テラーノベル
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ジェラードの案内で訪れた洞窟と、ジェラードの指示で作った美しい竪琴。
荒々しい自然の中、洗練された楽器を手にするいうのは不思議な気分がしてしまう。
「それで、この竪琴を弾けば人魚に会える……と言うことですか?」
「伝説ではね。それじゃアイナちゃん、ばしっと弾いちゃって♪」
「え、えー? 私、楽器なんて弾けないですよ!?」
「僕だって弾けないさ!」
そ、そんな自信たっぷりに言われても!?
「……仕方ないですね。それじゃ、適当に……」
私は渋々と竪琴を構えてから、静かに右手で琴線を振れた。
――ポポペロン、ポポプロン♪
「……アイナさん、その曲は何ていう曲ですか?」
「適当に触ってるだけですから!」
音自体は美しく、魅惑的な空気を醸し出すものの……いかんせん、弾き手がダメすぎる。
どこをどう弾けばどういう音が出るのか、そんなこともまったく分かっていないのだ。
「いろおとこー。人魚さんまだー?」
「う、うん……。おかしいなぁ、何も起こらないぞ……?」
「弾いたところで、曲になってないとやっぱりダメなんじゃないですか?
ルーク、代わって!」
「かしこまりました」
私の無茶振りに、ルークは自然な流れで竪琴を受け取ってくれた。
そして竪琴を静かに構え、優しく琴線に触れると――
――タン、タラララン♪ タララララ……♪
「「「おおっ」」」
「わー、お兄ちゃんすごーいっ」
竪琴から、いかにも竪琴の音が響いてきた。
私が弾いていたときも良い音だったけど、ルークの奏でる音はそれとは段違いに美しい。
「……はぁ。やっぱりルークって万能超人だよねぇ……」
「まさか楽器まで、って感じですね……!」
「負けた……」
私とエミリアさんが感心する横で、ジェラードが少しだけ悔しそうにしていた。
ルークとジェラードって、どこか競い合っている節があるからね。
「アイナさん、わたしも楽器を習いたくなりました!
今度一緒に習いませんか!?」
「え、えー……。やるのと見るとじゃ、全然違いますよ……。
しばらく経って、その熱が冷めてなかったらお付き合いしても良いですけど……」
「えぇー、帰ったらすぐやりましょうよーっ」
……あ、ダメだ。
これ、すぐ熱が冷めるタイプだ。
「まずはひとまず、ルークから習いましょうね?
今はそれよりも、人魚ですよ、人魚!」
「あ、そうでした!!」
エミリアさんは本来の目的を思い出してくれた。
楽器を習う件は、できればその間に忘れておいてもらいたいものだ。
「――ん。
ママー、そろそろ来るのー」
ルークの演奏を聴きながら様子を窺っていると、リリーが何かに気付いたように言った。
「え? 来るって、何が?」
「そろそろ繋がりそうなのー」
「……んん?」
「もしかして結界が解けて、人魚のいる場所と繋がりそう……ってことかな?」
私がリリーの真意を測りかねていると、ジェラードがフォローをしてくれた。
「うん! 迷宮の入口を開くときの感じに似てるの。
……あ! もちろん私は、まだ開いたことは無いからね!」
リリーは慌てて言葉を付け足した。
『疫病の迷宮』は危険すぎるから、入口を開くことは禁止しているのだ。
……だから結局、まだ一度も開いたことはないんだよね。
「そっかー、リリーの迷宮も同じ感じなんだね?
なるほど、その感覚を知ってるから、今回も分かるのかな」
「なの!」
「……アイナさん、霧が出てきましたよ!?
うわー、凄い……」
エミリアさんの言葉通り、霧の濃度は凄い勢いで上がっていき、少し先も見えなくなってしまった。
近くにいる私たちはかろうじて見えるものの、さすがにこれでは不安になってきてしまう。
「アイナ様、そろそろ演奏を止めた方がよろしいですか?」
「ううん、もう少しお願い。途中で止めたらどうなるか分からないし」
「そうだね。恐らくは元に戻るだろうけど、確証が無いからね……」
「分かりました、それでは続けます」
視界が白く埋まっていく中、ルークの演奏だけが変わらずに聴こえてくる。
いつの間にか、みんながお互いの服やら手やらを掴んでいる状態になっていた。
ルークは演奏で忙しいから、ここは私がしっかり掴んでおくことにしよう。えいっ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――白い霧で視界を奪われると、触覚も何だかおかしな感じになってしまう。
竪琴の音だけは聴こえてくるものの、たまに音が外れてしまうようになっていた。
……さすがに演奏の手も、こんな霧の中じゃ間違ってしまうか。
そんなことを思いながらしばらくすると、霧は徐々に晴れてきてくれた。
先ほどと同じ洞窟ではあるものの、何か雰囲気が違っている。
「――おぉ? やっと視界が見えるように……!」
「はぁ、怖かったですー!」
「リリーも怖かったのー」
「ぼ、僕は平気だったからね!」
「……別にジェラードさんのことは心配してませんよ……」
「それはそれで残念……」
ジェラードは何を張り合っているんだ……。
「ルークもお疲れ様。
もう、止めても大丈夫なんじゃないかな?」
「それでは中断しますね」
ルークは徐々に音を小さくしながら、何となく収まりの良い感じで演奏を終えた。
「……っていうか、ルークってちゃんとした演奏ができるんだね。
アウトドアっぽいことが得意なのは知っていたけど、まさか楽器までとは……!」
「ははは、これはアイーシャさんから教わったんですよ。
小さい頃でしたから、今でも弾けるとは思いませんでしたが」
「久し振りで、あんなに上手いんだ……?」
「プロの方から見れば、お粗末にもほどがあると思いますよ。
それに竪琴の質が良かったので、きっと上手く調整してくれたのでしょう」
「そ、そうなのかなぁ……」
確かにこの竪琴、追加効果には『魅了(小)』が付いていたけど……。
もしかして私たち、魅了されちゃっていたのかな?
「ママー、お外に出ても良い?」
「そうだね。洞窟の中はあんまり変わっていないようだし、外に出てみようか」
「外はどんな変化が起きているか分かりません。まずは私が出てみましょう」
そう言いながら、ルークが竪琴を渡してきた。
「うん、それじゃお願いね。
もしかしたらここが『螺旋の迷宮』かもしれないし――」
「え? 迷宮ですか?」
「ここ、迷宮なんですか?」
「え、その迷宮を知ってるの?」
……あ。
その話は私がグリゼルダから聞いていただけだったんだ。
最近は何だか、話をするタイミングを逸してしまうなぁ……。
そんなことを思っていると、リリーが違う反応をくれた。
「違うのー。ここはまだ、迷宮じゃないの!」
「……そうなんだ?
ああ、そうか。『神託の迷宮』でもそうだったけど、リリーは他の迷宮には入れないもんね」
「なの!」
……とすると、ここは一体何だろう?
本当に人魚が住んでいるだけ、って話なのかな……?
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