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︎✦︎🌶と🥂✨
︎✦︎付き合ってる
︎✦︎卍飯屋最強卍
︎✦︎台詞のみの場所あり
電源を付けたままのテレビは今も別世界での出来事をドラマチックに繰り広げている。
自分の部屋にはないソファに身体を埋めて、すぐ傍の机の上、すっかり空になった缶をひとつ手の内から離した。画面の中の映像が喜劇なのか悲劇なのか、判断出来るほど意識は向いていない。
ただ静か過ぎるのが落ち着かなくて、ほんの少しの雑音を増やす為だけに使ったリモコンは缶よりも向こう側、手に取るには身体を起こさなければならない場所に放置されたままだった。
「……まぁだかなぁー、」
部屋の主は未だ不在。合鍵なんてものを持っている訳でもなく、ただ自分が訪れてから席を立っただけの話。
普段なら帰る頃には見計らった様に寝支度まで済ませている年下の先輩は、今日はのんびりと湯浴みをしている頃だ。 だってさっきそう言ってたから。
手ぶらで来るのも、とコンビニで差し入れを買ったはいいが、アルコールの缶の中身は殆ど自分が飲んでしまった。残るはあと二つ。彼はあまり強くないのだし、なんて言い訳を頭の中で繰り返して、また一つ手に取った。パーセンテージが高めの方。既に酔いは回っているし頭は熱い、頭どころか顔も身体も。それでも働く思考が面倒で、やめておけ、と訴えかける脳内の声を振り切る。
かしゅ。
やけに重たく感じたプルタブを起こすと小気味いい音が響いた。冷えた飲み口に口付けて、一口ふたくち三口。重力に任せて飲み下ろし、たところで、がちゃりと音が。
なんの音?扉の開く音。
ついで聞こえるのはこの数十分間一人で待ちぼうけていた彼の声。勢い付いた液体は口腔内に留まらず端から漏れ落ちた。
勿体ねえ!机の上の空き缶と自分が手にした缶を見た彼が怒ったように近付いてくる、いやでも知ってる、これきっと本当に怒ってる訳じゃねえんだ。心配、とかなんかそういうやつ。
こちらに向かう途中でリモコンを手にした彼に何をいう間もなく、短い電子音と共にテレビ画面は暗転した。缶の残骸、机、それよりもずっと近くなった彼に缶を取られた。まだ半分は残っていたけど、今はまぁ、いいか。抵抗するでも無しに手放して、それが机に置き去りにされたところで、手の内に彼を捕まえて。湯上りで柔くなった赤に顔を擦り寄せた。俺も明那も暖かいけど、その理由がまるで真逆なことが、なんだかおかしくて。頻りに名前を呼ぶその唇を一度だけ食んだ。
「おかえり明那ぁ。あったまった?」
「も〜…!……も〜〜……!!暖まりましたけども!!お陰様で!!」
ろくに閉めてなかったカーテンから差し込む日差しで目が覚めた。腕の中に収まっている銀と紫、それからピンク色…柔い髪が呼吸に合わせて上下して、少しくすぐったい。夜のネオンが映えそうなのに太陽ですら綺麗にこの男を飾り立てるんだから溜まったもんじゃない。天は二物を与えずってのは大嘘にも程がある。
そんな事を考えながら自由の効くもう一方の手でスマホを手繰り寄せる。充電コードはしっかりと刺さったままだ。親指で画面をタップすれば表示される8:43の数字。それからその下にdiscordの通知が一つ。……そういえば今日ってオフコラボの日じゃなかった?それで先に集まっとこうってふわっちと決めてまゆにも連絡して……。
「やばい!!ふわっち!起きて!まだ余裕あるけど!あるけど急がん!?」
「んぉ、あきにゃ〜……?ぁいあい…おき…、……、…!!起きるか何時や今!?」
どうやら腕の中にいた彼もほんの少しの時間で予定を思い出したらしい。もしもに備えて遅めの集合にしていた過去の俺ら、ありがとう。
ばたばたと慌ただしくいつもの服に袖を通して、限られた時間で髪もしっかりセットをして。朝飯は食べていくか少し考えた後、合流してからどこかで昼も兼ねて食べればいいだろうと判断して携帯に財布をポケットに押し込んで。二人で使うには狭い玄関、自分より背の高い恋人に先に靴を履かせてから鍵を持って雑に靴に足を突っ込めば、肩をとんとんと叩かれて顔をあげた。と同時に目に映るのは恋した相手の顔、理解するより少し早く唇にやわらかい感触が落ちて、顔が熱くなった。ずっっっる!
「……やっとる場合か!!」
想像していたよりも大きい声が出て自分が一番驚いた。目の前の男は、にゃははなんて気の抜けた笑い声をあげるだけ。背中を押して玄関から外へと追い出せば扉を閉めて、ガチャリ。鍵をかければ何も持っていない相手の手をするり、指先を指のあいだへ滑らせて握りこんだ。公道まではセーフだからこれ。どうせ気にしてないんだろう、そう思いながら視線を向ければ眉を下げて笑う姿が見えてまた少し心臓が高鳴った。どんだけ魅力的やねん!!魅力溢れて零れるやんけ!!?!?
「あ、不破くん、明那。おは……うわ、酒くっさ」
「二人が何してようと俺は別に構わないけどさ。バーチャルの存在とはいえ、同じバーチャルの俺には匂いも伝わってくるの肝に銘じておいてよね。お母さんもうあんた達の面倒最後まで見切れないんだからね!」
「まゆちゃんっ……きゅん…」
「今度はまゆも一緒に飲もね〜楽しもね〜〜」
「うーんそれって俺お邪魔なんじゃ……いやそんな事ないか。どこでも盛る訳でもないだろうし。だよね?」
「なんで俺の方見んねん!まゆ!!お前っ!!こちとらピュアピュアチェリーボーイやぞ!!」
「あっまだチェリー……」
「まゆ、それ以上はあかん」
「ふっ……ふぅぅ〜〜……!」
「わっ…!泣いちゃった…!」