こんなにも楽しく感じる夏休みは始めてだ。
藤花ちゃんに出会ってから、助けられてから私の全てが変わった。
だから今度は私が助けるんだ。懺悔ではない。
これは感謝を込めた精一杯の恩返し。
朝日に満たされた部屋で、緩慢な動きで起きるとLINEの通知が来ていることに気づいた。
「朔君…?」
どうやら朔君からのLINEらしい。私は指を通知へ滑らせていた。
「おはよう」
「おはよう。早いのね」
「まぁな…その、昨日言ったこと覚えてるか?」
「勿論よ」
確か昨日は沢山喋ったはずだ。久しぶりに深夜まで起きてお泊り計画とかを考えていたと私は記憶している。
「昨日はお泊り計画とか夏祭りに行くだとか話してたでしょう?」
「そうだな…それはそれとして電話を切る前に自分がなんて言ったか覚えてるか?」
「えぇ…うーんと…」
電話を切る間近などほぼ覚えていない。もしかして何か失言してしまったのだろうか。
仮にそうだとしたら申し訳ない事をしている。
「ごめん、何も覚えてない。何かマズイ事言っちゃった?」
「あぁ…そっか。別に悪い事は言ってないんだ。ただ、そのな」
「勿体ぶらなくても良いのよ?」
何か言うのを躊躇っているようだ。失言したわけでは無いようだし、昨日の私は果たして何と言ったのだろうか。
「その、昨日はな…呼び捨てしたんだよ。お互いに」
「えっ…?」
「葵が寝る為に唐突に電話切ろうした時に『朔』って言ったんだよ!」
記憶を辿る。しかしいくら思い出そうとしても霞がかかったように思い出せない。
「だから俺!葵ちゃんじゃなくて葵って言いたいんだ!そして朔って言って欲しいんだ!」
画面越しでも勢いが伝わりそうだ。照れているような、自棄になって叫んでいるような文面。
「へっ…?」
思わず不格好な声を出してしまった。
朔、葵…そう呼び合うことを想像する。もしかしたら付き合ってるなんて言われるかもしれない。
けれど、悪い気はしなかった。むしろ嬉しいような満たされるような想いが身体を巡る。
「ずるい…」
今、鏡を見たら私の顔は紅くなっているであろうことは簡単に予想出来た。
「良いわよ、朔」
「ありがとう!葵」
「ちゃん」と「君」が付かないだけでこんなにも変わるのかと私は少し笑みを浮かべた。
「さて、話を変えましょう。お泊まり会の事はどうやって紅君に取り付けるの?」
「そうだな…俺が個人で相談して決まったら青春四人組の方で連絡するよ」
「了解。そっちに任せるわね」
「あぁ!任せろ!」
お泊まり会の方はあっさり話が着いた。
「二人の恋の盛り上げと雰囲気作りは任せて!」
「OK!そっち葉任せた!」
朔が予定を取り付けて、私は青春四人組の方で連絡が来たら盛り上げて藤花ちゃんをその気にさせて恋を動かす。
「これで一歩リードね」
その時は何も出来ない恋敵を思うと朔の時とは打って変わって不敵な笑みが溢れた。
「そろそろ朝御飯の時間だから。またね、朔」
「あぁ…またな、葵」
LINEを閉じた私はやっぱり少し恥ずかしくなって毛布に入り込んでジタバタしていた。
朝からバタバタした一日であった。
お泊まり会はやっぱり楽しみだし、朔と紅君ならどうにかしてくれると信じている。
少しでも力になれて嬉しい限りだ。
そして思うことが今の私には、ある。
この夏、恋が始まったのは二人だけでは無いのかもしれないということだ。
コメント
4件
待ってましたー!!!!✨ お互いが呼び捨てで呼び合うようになったのめちゃくちゃ良きー!! 尊すぎてやばい!!! 葵ちゃんが恥ずかしすぎてジタバタしてるの可愛すぎる、、、 次回の朔くん視点、どれくらいジタバタするのか楽しみだ!! 今回もめちゃくちゃ良かった!! 次回も楽しみにしてるぜ! 投稿お疲れ!!🍵
作者のぬんです!読んでくださりありがとうございます。 今回は二人の下の名前の呼び捨てと新たにお泊まり会編が始まる予告ですね!多分次は朔視点になると思います! お楽しみに。