「原田くん、ごめんお待たせ」
「良かった、来てくれて」
校舎の外へ出るといきなり肌寒くなる。
もう冬が来るんだと嬉しくなった。
グラウンドから聞こえるサッカー部と野球部の声が大きく響いている。
体育館から聞こえる微かなバスケットボールが跳ねる音とシューズと床の摩擦音。
あぁ、いるんだな瑞稀が。
もうすぐ駅に着く頃になる。
いつもより遅く歩いていたからもう薄暗くなっていた。
早く言わないといけない。
「原田くん。あのさ」
「うん、?」
「私、原田くんと話すの楽しいし原田くんは素敵な人だと思う。」
「でもね、私気になってる人がいて原田くんのこと好きになれない。だからもうアプローチもしてこないで欲しい。」
思っていたことを言ったつもりだから彼を傷つけてでも私は自分を優先した。
これが間違いだとは思わない。
瑞稀が押してくれた背中を裏切る訳にはいかないから。
原田くんの表情はただただ曖昧で分かりづらかった。
「つまり、僕の事好きじゃないから付き合える希望がないってことか。」
「あんだけ思わせぶりしてたのに?」
心臓が大きく脈打った。
問い詰められてるようにしか聞こえない声色と表情が怖くてその場から逃げ出したくなる。
目頭が熱い。
そんなつもり無かったと言おうとしたのに声が出ない。
目の前の状況が怖くて仕方がない。
「普通に最低だよ。君のことなんて好きになるんじゃなかった。 」
その言葉がなんだか私の心に響いて辛くなる。
頬をつたる暖かい涙が肌寒い季節に場違いだと感じるほどに傷ついてしまった。
吹く風が強くなり、風に刺があるよう。
「泣きたいのは僕で君じゃない。」
言われる言葉ひとつひとつが矢のように私の心に深く突き刺さる。
この時間が永遠に感じて怖くなった。
逃げ出したくても逃げ出せない自分に腹が立ってしょうがない。
「本気でこいつのこと好きなら泣かせんなよ」
唐突に声が聞こえた。
私の後方だと思う。
聞き覚えのあるあの優しい声だった。
「瑞稀、、。」
「お前を傷つけないために凛華がどれだけ悩んだと思ってんの。」
あれだけはやく脈打っていた心臓が段々落ち着きを取り戻す。
少しの風でも倒れそうになるのに、瑞稀のおかげで私には何も感じない。寒くない。
「僕はただ純粋に好きなだけだった!それなのに彼女は僕の心を弄んで、 」
原田くんは次々に私に汚名を着せた。
好きだなんて幻想だと思える程に苦しい言葉ばかり。
私を好きなわけが無いと感じるほど棘のある言葉だ。
「好きな方もだけど好かれる方も辛いんだってお前なら分かるんじゃないの。」
瑞稀は原田くんの目を見て真剣に話す。
瑞稀がただ私の為だけに私を救ってくれる事実が愛おしく思える。
私の味方をしてくれる人がいる。
それだけがただただ嬉しくてまた涙が溢れる。
こんな時に自覚してしまう。
私は瑞稀が好き、だと。
「凛華、帰ろう」
私の手を引き改札を通りホームに行くと彼は右手を離した。
そして、私の瞳から大粒の涙がまた溢れ出した。
向かい側の窓から見える外の景色が暗くて、何も見えない。
反射して私たちが写っている。
「瑞稀、ありがとう」
「あぁいや。別に。それに言ったじゃん。俺が助けるって。」
照れくさそうにどこかを向く君を愛おしいと感じてしまう。
恋をしたと気づいてしまえばそれはもう一瞬でただただ苦しくて辛い。
胸が締め付けられる苦しさも君が私だけを見ていないというその事実も恋をしたから知ったこと。
「この電車乗ってよかったの?」
「俺もこの電車だから大丈夫」
「そうなんだ。」
思えば君の好きな食べ物も君の好きな曲も君の好きだと思う人も何もかも知らない。
知りたいことは山ほどあるけれど知るためには行動をしなければならない。
恋とは突然でまた儚いもの。なのだろうか。
私には分からない。
誰かを好きになることが楽しくもあり苦しいことだなんて知らなかった。
私が苦しい理由は何。
君が私の方を向いてくれないから?
私はそれほどに欲があっただろうか。
不思議なくらい君が欲しい。
この電車が永遠に止まることなくずっとふたりでいたい。
そんなこと有り得ないのに、現実味を感じている私は本当に馬鹿だな。
きっといつか終わりは来るのに。
「あのさ、瑠那。」
「どうしたの、そんな深刻そうな顔して」
「私、瑞稀が好き」
「あぁ、そうなんだ。てかそんなこと?気づいてたわ!」
瑠那にはいちばん最初に言いたかった。
彼女なら私を理解してくれると思ったから。
誰よりも私を見てくれているから。
「頑張りなよ」
「うん!ありがとう」
口に出すだけで想いが募って行く。
どうしても言ってしまいそうな好きを私はこれから何処に貯めればいいのだろう。
好きだと言ってしまいたい。
けれど私の思う好きに行き場は無い。
いつかきちんと伝えられたらその時は私に君も恋して欲しい。
あの真っ直ぐな瞳に惚れてしまった。