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十四時丁度、侑のミニコンサートが開演した。
瑠衣も開演直前に受付の手伝いを終わらせ、机にはセットリストを置いておいた。
後から来た来場者が自由に取れるようにしておき、ホールへ入り、隅の方で立ち見する。
ピアノ伴奏を担当するのは、侑が大学時代に仲の良かったピアノ科の友人というが、文化系男子というよりも、爽やかな体育会系の雰囲気を持つこの伴奏者も、なかなかのイケメンだ。
グランドピアノの前で楽器を構え、タクトを振るようにベルを一度下に振った後、すぐに振り上げる。
一番最初に演奏するのは、クラーク作曲『トランペットヴォランタリー』で、元々は『デンマーク王子の行進曲』と言われ、結婚式などで耳にする事も多い。
イギリスのパンクバンド、チャンバワンバの楽曲『タブサンピング』で、曲の終盤では『トランペットヴォランタリー』の旋律が対旋律のような形で用いられている。
華やかな旋律が祝典に相応しく、侑の奏でる音色も表情豊かで輝かしい。
短めの楽曲だったが演奏を終えると、侑は一礼し、拍手と黄色くなり掛けた声援を浴びていた。
「皆さん、こんにちは。今日はお忙しい中、響野侑ミニコンサートにお越し下さり、ありがとうございます。短い時間ではありますが、最後までお付き合い頂けると幸いです」
演奏の合間に、侑は傍のマイクを手に取り、挨拶を始めた。
その後、『トランペットヴォランタリー』の解説をし、次に演奏する『ナポリ民謡による変奏曲』の紹介をする。
「この曲は、ナポリ民謡『フニクリ・フニクラ』を主題とし、二つの変奏が加えられます。僕も恥ずかしながら最近知った事なのですが、主題部分は、日本では子ども向けの歌『鬼のパンツ』として有名だそうで……」
侑がそう言うと、客席から笑い声が湧き上がる。
「…………それでは、『ナポリ民謡による変奏曲』をお聴き下さい」
マイクを戻し再び楽器を構える。
ピアノの前奏に合わせて客席から手拍子が降り注ぎ、侑が主題部分を演奏し始めると、会場の雰囲気が盛り上がる。
(それにしても『鬼パン』は何でこんなに盛り上がるんだろう……?)
瑠衣は思わず『鬼のパンツ』の歌詞を口ずさみそうになり、慌てて唇を引き締めた。
第一変奏と第二変奏は、侑のピストンの指使いに、遠目からでも釘付けになってしまう。
(変奏部分の難しさは、『鬼パン』どころじゃないけど、時間が掛かってもいいから、やっぱり吹けるようになりたいなぁ……)
ファンファーレのような後奏部分を聴きながら、改めて『鬼パン変奏曲』もとい『ナポリ民謡による変奏曲』を吹きたいと思う瑠衣だった。