これはミルク色のサボテンが七拍子で笑いながら溶けていく季節に起きた出来事である。
その出来事を語る前に大切なことを言っておかなければならない。
それは、この出来事が起こった最中の
重力加速度は9.8m/s^2、人間と地面との
動摩擦係数は0.50として扱われることだ。
では、行こう。
右手の手のひらに油性マジックで数字の3を大きく書いた後、夜道を1人で歩いていると、
不意に前方から1人の女性が歩いてくる。
月明かりに浮かび上がったその姿は、
胸元が大きく開いたドレスを身に纏い、
肌寒い夜でも寒さを感じていないかのようだった。
2人の距離が近くなり…
僕は彼女にこう言った。
「背中に乗せてくれませんか」
地球上のオスは全て、胸元の開いた服を着たメスに対しては、こう言いたくなるのが本能に刻まれているのだ。
人間だけでなく、オランウータンでも
チンパンジーでも、クマムシですらこう言ってしまう。
オスがこう言ってしまう訳は、
背中に乗って、いつもより少しだけ高い位置から遠くの景色を楽しみたいからというのが
最有力の説になる。
僕の言葉を聞いた彼女は怒り狂い、拳を放ってきた。
彼女の右ストレートが僕の右膝に当たった。
それに対し僕は思わず…
「あんっ…//」
と喘ぎ声風の声を出した。
ここで1つ、僕はある真理に気づいた。
それは、喘ぎ声というのは暗闇で先も何も
見えない未来や道筋に女性の1発の打撃を
アクセントに添えた時に出る男の叫び声なのだと…
彼女は自身の放った拳が男にあまり効いてなさそうなのを見ると、次に右手をパーにして、 僕の顔を目掛け、引っ叩こうとしてきた。
あれ、よく見たら、彼女の右手の指の本数…
5本指のパーの力は6本指のパーの力の
5/6倍である。これは言い換えると、
6本指のパーの力は5本指のパーの力の
6/5倍ということになる。
糞が…
無駄に体積と表面積だけ増やしやがって
ムカつくぜ!!ヒャッホー!!
これをまともに喰らったら、全治2週間針を縫う程度じゃ済まないと感じた僕は、左手をパーにして、僕の顔目掛けてくる彼女の右手に当てた。
互いの手のひらがぶつかる!!
「ああ!!手のひらが痛い!痛すぎるよお!」
僕のパーの力は3、対して彼女のパーの力は
3×(6⁄5)で、18/5すなわち、3.6である。
クソッ!0.6負けてやがるぜ!!
ならばここは…!!
僕は自身の右手に向けて、
口からビームを出して消し飛ばした後に、
瞬時に右手を再生し、油性マジックで手のひらに数字の4と大きく描いた。
彼女はその様子を独特のサイドステップを
踏みながら気色悪がっていた。
これなら!!
もう一度、互いのパーがぶつかりあった。
「さっきよりも痛い!!!」
僕のパワーは4、対して彼女のパワーは
な、なんと4.8だ!!
なんてことだ、さっきよりも上がっているじゃないか!!
僕と彼女のパワーの差分だけ、僕の右膝に
ダメージがのしかかってくる。
その後も、5、6、と…試行回数を増やしてみるも、やはり僕のパーは彼女のパーに勝てない。
油性マジックのインクが切れたので、
2本目に突入した。
もう駄目だ…おしまいだぁ…
何をやっても無駄なんだなぁ…
てか、数字を大きくしていくにつれ、右膝にくるダメージが大きくなっていくんだよなぁ。
もう歩けねぇよぉ…
彼女はそんなことを考えている僕の様子を見て、
(こいつアホ?)
と心に思った。
そんなときだった。
頭で何かを閃いたのだ。
僕はもう一度、ビームで右手を消し飛ばし、
再生して、ある数字を書いた。
だが、これをするからには俺も右膝を失う覚悟を持たなくてはいけない。
その数字というのが 0だ。
これなら、僕の力と彼女の力は同じ0になる。
相打ちなら、両方にダメージがあたえられるのだ。
悔しいが、あのクソアマにダメージを与えられるならそれでいいんだ。
僕は地面に叩きつけられた。
彼女はというと、良質なサイドステップを踏むくらいにはピンピンしている。
彼女は僕に問う。
「お前の趣味はなに?」
「無免許運転です。今度一緒にドライブにでも行きませんか?」
次の瞬間、彼女の放ったミサイルが僕の右胸に当たる前に爆散した。
爆風のせいで、地べたに這いつくばり、悶絶せざるを得なくなった彼女は僕のことを見下してまた問う。
「お前は何の為に生きてる?」
「君に会うため…さ」
気づくと、僕は地面に叩きつけられた。
形勢逆転だ。彼女の放った拳が僕の鳩尾に入った。
その威力は凄まじく、猛スピードで僕は坂を転げ落ちた。
彼女の坂を下るスピードは僕の坂を下るスピードの0倍である。
このままではまずい…
僕は咄嗟に両足を扇風機に変え、空へ飛び立って彼女から逃れようとするも…
彼女はそれを逃がすはずもなく、自慢のベロリと 長い舌を僕の体に巻きつけて地面にまた叩きつけようとするが…
このまま負けっぱなしというのは格好悪いので、逆に僕が彼女を地面に叩きつけてやろうと…
舌が伸びている部分を掴み、手に力をこめた。
彼女は宙に舞い上がった。
綺麗にy=-x^2の関数を描くようにして…
彼女はついに地面に叩きつけられた。
地面には彼女の血が溜まっていて、衣服はボロボロで体は所々が破損していた。
死んだかどうかを確認するため、仰向けになった彼女に近づいた。
顔を近づけると、呼吸音が聞こえた。
「まだ生きてるだと…」
次の瞬間、彼女は最期の力を振り絞り、僕を抱き寄せて、唇と唇を重ねた。
彼女の舌が僕の口内をガツガツと暴れまわった。
彼女はそれに満足すると、力が抜け落ち…
ついには息を引き取った。
30分後…
僕はコンビニでアイスを買った。
アイスを口に頬張る最中…
彼女との夏の直射日光が当たった真っ黒な
バケツに入った水くらい熱いキスが頭に浮かんだ。
「アイスおいC…」
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