない。水道? 地面掘ればいいの? 電気も、魔術があって殆どはそれで何でも出来ちゃうし、紙? 紙とか作ったことあるひとー? はい、誰もいません。そりゃコンビニでも文房具屋でもスーパーでも売ってるもん。子供の頃の和紙作り? 牛乳パックから作ったっけ。牛乳パック持ってるひとー! はい、いません。古紙もない。木から作る? あたしは知らないわよ? 知ってるひとー? はい、いません。


でもみんな諦めないでやって少しずつ知ってるものが……似たような別物が増えていった。


食べ物はまだまだ。誰かが卵かけご飯してお腹を壊していた。サルモネラ菌かな? 元の世界でも生卵を食べられるのが珍しいものだって知らないんでしょうね。「ここは定番のカレーだっ!」とか言った男の子は、カレールゥを探しに行って撃沈した。いや、そんなのあれば既に普及しまくってますからね? 仮にスパイスがあっても、スパイスからのレシピ知ってる人ってそんなに居ない気がする。


そんな中でも野菜は正義。生でも美味しいし! あたしの豊穣は割と役に立ってんじゃない? 農薬要らず、虫つかず。てか美味しい。




はぁー。それにしてもいつになったら帰れるのか。もう殆ど諦めてるけど、こんな世界であたしの好きな恋愛ドラマもないし。みんなも似たような状況みたい。戦闘職の人らはなんて言うのか……ハイな気分らしくちょっとこわい。あんなギラギラしてたっけ?


そういえばあたしの月魔術ってのがわかった。重さを1/6にするみたい。何それって感じだけど日常生活で疲れないような使い方が出来ちゃう。平和に生きたいあたしには割と便利。




あれからずいぶん経った。この世界にも四季はあって、桜こそないけど一年が何となく分かる。カレンダーなんてないから誰かが作って広めた。わざわざチート探しをしなくても、自分たちが不便だなと思ったときにどうにか出来たらそれがもう現代知識チートってことなんだろう。ハイテクなんて無理でもローテク以下の改良を積み重ねれば少しずつ住みやすくなって、その分お金が入ってくる。地元民から崇められる。平和。




最悪だ。戦闘狂たちが王城を乗っ取ってしまった。もう帰ることは諦めたらしい。あたしもだけど……。


そしたら王城を乗っ取って国を乗っ取って、でも国民も彼らを支持していて。


そこからは無茶苦茶だった。表向きには平和だけど、裏は、というか転移者たちの周りはもう好き放題だった。あの乱交パーティーを見た時は吐き気がした。いつかの木山くんもそこにいる。ほむらって人は脅した女の人や女の子……いや、そんなん出来る歳じゃないでしょっ、その子っ!


元々の住人は誰も逆らえないしあたしも怖くて何も言えない。せめてあたしだけは豊穣で豊かな生活の助けになろう。




ある時、1人の転移者がみんなを集めた。30人。揃ったところで、話したのは帰るための魔術装置を作りたいということだった。すでに10人くらいで先んじて作り始めていたようだけど、完成させるにはみんなの魔力を注ぐ必要があるのだとか。


割とまともそうな話に否定的な意見は出なかった。作る人たち、魔力を注ぐ人たち。


でも何年経っても何十年経っても完成はしない。みんなそれでも諦められないのか、作る人たちの顔は憔悴してたりギラギラしてたり。みんなも頻繁に魔力も注ぎにきている。


魔術装置がやがて小さな石ころみたいだったのが、部屋いっぱいの大きさの巨大な水晶の原石みたいになった頃、あたしたちももう高齢になっていた。


今さら帰れたとしてももう……だから「これをみんなで受け継いでいこう。みんなの中には子どもや孫がいるのも多い。代々受け継いでいつかこれが発動する事を願おう」だって。


その時ではあたしたちは生きてないけど、そうだね。いつか子どもたちにあたしたちが生きていた世界を見せてあげられるなら……。


そう思ってあたしの魔力を、願いながら注ぎ込んだ。一瞬、装置と繋がった頭に何か……暗い何かがよぎった気がした。




あたしはとうとうそれが何の魔術装置なのかを知る事ないままに永眠した。


願いを叶えるは心失くした男

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