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「蒼井さんおはよう」
「おはよう」
あの日以来彼は私に毎日話しかけてくるようになった。
連絡先も交換したし私も話すのが楽しいと思えてきた。
恋が何かは知らないけれど、彼と話すのは嫌ではない。
むしろ好きな方だと思う。
「蒼井さんって毎日連絡が来たら嫌な人?」
「んー、毎日はしんどいかもなぁ。そういうのよく分かんなくて」
けれど、こういったそういう関係でしか見られていないような会話が苦手だ。
「彼氏とかいた事ないの?」
「無いよ!中学も呑気に友達と遊んでた」
中学生の時も誰かに告白されたことはあった。けれど毎回関わったことの無い誰かで私の友人は誰もそういう風に私を見ていなかった。
「蒼井さんらしくてぼくは好きだけど」
「何それー」
こうやって私に対して好意があるんだと分かるような発言。
少し苦手だ。
授業中も最近はよく原田くんのことを考えるようになった。
どうして私を好きなのかとか、何がきっかけなのかとか気になってしょうがない。
自分でも好かれるような行動をしたと思ったことは無いしそれが何よりも不思議で仕方がない。
それを瑠那に言うと瑠那はニヤニヤしてこう言った。
「その人と付き合える条件はキスできるからしいよ」
「キス?どうして」
「想像してみて。例えば阿部先生とキスできる?」
阿部先生とは中年の数学教師でいつも機嫌が悪そうだから関わりにくい。
別になんとも思っていないがキスできるかできないかで言えば、
「できない」
「でしょ?なら凛華は阿部先生と付き合えないってこと」
「恋愛対象として恋人として見れるなら原田くんと付き合ってみたら?」
毎日想像する私と原田くんのキスシーン。
どうしても拒絶してしまう私の心。
原田くんとはそういう関係にはなれないということ。
私には原田くんの気持ちに応えることが出来ない。
このまま意味の無い関係を続けても相手にも失礼だと思う。
きちんと好きではないと気持ちは伝えなければならない。
ただ、自分に対してせっかく好意を寄せてくれた人を私はどう否定すればいいのか分からない。
こうやって学生という悩みが多い年頃に何故恋だとかいういちばん面倒なことをしなければならないのか不思議で堪らない。
恋愛感情なんて持たなければ悩み事だって減るのに。
そんなこと考えたところで意味は無いけれど。
「蒼井さん。今日一緒に帰れない?」
昼休み。瑠那とお弁当を食べていた時唐突にそう言われた。
「駅までなら」
原田くんは嬉しそうな顔をして昇降口で待っているとだけ言い自分のクラスへ帰って行った。
「凛華さ、それ思わせぶりにならないの?」
「思わせぶり?」
「うん。だってその感じだと原田くん自分にも可能性見えてきたって思ってるよ」
「えぇ、ないないない」
彼への気持ちは初めて告白された日から何一つとして変わってはいない。
そしてこれからも変わらないと思う。
「だったらさ、今度から2人で会えるような状況作ったり楽しそうに話したりするの辞めな」
「それは原田くんが可哀想」
彼の気持ちを弄んでしまっているのだろうか。
期待させて、私は何ひとつとして興味が無いなんて残酷すぎる。
でも分からない。恋とは何で愛とはどんなものなのか。
何が原田くんを期待させているのかさえも私には分からなかった。
あっという間に放課後になった。
冷めた空気が教室中を囲う。
次々と部活に行ったり下校したりする生徒達。
教室にいる生徒の数も3分の1になった。
昼に言われた瑠那の言葉が頭から抜けない。
また私は原田くんに期待をさせてしまう。
最終的には突き放してしまうのに。
私は自分の席から動けないでいた。
「あれ?凛華?」
「瑞稀、どうして」
「課題プリント取りに来た。凛華は何してんの?」
「私は、」
瑞稀に話したところで私は何も出来ない。
この状況は変わらない。
でも、聞いて欲しい。あの時みたいに救って欲しいと心の中で期待をしている。
「原田くんを待たせてる。」
「原田?なんで」
「一緒に帰る約束してる。でも、行ったらまた思わせぶりになるんじゃないかって怖くて」
「まぁ確かにな」
「瑞稀もそう思う?」
少し意外だった。
瑞稀もそういうことは考えるし思うんだと。
私だけまだ幼い頃に取り残されているみたいで怖くなる。
「凛華がやってる事は原田に対してのエゴだからさ。もう終わらせればいいんじゃない」
「終わらせる、、?」
「好きになれないってはっきり言うんだよ。」
「でも、原田くんを傷つける。それに何か言われたらどうすればいいかわかんない」
「傷つかない恋愛の終わりなんて無い。」
「それに、凛華なら大丈夫。いざとなったら俺が助けるから。」
笑った瑞稀の顔が初めて話しかけられたあの日の顔とリンクする。
この人は変わらない優しさと強さを持っている。
なぜだか知らないけれど胸が締め付けられて苦しくなった。