田中が導いた秘密の通路は、薄暗い地下トンネルだった。湿った空気と足音の響きが緊張感を高める。拓真と亮太は何度も後ろを振り返りながら、田中の後を追った。
「もう少しで安全な場所に着く。」田中が低い声で言った。「だが、そこに着いたら君たちに紹介したい人物がいる。」
「紹介?」拓真が首をかしげた。「まさか協力者って……」
田中は無言のまま進み、やがて鉄製の扉の前で立ち止まった。古びたキーパッドに手を伸ばし、暗号を入力する。
扉が軋む音を立てて開くと、そこには小さな部屋があった。壁には地図や写真が貼られ、中央にはパソコンが数台並んでいる。部屋の奥に立っていたのは、一人の女性だった。
「ようこそ。」女性は振り向き、微笑んだ。「待っていたわ。」
「協力者か?」亮太が訝しげに問いかける。
「ええ。」彼女は静かに頷き、手を差し出した。「私は斉藤理恵。元政府の情報部員よ。」
「元?」拓真が警戒心を隠せない様子で尋ねる。
「そう。私もかつてはこの計画の一部だった。」理恵は一瞬目を伏せた。「でも現実を目の当たりにして逃げた。そして、計画を止めるために内部から反抗しているの。」
「それなら信じる理由が必要だ。」亮太が鋭い目を向ける。「証拠はあるのか?」
理恵は机から一枚の写真を取り出した。それには血塗れのラボと、ケージに入れられた子どもたちが写っていた。
「これが証拠。」彼女の声には怒りが滲んでいた。「政府は兵士を作るだけじゃない。施設では、生きた人間を実験台にしている。君たちもその一部になる予定だった。」
「くそ……」拓真が拳を握りしめた。「こんなことが許されるわけがない。」
理恵は深く頷く。「だから、君たちの持っているUSBが必要なの。そこには彼らの全計画が記録されているはずよ。」
「USBなら、拉致された時に……」拓真が言いかけた瞬間、警報の音が部屋中に鳴り響いた。
「緊急警告! 施設内に侵入者発見!」
田中が顔を曇らせた。「まずい、ここまで追ってきたか……。」
「逃げ道は確保してあるわ!」理恵は部屋の隅に隠されていた扉を指差した。「こっちから出れば地上に通じる。時間がない、急ぎましょう!」
三人は道具をまとめ、慌ただしく通路に入った。
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