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「いらっしゃいませ。こちらの御荷物ですね」
香帆は桜志郎から荷物を受取り、〈大きさ〉と〈重さ〉を計った。
箱は大きいが軽い。衣料品が入っているようだ。
「通販の返品です。サイズを間違えてしまって」
照れて笑う桜志郎は可愛いかった。まるで人気アイドルのようだ。
(なんか、癒されるなぁ)
桜志郎は「いい印象」だけを残して、爽やかに帰っていった。
香帆は初めて見る客だ。美緒に訊いてみた。
「今までに来たことあった?」
「知らない。初めてだと思う」
香帆は(また来てくれたらいいな)と思った。
嫌なことが続いて暗い気持ちの香帆が、少しだけ明るくなれた。
恋愛感情ではない。
ファン? じゃなくて、『推し』ってこんな感じかな? と思った。
一瞬しか会ってないのに、心を掴まれた気分だ。
仕事の終了間際に、颯真からLINNが届いた。
『先輩に誘われたから飲みに行く 先に寝といて』
絶対にウソだ。
誰にも相談できないけど、グチャグチャの頭の中を整理したい。
香帆は、仕事帰りに駅前のカフェに行った。
セルフサービス式の人気店だ。
カウンターの一番端に座ってカプチーノを飲んだ。
でも、味がしない。香りも感じない。
(もう、ダメなのかな。このまま真っ白になるのかな)
香帆の目に涙が溢れたとき、
「あれ? 宅配便の方ですよね」
コーヒーを持った桜志郎が、斜め後ろに立っていた。
「今日はお世話になりました。ココ座ってもいいですか?」
「は、はい」
桜志郎は香帆の隣に座った。
「あれ? 泣いてるの?」
桜志郎が香帆の瞳を覗き込んだ。
香帆の目から涙がこぼれ落ちた。