テラーノベル
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5話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
映画館を出ると 外の光が少しだけ眩しかった。
人の流れに紛れながら レトルトは歩く。
その隣で――
『なぁ、次どこ行く?』
死神が楽しそうに顔を覗き込んできた。
さっきの映画の余韻を引きずったまま 浮かれた声。
レトルトは 前を向いたまま答える。
『……どこでもいい』
投げるような返事。
死神は少し考えるように空を見て、
『んー……あっ!!』
ぱっと顔を上げる。
『じゃあ次は―― 遊園地!!』
その瞬間、 レトルトの足が ぴたりと止まった。
「……は?」
小さく、低い声。
死神は楽しそうに続ける。
『いいじゃん!絶対楽しいって!俺、行った事ないんだよね!!だから、行ってみたい!』
『ジェットコースターとかさ!
あと観覧車とか――』
「いやや!!」
強い声。
レトルトは――
高いところが苦手だった。
勢いよく声を出してしまったせいで、 周囲の視線が一斉に突き刺さる。
ざわ、と空気が揺れる。
「……なにあの人」
「今、一人で叫んでたよね?」
ひそひそと聞こえる声。
当然だ。
周りの人間には死神 の姿なんて見えていない。
レトルトが 何もない空間に向かって、 突然叫んだようにしか見えない。
完全に、不審者だ。
死神は目を見開く。
『……え?』
初めて見る反応だった。
あのレトルトが ここまで感情を出すなんて。
レトルトは視線を逸らしたまま
わずかに眉を寄せている。
「……無理」
短く、吐きすてる。
死神はレトルトをじっと見つめる。
そして―― にやり、と笑った。
『……へぇ』
『レトさんにも 苦手なもんあんだな』
レトルトは 舌打ちをこらえて そのまま足早に
映画館の外へ出た。
冷たい空気が 少しだけ頬を冷やす。
後ろから、 くすくすと聞こえる笑い声。
『レトさんさぁ…..』
死神がにやにやしながら隣に並ぶ。
『さては絶叫系、苦手なんだろ?』
赤い瞳が 面白そうに細められる。
『だっさぁ』
完全に、煽っている。
レトルトの眉間に 深く皺が寄る。
「……うるさい」
低く吐き捨てる。
けれど――死神の煽りは 止まらない。
『ジェットコースター乗って 泣くタイプ?』
『レトさん絶対無理だろ〜、 顔真っ青になるやつじゃん』
『泣いちゃったら俺が慰めてあげるよ』
くすくすと笑いながら、 わざとらしく肩をすくめる。
その一言一言が じわじわとレトルトの神経を逆撫でしてくる。
(――うるさい)
レトルトのこめかみが ぴくり、と動いた。
『やめとけって〜』
『怖いなら無理すんなよ?』
完全に 火に油だった。
レトルトは ぴたりと足を止める。
そして―― 振り返る。
「……うるさい!!」
大声が響く。
「乗ってやるよ!!」
死神を睨みつけた。
「このクソ死神が!!」
言い切った瞬間。
(……あ)
自分で気づく。
(やってしまった。)
一瞬で 熱が引く。
でも―― もう遅い。
目の前の死神は、 ぱぁっと顔を輝かせていた。
『……マジで!?』
赤い瞳が きらきらと光る。
さっきまでの煽りとは違う 純粋な喜びの顔。
『逃げんなよ?』
レトルトは 顔をしかめた。
(……最悪だ。)
完全に 乗せられた。
けれど、 今さら引けない。
プライドが邪魔をする。
レトルトは 小さく舌打ちして、
「……行くぞ」
低く呟いた。
その背中を見て、まるで遠足前の子供みたいに 死神は嬉しそうに笑った。
『よっしゃ!!』
弾む声。
その隣で レトルトは挑発に乗ってしまった事をとても 後悔していた。
レトルトは 絶望していた。
カタ、カタ、カタ……
ゆっくりと ゴンドラが上へ登っていく。
規則的な音。
揺れる感覚。
少しずつ、 少しずつ、 地面が遠ざかっていく。
空は 馬鹿みたいに青くて、 雲ひとつない。
どこまでも澄んでいるのに――
レトルトの顔はどんどん血の気が引いて、青ざめていく。
『レトさーん!』
隣から聞こえる やたら元気な声が更に気分を落ち込ませた。
『見て!もうすぐ頂上だよ!』
死神は身を乗り出して 外を覗き込んでいる。
『すげーー!めっちゃ遠くまで見える!』
きらきらとした目。
『レトさんち見えるかなー?』
死神は楽しそうに笑う。
――そんなこと、どうでもいい。
レトルトは それどころじゃなかった。
安全バーに指先が白くなるほど強く 両手でしがみつく。
呼吸が、浅い。
視線は 下を見ないように必死で固定している。
(無理…. 普通に、無理。)
死神の声なんて ほとんど耳に入っていない。
そんな事はお構いなしにゴンドラは上へ、上へと登っていく。
そして、ついに….
『レトさん!!落ちるよーーー!!!』
死神の声が隣で 響いた次の瞬間、
――ふわっ。
体が、浮いた。
一瞬、 重力が消え 胃が ぐっと持ち上がる。
内臓が 全部ひっくり返るみたいな感覚。
「っ――――」
息が詰まる。
頭が真っ白になる。
そして――
「うわぁぁぁあぁぁぁ!!!」
レトルトの叫びが青空に響いた。
いつものレトルトには似合わないほど必死な声。
その隣で死神は 一瞬驚いて、それから
『うわぁぁぁぁい!!!!たのしぃぃぃ!!』
大声で叫ぶその顔はどこか嬉しそうだった。
フラフラと、 レトルトはベンチに向かって歩いていた。
足取りは重く、 視界は少し揺れている。
なんとか近くのベンチに辿り着き そのまま崩れ落ちるように座った。
「……っ、は……」
浅い呼吸。
まだ 体の中がぐちゃぐちゃだ。
そのその横で、
『ちょー楽しかったな!』
と死神は 満足げに伸びをしながら
レトルトに喋りかけた。
『なぁ、レトさん!! もっかい乗ろ――』
「絶対いやや!!」
被せるように叫んで即答した レトルトは 顔色は真っ青
死神は一瞬ぽかんとして、
『あははっ!』
と楽しそうに笑った。
『レトさんさぁ、 でかい声 出せるんだな』
からかうような声。
レトルトは ぎろりと睨む。
「……うるさい」
けれどその声には力がない。
死神は そんな様子を見て、 また笑った。
『いいじゃん』
ぽつりと、呟く。
『なんか―― “生きてる”って感じだわ』
その言葉に、 レトルトの眉がわずかに動く。
(生きてる….感じ。)
さっきの感覚を、思い出す。
どうしようもなく怖くて 必死で。
……確かに。
あれは――
“生きてる”って感じだった。
レトルトは 少しだけ視線を落とした。
隣では まだ死神が さっきと同じように 無邪気に笑っている。
レトルトは 小さく息を吐いて、
「……二度と乗らないからな」
と、死神にぼそりと呟く。
その言葉に死神は また楽しそうに笑った。
しかし、その後レトルトは死神のお願いを何度も聞くことになった。
……いや。
正確には…. 拒否しても、 聞かないだけだ。
『次あれ!!』
「いやだ」
『レトさん!行くぞー!』
「聞けよ……」
そんなやり取りを 何度も繰り返して
気づけば――
空中ブランコ
フリーホール
コーヒーカップ
乗れるものは、 ほぼ全部乗らされた。
「うわぁぁぁあああ!!!」
「ぎゃああああ!!!」
その度に、 レトルトの絶叫が響いた。
遊園地中に響き渡るんじゃないかというくらい、 遠慮のない声。
普段の冷静さなんて どこにもない。
顔は真っ青になり 足は震え、 終わるたびに
ぐったりと項垂れる。
「……もう、無理……」
ベンチに座り込んで 息も絶え絶えにレトルトは呟く。
それとは対照的に――
『いやー、最高!!』
死神はどんどん元気になっていた。
目は輝き 頬は上気し、 さっきよりも さらに楽しそうに笑っている。
『レトさん!次あれ行こうぜ!』
指差す先には まだまだ絶叫系。
レトルトは 力なく首を振る。
「お前……殺す気か」
本気でそう思った。
けれど――
『大丈夫だって!』
死神は笑う。
『殺さなくたって、後もう少しで死ぬじゃん』
死神は軽い口調で言う。
その言葉に レトルトは一瞬だけ顔を上げた。
(あと少しで――死ぬ)
「……はぁ」
レトルトは深く息を吐く。
体も気力も、もう限界。
でも なぜか
完全に嫌なわけでもなかった。
隣で 無邪気に笑う死神。
自分を振り回して、 好き勝手して。
うるさくて。
面倒で。
……なのに
その時間が 少しだけ―― 楽しいと 思ってしまった。
ほぼすべてのアトラクションを乗り終えた頃。
夕方の光が 園内をやわらかく染めていた。
「……はぁ……」
レトルトは ベンチにもたれかかり、 ぐったりと息を吐く。
もう限界だった。
(そろそろ帰るか……)
そんな空気が 自然と流れる。
その時、 ふとレトルトの視界の端に
違和感のある建物が映った。
他の明るいアトラクションとは違う、
どこか陰のある外観。
薄暗くて、 不気味で。
――お化け屋敷。
『……あれ、なに?』
死神が首を傾げる。
興味はあるけど よく分かっていない顔だ。
レトルトは それを見て、 にやりと笑った。
ほんの少しだけ 意地の悪い顔。
「……最後、あれ入ろうや」
顎で指しながら言う。
「面白いで」
わざと 軽く言った。
死神はぱっと顔を明るくする。
『ほんとに?行くーー!!』
即答だった。
レトルトに誘われたのが 嬉しいのか嬉しそうに 笑って、レトルトの 後ろをついてくる。
その様子を見ながら レトルトは 内心で呟いた。
(……せいぜい、怖がれよ。 クソ死神が。)
少しくらいは 仕返しさせろ。
そう思いながら、 レトルトは 薄暗い入口へと足を踏み入れた。
その口元には ほんのわずかに、 余裕の笑みが浮かんでいた。
中に入ると 空気が、変わった。
外の賑やかさは消えて ひんやりとした静けさ。
薄暗い照明。
古びたタイル。
かすかに聞こえる 機械音のようなノイズ。
そこは―― 病院を模した空間だった。
レトルトは、 足を止めず 淡々と 奥へ進んでいく。
その後ろで――
『……な、なぁ』
死神の声が少しだけ弱い。
『……本当に面白いんだよな?』
さっきまでの勢いは どこかに消えていた。
レトルトは 振り返らない。
何も言わないまま 歩いていく。
『おい!なんか言えよ!!』
焦った声。
『先にいくなってー!!』
慌てて後を追う死神。
その時だった。
「ゔゔぅゔぅぅ」
低い、唸り声。
物陰から、 ゆらりと影が動く。
血まみれの看護師のような人影が、
ふらふらと近づいてくる。
不自然な動き。
垂れ下がる腕。
こちらを見ているのかも分からない、
濁った視線。
一瞬の静寂。
そして――
『……っ、ひ』
死神の喉から 小さな声が漏れた。
さっきまでの余裕は 完全に消えている。
反射的に レトルトの後ろへ隠れる様に回り込む。
『ちょ、ちょっと待てって……』
声が震えている。
レトルトは、 それに気づいて わずかに口元を緩めた。
(……ざまあみろ)
そう思いながら ゆっくりと一歩、前に出る。
血まみれの看護師が さらに近づいてくる。
レトルトの背中に隠れて様子を伺う 死神。
『レ、レトさん……これ、やばくない……?』
か細い声。
レトルトは ちらりとだけ振り返って、 小さく言った。
「な?……楽しいだろ?」
ほんの少しだけ 意地の悪い顔で。
死神は、 レトルトの後ろにぴったり張りついたまま離れない。
置いていかれないように必死に足を動かす。
『ちょ、ちょっと待ってって……!』
情けない声。
さっきまでの余裕なんて どこにもない。
――ガタガタッ
突然、扉が揺れる。
『ひっ!』
ゔゔゔ……
どこからともなく聞こえる唸り声。
『ちょ、無理無理無理……!』
――ゆらり
物陰から現れる、人影。
『なんかいるって!!レトさん!!やばいやばいやばいって!!』
死神はレトルトの背中に隠れて 小さな悲鳴をあげた。
レトルトは その様子を感じながら、 にやりと笑う。
(……いい気味だ。)
(さっきまで散々振り回された分、 きっちり仕返ししてやる)
『レ、レトさん……』
震える声。
『俺、あんまりここ面白くない……』
完全に怯えている。
レトルトは 聞こえていないふりをして、
そのまま先へ進む。
やがて 少し先に 外の光が見えてきた。
それに気づいた瞬間。
『……あれ!出口!!』
死神の声が一気に明るくなる。
レトルトを追い越して 一目散に 光の方へ走る。
その背中を見て レトルトは 小さく笑った。
(……もう一押し)
そう思った、その時。
――ガサッ
物陰が大きく揺れる。
次の瞬間。
最後の仕上げといわんばかりに、血まみれの人影が 唸り声をあげながら飛び出してきた。
ゔあぁぁぁぁぁ
そして――
『うわぁぁぁぁぁあああ!!!』
キヨの絶叫が 館内に響き渡る。
さっきのレトルト以上の 全力の叫び。
そのまま勢いよく 外へと飛び出していった。
レトルトはニヤニヤしながら 少し遅れて出口へ向かう。
そして 外に出た瞬間。
思わず くすっと笑った。
死神のあんな顔 初めて見た。
あんな声、 初めて聞いた。
「……ざまあみろ」
楽しそうに小さく呟く。
腰を抜かして そのまま地面に座り込む死神。
肩で息をして 目にはうっすら涙を浮かべていた。
『……っ、はぁ……』
呼吸も整わないまま死神は レトルトを睨み上げる。
『全然おもしろくなかった!!』
声は少し掠れている。
『レトさんの、うそつき!!』
悔しさと恐怖が混ざった顔。
その様子を レトルトは上から見下ろす。
そして 口元を歪めて、言った。
「……お前、死神のくせにお化け怖いのかよ」
少しだけ、意地の悪い声。
一拍おいて。
「だっせぇ」
そのまま――
「ははっ……」
声を漏らして ケラケラと笑った。
抑えることもなく 自然に。
溢れるみたいに。
死神はその瞬間、 目を見開いた。
(……え。)
さっきまでの悔しさも 怖さも 一瞬で
どこかへ消える。
ただ、 目の前の光景に釘付けになる。
レトルトが――
笑っている。
あんな風に。
無防備に。
楽しそうに。
心から 可笑しそうに。
そんな顔、 今まで一度も見たことがなかった。
『……』
死神は何も言えなくなる。
胸の奥が 揺れる。
ただ―― その笑顔に 目が離せなかった。
(……ああ。 この人、 こんな風に 笑うんだ。)
死神はぼんやりとそう思いながら 、 その笑顔に 見入っていた。
続く
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