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『——ねぇ、お願い。イレイラ、コレ飲んで?』
ベッドの上で一人と一匹。カイルは“私”の前でお行儀よく正座をして座っている。その手にはガラス製の小さな瓶があって、キラキラと光って不思議な色をしていた。ベッドの側にあるスタンドライトの魔法光が発する灯りが瓶にあたると、それは青にも黄色にも見える。
(何でだろう?——というか、コレは何だろうか?)
首を傾げていると、カイルが少し視線を逸らした。頰が赤い。まさか風邪でもひいたのだろうか?
『きょ、今日は僕達の初夜だから…… その、ね?“番”だったらする事が、あるよね?』
カイルの声がうわずっていて少し震えている。やっぱり風邪なんじゃないのだろうか?よくわからない事を言っていないで、サッサと寝るべきだ。風邪はひき始めが肝心だというし。
“私”は枕の方へ進み、ポフポフと前足で叩いてみた。『さぁ寝ましょう』と言うつもりで。
『え?あの、今日はこのまま寝るんじゃ無くてね?あのね、イレイラ、コレ飲んで?』
クイッと目の前に先程の小瓶を差し出される。さっきから見せてくるコレは何なんだろうか?パクパク口を動かして、“私”はカイルに説明を求めた。 なのに、いつもなら直ぐに答えをくれるカイルが、今日は言葉を詰まらせて困った顔をする。
これは、“私”には言いにくいような物を飲ませようとしているなと直感的にわかった。その事に少しイラッとして、“私”はカイルの膝をペシペシと叩いた。
『ゴ、ゴメン!だって、言葉にして言ったらまるでイレイラを否定しているみたいな気がして。僕はちゃんと君の、ありのままの姿が好きなのに!』
説明になっていない。“私”は瓶の中身が知りたいのに。
会話での意思疎通が出来ないのは、やっぱり時々不便だと思う。カイルが“私”を召喚する時に、投げやりに描いた魔法陣の術式の弊害かもとも思うのだが、普段は困らないのでそのままに過ごしていたが…… やはり、どうにかしてもらうべきだったろうかと少し後悔した。
『えっと、あのね、実はこれ…… 人の姿に一定時間だけ変身出来る薬なんだ。その…… お互いにこのままじゃ、できないでしょ?体格の違いで。その…… 挿れられ、無いよね?君に』
(人に?“私”が?“私”はこのままの姿が好きなのに。しかも、いれる?何をだろうか?)
『僕が猫の姿になってもいいんだけど…… 僕的にはその、イレイラの人化バージョンも見たいし、楽しみたいし、前戯とかもしてみたいなって気持ちが少しあってね?もちろん、今の君が大好きだけど!愛してるけども!でもそのままじゃやっぱり、抱くのには無理しか無いっていうか…… 』
…… あぁ!
交尾か!
カイルは“私”と「交尾したい」と、さっきから訴えているのか。
——ん?でも何で?今は発情期じゃないのに無理を言うな。
もう寝ましょう。疲れたわ。
しかめっ面をしつつカイルから顔を背ける。“私”は布団へ寝転ぶと、瞼を閉じた。
『——え?ま、待って!寝ないでっ!せめてコレどうにかし…… ちょっと舐めてくれるだけでも、肉球で触れてくれるだけでもいいから。オカズくらいくれてもっ』
五月蠅いな、もう黙っていて欲しい。
舐めるって何をだ。
今日のカイルはよくわからない。変なの。
こんな慌ていて、発言のオカシイ姿なんて初めて見た。
『本気で寝ちゃうの?え、初夜なのに?——何で⁈』
シーツに顔を埋めて、カイルが布団を何度も叩いている。その情けない姿がなんだか可愛く思えて、記憶の中に深く刻まれていく感じがした。
“私”は困惑し続けるカイルを無視したまま、眠りの中へその身を沈めていった。