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2 - 記憶と花言葉

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26

2025年11月27日

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記憶と花言葉

そして、私は知ることになる。


花が毎朝そこにある理由を。

 

ガチャ──。



朝の光の中、ゆっくりと扉が開いた。




昨日の彼……ではなかった。




白衣の裾を揺らしながら入ってきたのは、

この病院の担当医だった。



「おはよう。よく眠れた?」



「……はい。あの、先生……今日の花……これ、誰が?」



私が問いかけると、先生はふっと微笑んで、

花瓶のワスレナグサに触れた。



「君は、本当にこの花を気に入っているんだな。」



その言い方が、何かを含んでいるように聞こえた。



胸がざわっと鳴る。



「先生、知ってるんですか? 毎日誰が置いていくのか。」



一瞬、先生の手が止まった。


わずかな沈黙。




でもそれだけで、胸の奥の何かが警鐘のように震えた。



「……君の恋人が来たんだろう?」



「はい! 昨日……来てくれました。優しい人で……」



先生は静かに目を伏せた。
その仕草が、綺麗すぎて、残酷の予感がした。



「……先生?」



「ごめんね」




それは、昨日の“彼”と同じ言い方だった。



胸が、嫌な音を立てる。



「……え、なんで謝るんですか?」




先生はゆっくり私の方を向き、
いつになく真剣な声で言った。





「君の恋人は……三ヶ月前の事故で亡くなっている。」







──世界が揺れた。




病室の色が、一瞬だけ音を失ったみたいに消えた。



「……え……?」



「昨日……来て……」



「だって……」



喉が震えて、声がうまく出なかった。



先生は穏やかな目をしていたが、


その奥に悲しみが確かにあった。



「君がずっと、目を覚ますのを待っていた。
……でも、その願いは叶わなかった。」



私は、呆然と花瓶を見つめた。



ワスレナグサが光を吸い込むように

青く揺れていた。



『その花、飾ったの俺だよ』



昨日の声。


柔らかい笑顔。


あの体温。



全部、確かに“あった”のに。



「……じゃあ……私は……昨日……誰と……?」



震える声に、先生は答えなかった。


ただ、花瓶をそっと指差した。



「その花はね、事故の前……君の恋人が毎日持ってきていた花なんだよ。
“記憶を取り戻せますように”って。」



胸が熱くなる。
涙が視界にじんでいく。



「……じゃあ……昨日見たのは……?」



「君が見たのは……“忘れられなかった想い”なのかもしれない。
人は、大切な人の気配を、たまに夢と現実の境界で見てしまうんだ。」




現実味がない。


信じたくもない。





でも、昨日の彼の最後の横顔──


あの“何かを抱えた微笑み”が、

胸を刺した。



『……ありがとな』



あれは、“さよなら”の声だったのだと、
今になって気づいてしまう。

涙が、ぽたり……と花瓶に落ちた。



「……会いたいよ……」



呟く声は震えて、幼い子どもみたいだった。


先生は、

そっとティッシュを差し出しながら言った。



「それでも毎朝花があるのは──
君の心が、まだ誰かを待っているからだよ。」



私は涙で濡れたまま、もう一度花を見つめた。



──『私を忘れないで』




どうして今日、この花なのか。
ようやく理解した。

 


その時だった。


ガチャ。

また扉が開いた。



静かな気配とともに、誰かが立っていた。



白く揺れる光の中、


昨日と同じ声が聞こえた気がした。



『……おはよう』



私は顔を上げた。




──そこに誰が立っていたのか。




真相は、まだ靄の中にある。

 



けれど、花言葉だけが、そっと私の胸に刺さり続けていた。







“ 私を忘れないで “

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26

コメント

4

ユーザー

この神のせいで頭痛するわ(?)

ユーザー

この小説のおかげでワスレナグサ大好きになりそう…💭🎀

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