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揺れる紅蓮。
その紅はいつ見ても美しくて、目を奪われる。
「ある、アルベド!?」
思わず、目の前の紅蓮の名前を口にしてしまい、変装していてもバレバレなのだと目をむく。というか、アルベドに向かってこんな態度を取れるのはもしかしたら私だけなのかも知れないと、そりゃ、こんな態度とったらバレると思った。案の定バレた。
アルベドは、その長い紅蓮の髪を揺らしながら面白そうに私近付いてくる。
「な、ひ、人違いです」
「なわけあるか。今さっき、アルベドって俺の事指さしたじゃねえか」
「いいい、いえ、人違いです!」
「どっちが」
と、アルベドは呆れたように、それでいて面白そうに笑っていた。子供が新しい玩具をもらって、どうやって遊ぼうか考えている無邪気な顔。絶対に良からぬ事を考えているだろうと、他人の無理をする。まあ、全く意味をなしていないのだが。
そんなふうに、アルベドから顔を逸らしていれば、私の隣にいたリースが殺気だって、アルベドを睨み付けていた。その殺気を捉えたのか、アルベドはリースの方をちらりと見た。
「何だよ、エトワール。デート中かよ」
「で、ででで、デート中ではないです!」
「何で、敬語」
アルベドは呆れたように言う。
と言われても、突然のアルベドの乱入によって色々取り乱してしまっているのだ。
リースも、アルベドに対してはかなり好戦的……というよりかは、嫌いなようで、この間の件もあってアルベドに対して敵意を示している。アルベドは本当に敵が多いと思った。
「彼女も言っているだろう。人違いだと」
「そ、そうよ!」
「二人して、俺を悪者扱いするのかよ。あーあ、酷え」
などと、傷ついたとわざとらしく言うアルベド。全く人を馬鹿にしたような態度にはいつ見てもイラッとする。
と言うか何故彼がここにいるのだろうとそっちの疑問しかない。
腐っても、公子で一人で外出など危ないのではないかといつも思っている。まあ、此奴が暗殺者って言うのもあるけれど、それ以前に彼は命を狙われているのだ。実の弟に。そう考えると、アルベドとのエンカウント率も高すぎる。
「つか、そんな低俗な変身魔法じゃ全くごまかせねえぜ?」
「低俗って……結構、高価なものだと思うけど」
皇宮の魔道士達に施してもらった魔法な為、低俗でも弱い魔法でもないと思っている。けれど、一発で見抜かれるところを見るとそんなに良いものじゃないのかも知れない。まあ、そもそも態度とかでバレていると言うのもあるが。
(前も変装魔法というか、あの仮面つけていても私が誰かってバレたし……もしかしたら、私だって周りに知らしめる何かがあるのかも)
そう考えるのは簡単だった。
前に、魔力が漏れ出ているとアルベドと似たような髪色を持つヴィに言われたことがあり、聖女の魔力は隠せないんだなあと思った。多分そう言うことだろう。
まあ、そうでなくともアルベドぐらいの魔力を持っていたらすぐバレるかも知れない。取り敢えず、結論は出さずに、私はリースの後ろに隠れた。リースは、何故かそんな私の行動を見て勝ち誇ったような笑みを浮べていた。
「なあ、エトワール何でそんな俺の事さけんだよ。つれねえな」
「そうやってウザ絡みしてくるのが嫌なの!」
と、きっぱり言えば、満月の瞳を丸くさせてからプッと彼は噴き出した。
何が可笑しいのか腹を抱えて笑っている。いつもならちょっと怒って突っかかってきそうだったのに、可笑しい。何か変なものでも食べたんじゃないかと心配になる。
「おい、何を笑っている」
「はは……っ、わりぃ、わりぃ……ああ、リース皇太子殿下、ご無沙汰しております」
ひとしきり笑い終えたアルベドは、リースが睨んでいることに気がついたのか軽く頭を下げた。それが、皇太子に対する態度なのかと、私はリースの後ろから顔を覗かせれば、彼と目が合って、ニヤリとアルベドは口角を上げた。
リースは全てが不快だと、眉間に皺を寄せる。
「貴様、この間の事忘れたんじゃないだろうな」
「この間の事とは?」
アルベドは、わざと忘れたフリをしているのか、はて? と言った風に首を傾げた。
リースの言うこの間の事とは、彼の誕生日の出来事だろう。一通り、リースにはアルベドと一緒にいた経緯を話したし、リースの元にいけたのはアルベドのおかげだと話せば、リースはなんとも言えない複雑なかおをしていた。嫌いな相手に助けられたのが不満だったのだろう。
「とぼけるな、先日の件だ! 俺の誕生日の時のことだ! 俺の目の前で、エトワールの同意も得ずに口づけをして……!」
「ちょ、ちょっと、リース!」
リースに言われて、記憶の奥深くに封印していた事を思い出してしまった。
あの時、リースを助けにいって、リースには二回、アルベドには一回キスされたのだ。口に。その時のことを、わざわざ蒸し返して、言うリースを私は全力で止めた。忘れたいと思っていたのに、掘り起こして。
私は全力でリースを止めていたが、彼も彼で自分で思い出したくせに逆ギレをしてアルベドに突っかかっていた。どっちも皇族と貴族の態度ではない。
そんな、怒りを向けられているアルベドはと言うと、何故かポカンと言う表情をしていて、私達の話に驚いているようだった。それから、少しの間を開けて「あの時のことか」と呟く。
(何か、可笑しい点でもあった?)
少しよそよそしい態度に違和感を覚えつつも、いつものように、ニヤニヤと笑うアルベドを見ていると一発殴りたくなった。だが、攻略キャラの綺麗な顔を殴るのは気が引ける。
後から後悔……まではしていないが、リースの顔を殴ってしまったことに対しては少し反省している。
「それで、皇太子殿下とエトワールはデートしてたのか? こんな忙しい時期に」
「だから、デートじゃないわよ! ちょ、ちょっと息抜きを」
私は、アルベドに言われた言葉がぐっさりと刺さって、思わず視線を逸らした。
アルベドの言うとおり、こんな忙しいというか大変な時期に皇太子と聖女が遊びに行っているなんて知られれば国民は皆怒るだろう。怒りに我を忘れ皇宮に乗り込んでくるかも知れない。そんな最悪の想像をしつつ、私は咳払いした。
「もう少しで帰るところだったの。息抜きぐらいさせてよ」
「そうだな、大変だったみたいだからな」
と、アルベドは呟いた。
アルベドには、ルクスとルフレの事は言っていないはずなのだが、何処かで聞きつけたのだろうかと思いつつ彼を見た。アルベドは、何てこと無い顔をしていたが、私をいたわるという意思は微塵も感じられなかった。
まあ、アルベドの言うとおりバレないうちに聖女殿と皇宮に戻った方が良いのかも知れない。リースは今から行き先を決めていこうと張り切っていたのだが……ちらりとリースを見れば、彼は何だか深刻そうなかおをしていた。
「早めに帰った方が良いんじゃねえか? 二人きりなんて事、ヘウンデウン教の奴らにバレたら狙われるかもだし」
「何でそこでヘウンデウン教が出てくるのよ」
アルベドがいきなりヘウンデウン教の話題を持ち出したため、私は思わず食いかかってしまった。
確かに、あり得ない話ではないし、皇太子と聖女を一気に殺せればあっちも願ったり叶ったりだろう。城下町とはいえ、以前も祭りの最中に襲ってきたわけだし……今は時期が時期だ。
「リースどうする?」
「そうだな、こいつがありがた迷惑な忠告をしてきたからな、仕方ない……帰るか」
リースは皮肉を言いながら、アルベドを見て鼻を鳴らした。
リースも感じ悪いというか、子供だなあと思いつつ、私は気になってアルベドを見た。アルベドは、どうした? とでもいうように私を見ていた。
(うーん、気のせいかな……)
そういえば、周りが静かすぎるなと辺りを見渡した。災厄が近付いてきたこともあってか、城下町は静まりかえっていた。いつもは気さくな人達や、音楽が流れているというのにそれもうっすら聞えるばかりで活気がない。皆、外に出ることを怖がっているのだろうか。
何というか、寂しい感じがした。
私はギュッとリースの服の裾を掴む。リースは、大丈夫だと、私を元気づけるように笑っていた。リースがいれば、怖くないと私は自分に言い聞かせるが、矢っ張り何となく恐怖心が心の隅で顔を出す。不安を煽り、疑心暗鬼にさせる。災厄の特徴の一つだと私は思いだした。
こんなものに負けてはいけないと、私は拳を握った。
「何だかやる気だな、エトワール」
「そうよ、てか、アンタも手伝ってくれるんでしょ? この間、リースから聞いたけど」
「手伝うって何を?」
「なにをって、協定を結んだって……ねえ、リース」
「ああ、そうだ。かなり重大なものだったはずだが……」
と、リースはアルベドを見た。
リースとアルベドは災厄を食い止めるべく同盟を組んだというか、支援し合う関係になったのだ。といっても、アルベドの家は、アルベドとその弟のラヴァインとの二大勢力に別れていて、借りられる力も半分といったところである。そのラヴァインも、ヘウンデウン教の上層部にいるとかで……
(あれ、もしかしてこの間、裏で手を引いていた幹部って……)
私は、ピンと糸が張るような感覚がした。
アルベドも頭がきれるし、となるとその弟も上層部に上り詰められるぐらいの頭脳や人望があるのなら、ヒカリやあの奴隷商達を裏で操っていたのはアルベドの弟ではないかと、私は思ったのだ。けれど、私は一度もアルベドの弟に合ったことはない。何処かで私達の様子を監視でもしているのだろうか。以前、アルベドが私にかけた魔法みたいに。きっとラヴァインも闇魔法の使い手であるから。
「どうした、エトワール。そんな難しい顔をして」
「え、いや、えっとね……この間の事について考えていたの。ヒカリとか奴隷商の人達を裏で操っていたヘウンデウン教の幹部……もしかしたら」
そう言いかけたときだった。
こちらに向かって走ってくる誰かの足音が聞えたのだ。もしかして、勝手に城下町まできたことがルーメンさんにでもバレたかと顔を上げて音のした方を見つめれば、緊迫した様子のアルベドがこちらに向かって走ってきたのだ。
「え?」
私は、今目の前にいるアルベドと走ってくるアルベドを交互に見る。どちらもアルベドだ。
一体どういうことなのかと思って、走ってくる方を見れば、そのアルベドは何かを叫んでいるようだった。
「エトワール、今すぐそいつから離れろ!」
アルベドがそう叫んだのと同時に私の腕はグッと目の前にいるアルベドに引っ張られた。そして、赤黒い魔方陣が足下に浮かび上がる。
「え……っ」