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時は大正───。妖(あやかし)と怪異、術師が実在する日本では、平安時代から長い戦い全面戦争が起きていた。妖と怪異と戦う為、異能を持ち 妖術、鬼術、式神 長い歴史にて語られ江戸時代に一度、人と妖達が全面戦争にて殺しあっていた。
そんな全面戦争で生き残った、1人の鬼の少女の話────。
朝日が登る六甲山、鳥のさえずりが朝を迎える声 暗闇から日が登り1日が始まる朝。山に下山したのは白い着物に羽織を来た少女、雫(しずく)は山道を下りて出入口から姿を現す。
朝日が雫を照らし笹笠を深く被り顔を隠す。
「………っ」
眩しさのあまり声を漏らす こんな早朝から町に向かって行った。何故鬼である彼女が町に顔を出すのか。
鬼は昔から人間を襲ってきた妖であり、血肉を食べ、殺し、人に恐れられいた。でも雫は違う。何故彼女だけが違うのかと言うと…片目が人間の目、鬼の目をしている。
そのせいで鬼と認識し、人に忌み嫌われていた。
ー港町ー
朝市で賑わう港町。漁港で採れた新鮮な魚、畑で採れた野菜、食欲をそそる露店が出店していた。
雫は1人屋台にておにぎりを焼く。顔を隠して炭火で焼き上げる。艶やかな米に味噌を塗って、焼いた米に焦げ目がつき美味しく出来た商品を提供していた。
こんな鬼が作る料理に人間が買いに行くのだろうか?
「………」
「よぉ 嬢ちゃん!」
「……あっ、源三さん。」
甚平を着た源三が雫の屋台に馴れ馴れしく声を掛けてきた。彼はこの町で女房と食堂を営んでおり、朝市に仕入れる食材を買いに行ってる。1人も客が来ない雫を気に掛けており、焼きおにぎりをここで買いに来ている。この町に来てからも話し掛けたのも源三が初めてだ。
彼がいなかったら、この屋台も売れ行きが良くなかったのだろう。
源三「今日も朝からご苦労だねぇ。こんな遠い山から」
雫「…えぇ…そうですね。仕入れも家からですし…毎日降りるの……これ…何度目ですか?」
源三「あー!悪ぃ悪ぃ!!おにぎり1個貰えねぇか?」
雫「はい…いつもの…ね」
これが朝の日常だ。雫は顔を笹傘帽子で隠しながら焼きおにぎりを包んで渡した。
人と避けたいのに…
雫は江戸時代で起きた全面戦争にて兵器として戦場に参加させられ、人間と殺しあっていた。終戦後に半鬼として生き残っていたが、周囲の人間に酷い仕打ちを受けられてしまった。
「化け物め…」「殺せ!この娘は鬼だ!!」「近寄るな…!この化け物め!!」「人間のフリをして…鬼の分際で近付きおって」「この町から出て行け!!」「鬼は人を食べるでしょ?」
違う…違う…私は───。
血塗られた着物、血塗れの死体、彼岸花に突き刺さった死体、植物の蔦に串刺しにした死体、締め付けられた死体───。
「あっ…ああ…」
少女の目に焼き付けられた死体…死体…死体……。地獄みたいに何度も見てきた人間の死体 血にまみれた自分の姿に怯える。
私は───。人間のフリをした、半鬼だから。
雫「…どうぞ」
炭火で焼き上げたおにぎりを包んで源三に渡す。
源三「ありがとな!」
少ない銭を手渡した後、焼き立てのおにぎりを頬張る。
雫「…熱くないですか?」
源三「あふっ…このぐらいよぉ!あちち」
雫「熱いじゃないですか…」
源三「で、この町には慣れたか?」
雫「はい…少し慣れてきました。ここに商売しに来たの正解でしたが…まだこの町にはやはり、人が繁盛してますし…お客さんが増えるのは時間の問題です」
源三「そうかそうか!まっ、俺もカミさんと食堂始めた時は最初はおんなじだったが、今は六郎もおって今は幸せだ!!」
源三には女房がいる。夫婦と共に食堂を営んでいて、彼の一人息子である福田六郎を授かってるおり、今は3人家族で幸福な生活を送っていた。雫は朝市が終わると食堂に顔を出しており、今では心を許した関係で接していた。
雫「……いつも幸せそうで…何だか羨ましい」少し微笑む
源三「家庭持つといいこともあるぞ?嬢ちゃんも歳もいいし、その内いい男と結婚して───」
「また雫ちゃんとろくでもない話持ち込んで!!男に騙されてお金持ち逃げされて、殴られる最低な男も世の中いるんだよ!?」
割烹着を着た女房が怒鳴り気味で話に割り込んできた。源三の妻、福田千鶴だ。
雫「あ、あら…千鶴さん。おはようございます」
源三「ち、ちずちゃん…あのなぁ、嬢ちゃんにいい結婚する為の話を───。」
千鶴「また適当なこと話して!いい人も入れば中身は悪って言うもんがいるんだよ!」ベシッ!(源三の頭を叩く)
源三「そ、それはだなぁ…ははは〜…」
千鶴「まったく…アンタって人は。朝市で仕入れる食材買いに行くの遅いのはいっつも雫ちゃんの店に寄って行くのは悪い癖よ!」
雫「ふふふっ…でも、2人は仲がいいのですね。いつもお店で買いに来てくれるから、それだけで嬉しいのですよ」
他愛の無い笑顔で言葉を返す。この夫婦はよく喧嘩はするが、このやり取りは雫にとって元気を出してくれる。今まで彼女の中で酷い仕打ちを受けてきたのに…この家族だけは優しく接してくれる───。唯一の味方であり、何より”家族“と言うものが羨ましかった───。
雫「それに…千鶴さん。あんまり怒ると…子供…」
トンッと千鶴の下腹部を蹴った。千鶴の大きなお腹には子供を身篭っており、六郎で2人目を妊娠していたが、2人が喧嘩をすると…よくお腹の子に怒られる…。
千鶴「あらヤダ!ごめんなさいね〜…」サスサス
雫「…分かるのはどうしてなのでしょうか?喧嘩してるとよく…その子「やめて」って言ってる…のかな?」
千鶴「母子と繋がってんじゃない?だって母と一心同体ですもの!…なーんて、声なんて聴こえないし、腹ん中で聴こえてんでしょうね」
源三「絆が強いんじゃね〜の?これぞっ!愛ってやつ!!はははっ〜!!!」
雫「………。」
愛って言うのはよく分からない…。私は愛されたことも、恋をしたことも無い。何より私には暗く、辛い記憶ばかり…。鬼側にいてから、戦争の為に入れられた兵器…愛情なんて一切私には───。紅い花の鬼術を持つ鬼───。 私はこの鬼術を持って同族の傷を癒して…殺して…傷つけて…傷つけられて…そんな辛い過去を持って生きてきたから。
私は───。こんな私を、愛する人なんているのだろうか?
朝市も終わり、露店を片付けた雫は福田夫婦が営む『福田食堂』に顔を出していた。朝市での商売の後によく顔を見せに来るが、ここの食堂は港でも有名であり町の人に親しい食事処だ。元町にひっそりと漂う食卓の匂いが町の人の腹を満たしている。雫がこの食堂に来た当初は源三に連れられ、食事を無償で提供してくれたのがきっかけで、彼女にとって夫婦は恩人であり初めて人に優しくしてもらった人間 半鬼である少女が、こんなに優しくしてもらったのが初めてで、この福田家は”家族”の様な存在でもあった。
千鶴「はい雫ちゃん、どうぞ」
カウンターに座ってる雫に焼き魚定食を配膳した。
雫「ありがとうございます…!ごめんなさい、いつもこんな食事を。うちはお金が一銭も無くて…」
千鶴「いいのよ!雫ちゃん頑張ったから、稼ぎも少なくてもいいのいいの!」
雫「……千鶴さんの料理は…温かくて優しい味がしますから…元気が出ます。こうしてお客さんが来るのは…温かい料理のおかげでしょうか?」
千鶴「うちはね 初めおばあちゃんが営んだもんだけど、貧乏には見過ごせなくてこっそり無料で食べさせてあげたもんだもん。おばあちゃんの教えで、「貧しい人には優しく、飯を腹いっぱい食わせる」それだけで家は育って教えられたから」
雫「…お婆さん優しい人…だったのですね」
千鶴「でしょ?おばあちゃんそれなのに体壊して、一生懸命働いて だけど、その優しさが原因で道中に───」
『”鬼に殺られた”』
雫「っ……」
“鬼に殺られた” その言葉で雫は言葉に詰まる。千鶴の母は鬼に殺られてしまい、娘にとっては命を奪った鬼に恨みを持っていたが 半鬼とは知らずに接した雫に優しくしたのは、人間と思っていたのでは?母の教えで、困っていた少女を見殺しには出来なかったから?
千鶴「だけど、おばあちゃんは…隊の人たちに救助されたけど…最後は鬼の子供を庇って死んじゃった。んで、おばあちゃんはなんで…あの時その鬼の子供を庇ったんだって思うんだよねぇ… 」
雫「………」
千鶴「……く、暗い話したらせっかくの飯が不味くなるな ごめんごめん!」
雫「い、いえいいんです…。仕方がないことですし…何より…」
何より、人間と妖の共存は不可能だ。今の時代でも同じだ。
昔から争い、殺し合った種族違いの戦争を起こし 妖は人間に排除される時代。共存を望み見る者もいるが、人間社会では政府に妖、鬼とみなした者は死刑になってしまう───。人間から鬼に、妖となってしまった者は生きた者はいない 政府公認の術師部隊によって処刑され、鬼と妖は人間の術師によって始末されてしまう。
近年では、人間に戻す新薬を開発する薬師がいると噂もあるが…その噂は東京にて研究の最中。
雫「多分…恨んでなんか…無かったと思います。お婆さんは…その鬼を 貧しいから助けたじゃないかって…そう思ってます…。」
千鶴「うちも…そう思っててもね…鬼は鬼だし、だけど…本当に正しかったか答えが出ないままだよ」
母を亡くしてから、何故助けたのか分からない 母の行動は本当に正しかったか今でも答えは───。
源三「おーい 白夜隊の者が来たぞ!!」
源三の声で店の戸がガラガラと開く。
千鶴「あらヤダ!”支部”の人たちが来たわ!」
雫「…!」
“支部”の人たち、白夜隊 その夫婦の言葉で雫はハッと息がピタリと止まる───。
軍服の男3人が店に入ってくる。”彼ら”が白夜隊、術師だろうか?
この時雫は、術師の”彼”との出会いが 運命を狂わす歯車が 動くなんて思っていなかった───。