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「では、只今から緑宝石高等学校の試験を開始します。」
「…っ(ついに始まる……!!)」
アナウンスが流れ、私は落ち着かない心を抑えていた。
受験生の皆もそれは同じで、冷や汗を垂らしている人も居れば、深呼吸をずっと繰り返している人も居た。
私は、その中でも酷く緊張している事が分かり、顔に冷たい水滴が走った。
「(汗が…っ)」
だけど、もう時間は無い。
今から始まる…
「よーい。―――始め!」
この試験開始合図と共に 鉛筆を走らせる音が、瞬く間に 会場に響いた。
私は慣れない空気に焦りつつも、どうにか冷静さを保とうとしていた。
「(落ち着け私、落ち着け私…!まずは問いをよく見るんだ…!)」
「(マークシートは絶対にズレないようにこまめに確認。絶対に絶対に…っ!)」
これまでに何十回も教えてもらった事を、私は何度も思い返す。
そして、ゆっくり問いを読んでいく。
『この問いを答えなさい。――――――をして答えなさい。――――を使っても良いこととする。
ただし、回答は全て〜〜〜に揃えて書くこと。』
この問いは、最後まで読まないと分からない注意点があった。
受験で問いを最後まで読まない、なんてこと無いと思うけど、いつもの私なら見落としていたかも…
やっぱり、冷静で居る事って大事…!
改めてそう感じた 私であった。
・・・
「では、これにて緑宝石高等学校の試験を終了いたします。」
このアナウンスが流れ、私達は受験会場を後にした。
やっと気が抜けて崩れそうな私のそばで、彼は大きな伸びをして 余裕っぷりを見せていた。
「春人… ねぇ、試験難しくなかった!?復習内容と全く違うやつ出てきたんだけど…」
「いやそれはそう。」
「ってか、そんなの言ってる春人は大丈夫なの?落ちない?!」
「落ちねーよw だって、5時間本気で復習したから。」
「え?!5時間だけ?!それで足りるの……?」
「知らねー。」
「んもうっ…」
卒業式の時の、あの頼もしい姿を見せてくれた春人は どこに行ったのやら…
全く、春人には呆れてしまう。
でも、あんなに余裕そうにしているということは、たぶん合格する…
と信じたい。
ここは神に祈るしか無いんだ……
そんな馬鹿馬鹿しい事を考えていると、春人が 手を合わせて目をつむり、祈りを捧げていた。
「春人…?何してんの……?」
「神様、仏様ぁぁっ…!どうかどうか、俺を合格させて下さいぃっ!…」
「いや神頼み!?馬鹿馬鹿しいな… 全ては実力に問われるよ…」
「いや、な?合格するように、せめて祈っておこうと思って。」
「それなら私の分も頼んどいて!」
「いやお前なぁ…w」
「www」
私と春人は、受験終わりにも関わらず、相変わらずのふざけっぷりだ。
それを気にする受験生は居なかったけど、どこからか視線と気配を感じる気がした。
背中がゾワゾワして落ち着かないのは、このせいだろうか。
一体何なの……?
後方には誰も居ないのに、何か感じるものがある…
何なに…っ
「七葉… どーした?神頼みか?」
「違うって… 何か視線感じる気がして…」
「…… ―――あっ!」
「春人、どうしたの!?」
「何か、七葉の事見てるやつ居る…っ」
「え………!」
春人がとっさに指さしたのは、私達よりもっと後ろの方の席に座っている人だった。
確かに慌ただしく、指さされた途端に 目を離す素振りが見て取れた。
「え、何あれ… キモい…」
「何か嫌だな… よし、早くここ出るぞ。」
「う、うんっ…」
春人に腕を掴まれ、私は会場の外に出た。
何故か、前に感じた視線だと思ったのは 気のせいだろうか……?
「……っ」
何だか嫌な予感は走ったものの、その正体は結局分からなかった。
そのまま私達は家に直で帰り、お互いのスマホでメッセージを送り合っていた。
「無事終えれて良かったねー!」
「そーだな!!」
「春人のあの神頼み、マジで草生えるわ〜〜ww」
「マジかww」
「うんww」
「ま、とりま今日はゆっくりして!これからの高校生活、楽しもうな!」
「いやまだ行けるか分かんないしww」
「まーなww」
「多分行けるよね!私達なら!」
「おう!じゃ、俺は寝るわ。仮眠取る。クソ眠いからw」
「ww じゃーね!」
「んー。」
そこで、私達のメッセージは途切れた。
――やっぱ、春人と居ると凄く楽しい。
冗談も通じるし、健人くんみたいに気を使わなくても楽しめる。
こんな相手、理想だよねぇ……
―――って、私何考えてんの!!
春人はただの幼馴染! 気が合うだけの友達なんだから!
そう、恋愛対象にはならない!
私は、幼馴染とは恋出来ないもん!!
そもそもしないしねー!
そう心の中で断言して、私はベッドの布団の中にうずくまった。
こんなに楽しいのに、モヤモヤが消えないのが不思議でたまらなかった。