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スタートヽ(*^ω^*)ノ
前回の屈辱を晴らすため、
キヨの心には消えない炎が燃えていた。
眠らされ、宝を奪われ、
何もできず床に膝をついたあの夜。
その悔しさは、今も拳の奥に残っている。
「次は、絶対に逃がさない」
キヨはレトルトの行動を徹底的に洗い出した。
侵入経路。時間帯。トリックの仕様。
まるで相手の思考をなぞるように、
何パターンもの手口を机に並べていく。
今回、怪盗レトルトが狙うのは
《紅輝のルビー》
世界に一つだけしか存在しないと言われる、
完璧な透明度と深紅の輝きを持つ宝石。
一度見た者は、その色を生涯忘れられないという。
富豪やコレクターが喉から手が出るほど欲しがる逸品と言われていた。
現在、その宝は国立美術館の特別展示室の地下に収められていた。
三重の防弾ガラス、床一面の圧力センサー、
赤外線レーザーが蜘蛛の巣のように張り巡らされている。
そして――
その中心で指揮を取るのは、若き探偵 キヨ。
「今回は一味違うぜ、怪盗レトルト 」
キヨはニヤリと笑った。
紅輝のルビーそのものが罠だった。
宝は分厚い強化ガラスの台座の中央に鎮座している。
美しく、妖しく、まるで「触れてみろ」と誘うように輝いていた。
だが、その瞬間。
ルビーに指が触れた途端、
天井に隠された排水扉が一斉に開く。
轟音とともに、
大量の水が滝のように流れ込む。
床は瞬く間に水没し、
出口へ続く通路も水圧で封鎖される。
逃げ道はない。
息をする空間さえ、徐々に奪われていく。
「絶対逃がさないからな」
監視室のモニター越しに、
キヨは静かに呟いた。
必ず捕まえる。
今度こそ――目の前で。
静まり返った展示室。
紅輝のルビーは、ガラス台座の上で赤い光を放っていた。
監視カメラの死角。
天井の換気口から、影が一つ降り立つ。
白と黒の仮面。
怪盗レトルト。
『ふふ、……相変わらず派手な歓迎やなぁ』
小さく笑い、床に足をつけた瞬間――
圧力センサーは反応しない。
なぜなら、レトルトの靴底は特殊な浮遊素材。
重量を床に伝えない。
赤外線センサーは….
すでに数分前レトルトが屋外から放った小型ドローンが 展示室内の温度分布を微妙に狂わせていた。
人の熱を識別できないほどに。
レトルトは悠々と歩き、
ルビーの前で立ち止まる。
『これ触ったらどうなるの?俺、死ぬ?』
トラップを楽しむかのような声。
ガラスケースに指を触れず、
懐から取り出したのは――
精密な吸着アーム付きの小型機械。
ガラスを傷つけず、
宝石だけをそっと掴み上げる。
その瞬間。
天井が開き、
滝のような水が落ちてくる。
だがレトルトは慌てない。
『あぁ、なるほどねぇ』
腰に巻いたベルトから
折り畳まれた透明な球体が展開する。
一瞬で膨らみ、レトルトを包み込む耐水カプセル。
水圧が通路を塞ぎ、
展示室は巨大な水槽と化す。
監視室のキヨは目を見開いた。
「まさか!?うそだろ!?」
水中で、
カプセルに守られたまま
レトルトは天井の排水口へと吸い上げられていく。
最初から狙っていたのは、
“水を逃げ場に変えること”。
数秒後、
排水路の先――屋外の噴水池から
ぷかりと白黒の仮面が浮かび上がる。
レトルトはルビーを掲げ、
月光にかざして微笑んだ。
『君はとても綺麗だねぇ。さぁ、元いた場所に一緒に帰ろう』
輝く月を背に、怪盗レトルトは意味ありげな微笑を残し、夜の闇へと溶けていった。
それから幾度となく予告状が届いた。
そして、そのすべてがレトルトの高笑いで終わった。
どれだけ罠を張っても。
どれだけ警備を増やしても。
どれだけ頭を巡らせても。
怪盗レトルトは、まるで嘲笑うかのように宝を奪い去る。
キヨは歯を食いしばった。
拳が震える。
胸の奥で燃えるのは、正義感だけではない。
レトルトへの執着。
捕まえられない焦燥。
——どうすれば勝てる?
——どうすれば、あいつを捕まえられる?
いや、それ以前に。
あいつは、何者なんだ?
ふと浮かんだ疑問が、キヨの思考を貫いた。
怪盗レトルト。
名前以外、素性は一切不明。
年齢も性別も、過去も目的も謎。
まるで——
最初から“存在していなかった”かのように。
キヨはすぐに踵を返した。
向かう先は警察本部地下の資料室。
重い扉を開け、埃の匂いが満ちる静かな部屋へ踏み込む。
棚一面に並ぶ事件ファイル。
その中から、キヨは一つ、また一つと“怪盗レトルト”の記録を引き抜いていった。
紙をめくる音だけが響く。
過去の事件。
被害品。
現場写真。
目撃証言。
ページを追うほどに、違和感が募っていく。
どの事件にも共通する不可解な点。
警備を傷つけない。
無駄な破壊をしない。
そして——
一つの共通点が、キヨの目に留まった。
美術館が所蔵していた宝。
大富豪が買い取った宝。
村の守り神と呼ばれた宝。
その他にも。
どの宝にも、“元の持ち主”が存在している。
そして、資料をさらに読み込むほど、奇妙な事実が浮かび上がる。
それらの宝はすべて盗まれた後
“本来あるべき場所に還されていた”
ことだった。
「本来あるべき場所から一度奪われたもの」
….なのか。
戦争で持ち出されたもの。
騙し取られたもの。
権力で強引に譲渡されたもの。
怪盗レトルトが盗んだのは、
“新しい所有者”から。
そしてその後——
宝は二度と市場に現れない。
まるで、
元の持ち主のもとへ還っている かのように。
キヨは背筋に冷たいものを感じた。
「……ただの泥棒じゃない。
レトルトは宝を“取り返している”…?」
——こいつは、本当に悪なのか?
キヨの心が静かに揺れ動く。
続く