赤を基調としたふかふかの座席。室内はモダンな灯りが設置してあり、ほんのりと薄暗い。
私たちは、微かな音を立てる列車に乗り揺られていた。
「さて、弟よ」
木製の机を挟み、向かい合うようにして私たちは座っている。
机の上にお菓子の缶に見える魔道具を設置してある。
「何姉貴?」
すっかり遠足気分でルンルンな様子の7番。
「任務の内容をおさらいしとくよ。」
こくんと頷き、7番は真剣な眼差し変わる。
「まず…私達の設定。私は楠刃 冶古で貴方の姉。」
「俺は楠刃 直で…姉貴の弟…」
「うん。ばっちりだね。」
ヨシヨシと頭を撫でると、少し頬を赤くしながら照れくさそうだ。
「こ、これくらいはね…任務の事は抜かりないよ。姉貴」
キリッとした顔を作ってみせるが、直ぐにふにゃっとなってしまっている。
「髪の色も瞳の色もこのためにわざわざ変えたからね…」
雇用主の計らいで、髪と瞳の色を同じ色に変えてもらった。
燃える炎のような髪色に、翡翠色の瞳。
案外顔立ちが違っても、髪と瞳の色を揃えてるだけでそれなりになるものだ。
「お揃いは嬉しいけど…まだ慣れないや…」
そう言いながら自分の髪の毛をさすり始める7番。
「ま、こればっかりは慣れるしかないね」
『間もなく…学園都市に到着致します。』
無機質な音声が電車内に響き渡る。
「ここからは私達は姉弟。直。」
そう言いながら、お菓子の缶をカバンへと入れる。
「うん!姉貴!」
座席から立ち上がり、出口へと向かう。これから暫くは8番である自分とはお別れだ。
「おー…流石最先端の都市…」
建物はどれも背が高く、陽の光を反射してぴかぴかと光り輝いている。
ここはアカデミーを中心に築かれた学園都市。
外部のエネルギーや資源に頼らず、この都市内のみで全てが完結される事を目指し建築された。
周囲には同じ年頃と思われる子供達が、同一の方向へと進んでいる。
その目的地は、この都市の中心に位置するアカデミーだ。
「アカデミーが見えてきたよ姉貴」
かすか遠くに見え始めた建物を指さす直。
「ほぇ〜この距離からでも見えるくらい大きい建物とはッ……」
後ろから急に近づく気配を察知し振り返る。
すると一人の少女がこちらに倒れ込んできた。
咄嗟にその身体を受け止める。
「おっと……大丈夫かい?」
こちらを見上げて驚いたように、大きな瞳をぱちくりさせている。
「……姉貴?誰その子……?」
警戒態勢でこちらをじっと見つめている直。
「さぁ?初対面だと思うよ。」
もう一度少女の顔を除くと、少し脅えているようだった。
「こーら。直。威嚇やめなさい。」
シュン……としながら警戒態勢を解いて近くにしゃがみ込む直。
「いい子」
近くに座り込んだ直の頭をぽんぽんと撫でる。
再び少女に目を向ける。
「……?(返事が無いようだけど…大丈夫かな……?)」
ぴたっと体を動かさずに瞼だけぱちくりと繰り返し動かしている。
(このままの体勢だとアレだし……とりあえず……)
「立てる……?お嬢さん? 」
そう話しかけると、ハッとしたような表情になる少女。
こくこくと頷くため、そっと起き上がらせた。
「あ……あの……」
おどおどしながら話し始める少女。
「いやぁ〜うちの連れがすみませんねぇ」
そう言いながら、こちらに近づいてくる少年。
「姉貴……こいつやな匂いする……」
そう言いながら私の後ろに隠れる直。
「カ……カラカサ…様……」
そう呟くと震え始める少女。
(ふーん。やな感じね。)
少女に向かって歩いてくるカラカサと呼ばれる青年との間に割って入るように立ち塞がる。
「避けて貰えませんかねぇ??」
にこにこしながらこちらを見てくる。その微笑んでいる目の奥はこちらを値踏みしている。
「……嫌だと言ったら……?」
そう言うと、すっと笑顔が消える。
「…………人がせっかく丁寧に……丁寧に……丁寧にぃぃぃぃぃ??」
ブツブツと発狂し始めるカラカサ青年。
「え……なにきも……」
思わずでた言葉にピタリと動きを止めた。
「き、きもちわるい……??この僕が……??」
わなわなしながらこちらを睨みつけてくる。
(あ……めんどくさくなる予感……)
「…………そんなこと……誰にもッッ」
顔を赤くしてプルプルと震え始める。
(「直。ずらかるよ」)
(「了解。姉貴」)
「お嬢さん失礼するよっ!」
一瞬で少女を再び抱き抱た。
「?!」
「ま、待ちなさい!!」
慌ててこちらに手を伸ばす青年。しかしその手は掠めてしまった。そして、地面に倒れ込む。
「青年……気持ち悪いと言ったことは謝るけど……訂正はしないからね。」
こちらを見上げたまま、口をパクパクさせて驚いている青年。
「それじゃ、またね! あ、この子は借りてくから〜」
そう言いながら人混みに溶け込み、目的地へと足を早めた。
後ろの方でよろよろと立ち上がる青年。もうこちらを見失い、追いかける気力もないようだった。
「姉貴……面倒事に首を突っ込むの……良くない癖だよ……」
「つい……ね」
「あ……あの」
腕の中で縮こまっている少女が口を開く。
「あ!ごめんね。もう学園に着くし……」
そう言って再び地面に少女を降ろす。
「あ……ありがとう…ございます……えっと……」
両手を握ってこちらを上目遣いで見つめる少女。
「私がやりたくてやっただけだし……余計なことしてないかな?」
そう言うと首を大きく横にぶんぶんと振る。
「……困ってたから…感謝……」
「そっか……なら良かった。この後はどうする?てっきり同じ受験生だと思って連れてきちゃったけど……」
「……?!同じ……受験生……?」
ぱっと顔が明るくなる少女。
「そうだよ。」
「……そっか…なんて……なんて素敵なんだろ……」
ぼそぼそと呟き始める少女。
「姉貴!そろそろ受付行かないと!」
「そうだね。そろそろ行かないとだね。」
私達推薦組の試験は一足先に行われる。そろそろ受付が始まる時刻だ。
「またどこかで会えるといいね。お嬢さん。」
こくこくと頷く少女。
「姉貴……また変なの手懐けて……」
はぁ……と呆れたようにそう呟く直。
「……?そんなつもりないけど」
直に小言を言われつつ、試験会場へと向かった。
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