テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
6件
シチュエーションが好きすぎてびっくりしました!!! 一気読みさせてもらったんですけど面白すぎて何回も読み直しちゃいます…!! 次の更新も楽しみに待ってます😌
1日格闘してFAを描きたいという思いに気づきました FAを描かせてください!!!!!!魑魅魍魎さんをお友達に広めるチャンス!!!!!!
好きすぎてスマホぶん投げそうになりました……てか舐め回していいですか????
4話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
そして――今夜も、白い封筒が静かに舞い降りた。
封蝋には、あの不気味で愛嬌のある印。
白と黒のバッテンの目、ギザギザの口。
怪盗レトルトの証。
キヨはそれを指先で拾い上げ、ゆっくりと開く。
今宵、零時。
王家に代々伝わる“星涙の首飾り”を頂きに参上する。
歴代の王妃が胸に宿した、永遠の輝き。
その本当の持ち主の元へ返すために….
——怪盗レトルト
紙を握る手に、自然と力がこもる。
王家の至宝。
王妃たちが戴冠の儀で身につけ、
愛と誓いの象徴として受け継がれてきた首飾り。
澄んだ宝石は、夜空の星を閉じ込めたように輝くという。
その首飾りは、もともと由緒ある王家の宝だった。
王妃から王妃へ。
愛と誓いを繋ぐ証として、代々受け継がれてきた“星涙の首飾り”。
しかし時代は変わり、王家は歴史の中へと消えた。
そして現在。
その首飾りは国家のトップ、大統領の手に渡っている。
表向きの理由はこうだ。
「正当な継承者が存在しないため、国家が保護管理している」
噂によれば、王家の血筋は途絶え、
引き継ぐべき者がいなくなったのだという。
――なのだが。
キヨは資料の最後のページで、指を止めた。
小さく書かれた、古い新聞記事の切り抜き。
“王家の生き残りとされる人物、消息不明”
“幼い王子が事故の後、行方不明に”
“真偽不明。国家は関与を否定”
胸の奥が、ざわりと波立つ。
「……なるほどな」
ただの宝石泥棒じゃない。
ただの快楽犯でもない。
“本当の持ち主の元へ返す”
あの予告状の一文が、再び脳裏に蘇る。
キヨは静かに息を吐いた。
今夜の勝負は、
宝を守る戦いではない。
“真実”を暴く戦いになる。
そして、予告の時刻が訪れた。
王都中央、国家管理の宝物殿。
今夜、怪盗レトルトの相手は――国家そのものだった。
建物を取り囲む特殊部隊。
屋上には狙撃班。
地下には逃走阻止の封鎖ゲート。
監視カメラは一秒の死角もなく、赤外線センサーが空気の揺れすら捉える。
完璧。
誰が見ても、逃げ場はない。
その中心に立つキヨでさえ、思わず息を呑んだ。
「……本気すぎるだろ」
拳を握る。
今度こそ捕まえる。
その決意は揺るがない――はずだった。
だが胸の奥に、別の感情が燻る。
レトルトは、ただの怪盗じゃない。
宝を“奪う”のではなく、“返している”。
もしこの首飾りにも、本当の持ち主がいるのだとしたら。
もし国家がそれを隠しているのだとしたら。
自分は今、
正義の側に立っているのか。
それとも、真実を覆い隠す側なのか。
キヨの中で、炎のような闘志と、冷たい疑念がせめぎ合う。
――それでも。
「捕まえる。直接問いただす」
逃がさない。
だが、ただ捕まえるためじゃない。
仮面の下の“お前自身”を知るために。
時計の針が、予告時刻を指す。
その瞬間――
どこからともなく、軽やかな笑い声が響いた。
『やぁ、探偵さん。今夜もお世話になります』
怪盗レトルト、降臨。
白と黒の仮面の奥で、
金色の瞳が愉しげに光っていた。
ありとあらゆるトラップ。
床から噴き出す拘束ネット、天井から降る鋼鉄の檻、壁を走る電流。
人間なら一歩で終わる死の迷路。
だが――
怪盗レトルトは笑っていた。
ひらり。
くるり。
まるで音楽に合わせて踊るように、危険をすり抜ける。
蝶のように優雅で、
風のように掴めない。
警備隊は叫び、指示が飛び交い、モニターは警告音で埋め尽くされる。
現場は完全な混乱。
その中心で、レトルトは何食わぬ顔で宝を手に取った。
王家の首飾りが、白い手袋の指先で揺れる。
『――美しい。でも、君の居場所はここじゃない』
小さく呟き、首飾りを懐へ収める。
勝負はついた。
誰もがそう思った、その瞬間。
「そこまでだ!!怪盗レトルト!!」
静かな声。
王都の屋上。
レトルトが着地しようとした先――
そこに立っていたのはキヨだった。
逃走経路。
着地点。
跳躍の角度。
今までの事件すべてを解析し、導き出した“唯一の答え”。
キヨはそこにいた。
「今回は…読ませてもらった」
拳銃を構え、鋭い目で仮面を捉える。
蝶は、ついに網にかかった――
はずだった。
レトルトは仮面の奥で、愉しそうに微笑む。
『ふふ。さすが探偵さん。 読まれてたんだぁ』
仮面の奥から、楽しげな声が弾んだ。
怪盗レトルトはまるで舞台の上の役者のように、軽く拍手をしてみせる。
『今まで何人も俺を捕まえようと追ってきたんやけどさぁ。
ここまで“本当に届いた”のは君が初めてだよ。すごいねぇ、探偵さん』
その声は心底嬉しそうで、どこか誇らしげだった。
しかし――
「君じゃない」
鋭く割り込む声。
「俺の名前はキヨだ!! ちゃんと覚えとけよ!お前を捕まえる男の名前だ!」
威勢よく言い放つその声に、迷いはない。
レトルトは一瞬だけ目を丸くし――
次の瞬間、心から愉快そうに笑った。
『ははっ、いいねぇ。 名前で呼べってこと? じゃあ――』
仮面の奥の視線が、まっすぐキヨを射抜く。
『よろしくね、キヨくん。
俺は怪盗レトルト。君が初めて“追いかけるに値する相手”だよ』
静まり返る王都の屋上。
キヨは構えた銃口をまっすぐにレトルトへと向けた。
揺れない手。迷いのない瞳。
「――なぜ宝を盗む」
低く、押し殺した声。
「なぜ人を困らせる!
なぜそんなことを楽しそうにやるんだ!」
張り裂けるような叫びが夜空に響く。
銃口がわずかに震える。
それは恐怖ではなく、怒りだった。
レトルトは、宝石を指先で転がしながら、静かにキヨを見つめていた。
仮面の奥の表情は見えない。だが――その沈黙は、嘲笑ではなかった。
『……いい質問やね、キヨくん』
柔らかく、どこか寂しさを帯びた声。
『キヨくんは“盗まれる側”を見ている。
そりゃ、そうだよね。
でも俺は、“本来あるべき場所から奪われたもの”を取り戻してるだけなんやで』
キヨの眉がひそめられる。
静かに語られる言葉。
その声には、確かな信念が宿っていた。
キヨは銃を構えたまま、息をのむ。
「……正義のつもりか?」
『さぁね』
レトルトは肩をすくめる。
「ふざけるな!!お前がしていることは間違いなく悪だ!!」
熱い熱を帯びたその怒号に一瞬レトルトは驚いた。
が、次の瞬間….
レトルトは動いた。
音も、影も置き去りにするような速さ。
次の瞬間、キヨの背中は冷たい壁へと叩きつけられていた。
喉元に絡みつく細い指。
息が詰まり、視界が揺れる。
「……っ!」
レトルトは仮面越しにキヨを覗き込み、
そのまま耳元へ唇を寄せる。
囁きは、甘く――そして底知れなく冷たい。
『ねぇ、キヨくん』
優しい声なのに、背筋が凍る。
『この宝が、もともと誰のものだったか……知ってる?』
細い指先が喉に喰い込み、息が細くなる。
『この宝物を大切にしていた人達が、欲望の為だけに理不尽に奪われる悲しみ。
返してって、どれだけ願っても届かない絶望。
泣き叫ぶ人達を虫でも潰すように殺して家族の目の前で八つ裂きにする残忍さ。
……キヨくんは、それを見たことがあるの?』
キヨの瞳が揺れる。
『この宝を“守っている側”は、本当に正しいのかな。
泣いていた人達の声を、君は聞いたことがあるの?』
レトルトの声は静かだった。
怒りではなく、深い哀しみと執念が滲む声。
『俺はね――
奪われたものの声を、ずっと聞いてきたんやで』
その言葉だけが、夜に落ちる。
怪盗は悪か。
探偵は正義か。
その境界が、今、確かに揺らいでいた。
仮面の奥。
わずかに覗いたレトルトの瞳は、熱を帯びていた。
鋭く、逃がさぬようにキヨを射抜く視線。
その奥で、静かに、しかし確かに燃える炎。
背筋を氷で撫でられたような寒気が走る。
けれど——
『ふふ、ごめんね。苦しかったよね』
首元の指が緩む。
耳元に落ちる声は、驚くほど柔らかい。
まるで子供をあやすような優しさ。
キヨは息を呑み、
それでも目を逸らさなかった。
復讐に燃えるようなレトルトの瞳。
その炎を見つめながら、キヨはふと気づいてしまった。
——この目は、自分と同じだ。
守りたいもののためなら、譲れない信念のためなら、どこまでも追い詰める。
喉を締めつけられながら、キヨは苦しげに言葉を絞り出す。
「……盗んだ宝を……持ち主に、返しているのか……?」
一瞬。
レトルトの目が、わずかに揺れた。
次の瞬間、指がふっと離れる。
『内緒〜』
仮面の奥で、楽しそうに笑う声。
キヨは床に膝をつき、空気を求めるように咳き込む。
ゴホ、ゴホ、と乾いた音が静まり返った空間に響く。
床に座り込み、息を整えるキヨ。
喉の奥がまだひりつき、胸が大きく上下していた。
その姿を、レトルトは愉しそうに見下ろす。
『……いいねぇ、その顔』
仮面越しでもわかるほど、声が弾んでいた。
『必死で、悔しくて、でも諦めてない顔。
すっごく唆るわぁ』
キヨが顔を上げる。
その視線を、レトルトは真正面から受け止めた。
『俺、久しぶりにゾクゾクしちゃった。
キヨくんのこと、気に入ったわ』
夜風が外套を揺らす。
『ねぇ、キヨくんこれからも――
ずっと俺のこと追いかけてね。そして俺を捕まえてみてよ』
次の瞬間。
レトルトは仮面に指をかけ、
ゆっくりと、それを口元までずらした。
誰も見たことのない素顔。
覗いた唇が、淡く笑う。
そして。
驚きで動けないキヨの前に屈み込み、
その唇が、ふわりと触れた。
一瞬。
熱だけを残して離れる、軽いキス。
キヨの瞳が大きく揺れる。
(…..は?)
『ふふふ……またね、探偵さん』
囁きと共に、怪盗は闇へ溶けた。
残されたキヨは、
自分の唇に指を当てながら呟く。
「あいつ、なんなんだよ。…絶対、捕まえてやるからな」
それはもう、
正義の執念か、
あるいは――恋の始まりか。
続く