テラーノベル
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︎✦︎🔫と🎲
︎✦︎さむい季節
ぽつんと佇む頼りない灯りに照らされた道、嫌がる相棒はポケットに手を入れたまま。暗い世界に吐き出す息はやけに鮮明で、日に日に冷たくなる風に撫でつけられた頬は擦り傷みたいに色付いて。数歩の差で後ろを歩く彼は頻りに帰路を求めて鳴いているけど気にしない。徐々に外の空気に馴染む中でまだ温かさの残る腕を引いて迷いない足取りでまた一歩踏み出して。こつこつと足元の黒い地面から響いていた音はいつしか砂浜に沈んでいった。白に僕らの音が飲み込まれる代わりに遠くの紺色が押し寄せる音はやけに大きくて静かで。辿り着いたと伝えるために押し出した声でようやく寒さを思い出した。
「ついたよくずはぁ〜!」
暗い空に浮かぶ真ん丸な白は明るくて、落ちた光はゆらゆらと動き続ける波に嫌われてきらきら外へと反射していた。掴んだままの腕の持ち主へと視線を戻して、戻した先でその赤の真ん中に映り込む自分と目が合ってぬくもりを掴む手が勝手に解けて。逃げ出す様に足は反対方向、押し寄せる青の元へ進んでいく。進む度に足音と一緒に足が飲まれて身体が右へ左へと勝手に揺れて。ぐにゅ。踏み込んだ先がやけに柔らかくて濡れた跡の残る砂の上に不本意ながら座り込んだ。と同時に波の音を掻き消す程の愉しそうな笑い声が後ろから届く。言い慣れた三文字を舌に乗せながら声の元へ振り返る。続くはずだった言葉は途中見つけた物に簡単に書き換えられた。
「葛葉〜、海月落ちとる。」
打ち捨てられたそれは己の重さで歪んで形のいい円は保っていない。
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