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–前書き–
時間はキメラトレント撃破後に戻ります。そしてあと数話で本編終了です。
以下、本文。
「綺麗……っすねえ」
うさ耳が街を覆う膜を観てそうポツリと零す。
「エイミア。お前は外から来たな。外はどんなところだった?」
俺はエイミアの状況を知るべくそう問いかける。
「そうっすねー。私の暮らしてた所は獣人種の多く住む国で、ラビ種もそれなりにいましたっすよ。私もラビ種も戦闘向きではなかったっすから、実際は知らないっすけどあちこちで戦争はあったみたいっすね」
スウォードの街がかつての姿に戻りつつある空で、エイミアは唇に指を添えてよどみなく答える。
「ちゃんと思い出せる、ということだな」
「何言ってるっすか? そんなの当たり前じゃないっすか。まだここに来て、えーっと…。何ヶ月? 何年? え? えーっと、え?」
「1年もない。お前は相変わらずのちんちくりんだ」
「小さくないっす。ラビ種はこれくらいが平均なんすよ」
そうか……まあ、トレントが崩壊して魔力を戻してしまった以上はもう封印も消えてしまったな。再び向き合う時が来たということだ。
「あれ? なんか街がおかしくないっすか?っていうかあれは──スウォードの街はどこに行ったっすか⁉︎」
「そんな街はないだろ? よく思い出せ」
うさ耳はいい判断材料になる。この街が全て解放されてしまったのか、それとも。
「うーん、そうっすね。私の記憶違いっす。スウォード王国だったっすね」
記憶違い。街と言った。混在しているな。だがこの様子であればすぐに現実と統合されることだろう。
俺たちの眼下には、かつての王国の姿があった。
封印の前に俺たちが壊した王城や貴族街などは壊れる前の形を保っており、もちろん封印前に既に根絶したヤツらはここでも存在しない。代わりに奴らが居なければ……あっただろう未来の形になって、代わりの王がいて、そもそも居なければ作られなかった貴族という身分も無くなっている。
俺がこの世界に喚ばれて願われたのは奴ら初代英雄たちより始まり築かれた制度、つまりはかつての貴族たちからの解放。
複雑な気分にさせるのは奴らがもたらした恩恵だけはしっかりと残っていることか。つまり奴らが元の世界恋しさに生み出した現代知識チートとかいうものの遺産。
王国から精霊界が切り離されていく。
ナツが俺に手渡したカケラはあの精霊界の王がよこしたものだ。あれで最後だったのなら、呪いの解呪は成功したのだろうが。
「ダリルさん? どうしたっすか?」
「いや……このまま王城に行くぞ」
「え?そんなのムリっすよ? 王城なんて私たちが入れる訳ないじゃないっすか」
「いや、あそこには取り戻すべき者がいる。そのためには入るしかない」
そう。エミールはきっとそこに今も横たわっているはずだ。早く迎えに行ってやらねばならない。
「ダリル様。その前に精霊界へお越しください」
「うわあぁっす⁉︎ 何でいつの間に誰っすかっ?」
「ナツか。それはエミールを取り戻すより大事なことか?」
「はい。そもそもそうしなければホビットの彼は救えません」
氷雪幻鳥の背に乗り空を舞う俺たちの傍らに突然現れたナツを見てうさ耳がおっかなびっくり叫び声をあげる。
直接こんなところに現れるような芸当はこの男には出来ない。それを可能とするのは、こいつの主たる人物のみ。
俺はそんな現れ方をしたナツの言葉に、呪いの解呪が終わった訳ではないことに気づく。なら迷う事はない。
「──“花園”」
「ダリル様、このウサギは」
「構わん。こいつは……こいつにはその資格があるだろう」
いつも決まった場所から出入りしているが、急ぎならどこでも、ここでも構わない。世界を渡った先の花園も同じように空高い場所に現れた俺たちだったが、鳥はここへは来れなかったらしく、空中に投げ出された形となる。
赤や緑の形ある光が落下し始める俺たちを取り囲むようにして踊れば、落下の勢いはだんだんと削がれていき、軽い浮遊感とともに俺たちはゆったりと花と緑の楽園に降り立つ。
かつて俺を誘い込んだ様に精霊たちが迎え入れる。ナツも、うさ耳も。
うさ耳は、俺を喚んだ者の子孫だ。今回の件の顛末に関わるのもいいだろう。