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『遅すぎた告白』
「好きです。付き合ってください」
その言葉は、驚くほど軽く私の耳に届いた。
胸が高鳴ることも、
世界が色づくこともなかった。
ただ――
彼氏が欲しかった。それだけ。
「……よろしくお願いします」
だから付き合った。
今思えば、
それはあまりにも残酷な選択だった。
彼は記念日を忘れなかった。
誕生日には誰よりも早く祝ってくれた。
「好きだよ」
と、惜しみなく言葉にしてくれた。
それなのに私は、一度も言わなかった。
好き、なんて。
唯一、その言葉を口にしたのは――
最悪で、最期の瞬間だった。
「嫌、待って、待って……!」
下校途中の横断歩道。
突然突っ込んできた乗用車。
一歩前を歩いていた私の背中を、
彼は迷いなく突き飛ばした。
次の瞬間、宙を舞ったのは彼だった。
「……あ゛〜、もう、これだめかな。笑」
信じられないほど穏やかな声。
血に染まった身体で、彼は笑っていた。
震える指で救急車を呼びながら、
私は問いかける。
「……なんで、笑ってるの……?」
彼は、力なく、
でも本当に嬉しそうに微笑んだ。
「俺が……死にそうなの見て、泣いてる」
その瞬間、頬を伝う涙に気づいた。
ああ、そうか。
私は__
今、失うことが怖いんだ。
「……あのさ……」
閉じそうになる瞼を必死に開いたまま、
彼は続けた。
「俺のこと……どう思ってますか」
見抜かれていた。
私が彼を好きじゃなかったことも、
たった今、気持ちが変わったことも。
「……すき、だよ」
半年記念日まで、あと少しだった。
「やった……両想いだ……」
崩れ落ちる私を見て、彼は呟く。
「俺と……本当の恋人に、なってください」
「……はい」
遠くでサイレンが鳴っていた。
もう少し、もう少しだけ__。
「よかった……でも、ごめ……んね……」
彼の瞼が、ゆっくりと下りていく。
「すぐ……いなくなっちゃって……」
「待って……待ってよ……」
完全に閉じた瞼。
もう動かない唇。
救急車が来た時には、すべてが終わっていた。
私は、いつから彼を好きだったんだろう。
「ねぇ……いつからだったと思う?」
墓前にしゃがみ、問いかける。
三十代になった今でも、
心は彼のところに置き去りのままだ。
「いつから……私のこと、好きだったの?」
流れで始まった恋。
聞いておけばよかった。
「ごめんね……最期の彼女が、こんなので」
好きな人には、もう会えない。
目の前にいるのに、いない。
「なんで……気づかなかったんだろ……」
彼の好きだったコーラを置き、手を合わせる。
それを覚えている時点で、
きっと私は__
ずっと前から、恋をしていた。
言葉にしなかっただけで。
でも、ちゃんと、伝えたつもりでいた。
次の人生では、
鬱陶しいって言われるくらい、伝えるから。
「好きだよ」
風に溶けるその言葉は、
もう二度と、届かない。
コメント
9件
ちょっと彼氏くん天国から呼び止めてくるわ((