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「お似合いなんかじゃない……」
姿形は、前の世界の私と変わらない。でも、あの時はトワイライトがいたから、ヒロインであるトワイライトと並んだらお似合いだな、とか思ってた。でも、リースは、私が横にいてくれることが嬉しいって、隣にいて欲しいって言ってくれた。周りの人も、少なかったけど、お似合いだっていってくれた。だから、お似合いじゃないわけがない。でも、彼の横に立っているのは本物の私じゃない。偽物……
(ううん、偽物とか本物とか、この際どうでもいいの。私じゃないっていう事実だけが、ただそれだけが、私を苦しめる……)
もたもたしているうちに、あっちは幸せになっている。これ以上、エトワール・ヴィアラッテアの好き勝手にはさせられない。でも打つ手がなかった。
フィーバス卿の養子になれたことは奇跡にちかい。そして、幸せな生活を送っている。今の生活を壊さないためには、余計なことをしない方がいいのかも知れない。もし、下手なことをすれば、フィーバス卿にも見限られるかも知れない。追い出されるとかも考えた方がいいだろう。嫌なことばかりが頭をよぎっては積もっていく。マイナスな気持ちになってはいけないと分かっていても、いいことが考えられなかった。
問題は山積み。何処から解決していくべきか。
攻略キャラの記憶も取り戻さなきゃいけないわけだし。そのためには接触が必要で……
「はあ……」
「ステラ様、入りますねー。って、寝てたんですか?ルーチャットも大人しいですし」
「アウローラ。ああ、えっと」
「お茶持ってきましたよ。疲れていると思ったので、お菓子も」
「あ、ありがとう」
気が利くようになったなと思う。初めて会ったときは、合わないと思っていたのに、ここ数日で、彼女との距離が縮まった。元からこういう性格なんだって諦めているところもあるけれど、それでも、別に一緒にいて嫌な気にはならない。だから、こういうちょっとした気遣いが心に来て泣きそうになる。
「ステラ様、泣いているんですか!?」
「泣いてない……いや、泣いてるかも」
「ど、どうしてですか。フランツ様になんていえば……!」
「いいい、いわなくて良いから!ちょっとした生理現象的な……ちょっと、疲れたの。色々あって」
「私のせいですか!?」
「ううん、アウローラのせいじゃなくて。ああ、勿論、ルーチャットのせいでもない。ただ、ちょっと、色々考えてたら」
「そうですか……私に話せることがあったら何でも離してくださいね。といっても、私なんか信用ないかも知れないですけど」
と、アウローラは眉を下げて笑う。私が辛いと知っているから、無理矢理こっち側に入ってこないのだろう。そういうのも気が利くんだって初めて知った。いや、彼女も同じような思いをしてきたからこそ分かるのかも知れない。
アウローラに入れて貰ったお茶を飲みながら、私はまた溜息が出てしまった。分かっている。ダメなんだけど、どうしても前を向けなかった。
愚痴をこぼしていいというのなら、零していいのだろうか。私は、ちらりとアウローラの方を見た。年も近いし、分かってくれるかも知れない。変な恋愛脳だから、面倒くさい方向に持っていかなければ、私も話せる。でも、理解して貰えるだろうか。
持ってきて貰った、ショートケーキにフォークを通して、一口食べる。口の中に優しいイチゴの味と、生クリーム、柔らかいスポンジが溶けていく。こんなに美味しいのに、笑顔で食べられないのが苦痛だった。全部はいて楽になれたらいいのに。
「アウローラはなし聞いてくれるって言ってたじゃん。あれってほんと?」
「えええ!?嘘つくと思いますか!?そんな重要な嘘!?」
「つかないよね、よかった……」
「そんな深刻な話ですか……私なんかに……信用してるってことですよね」
疑い深いなあ、なんて思いながら私は苦笑してしまった。その事で、アウローラも笑ってくれて、少しだけ気が楽になった気がした。誰でも良いから話を聞いて欲しかった。でも、弱みをみせたらつけ込まれるって思っていたから、一人で戦わなくちゃって。でも、今支えてくれる人がいないから……
「身分差恋……とか、叶わない恋とか……どうしようもないことってあるじゃん」
「ステラ様、恋してらっしゃるんですか!?その、叶わない恋!?」
「お、落ち着いて……私の話……になるのかな。いや、でも、その……夢!そう夢って思って聞いて欲しいんだけど」
「何でもいいですよ。楽しい話なら!」
アウローラはニコニコと私の方を見る。よっぽどこのはなしが好きなんだろうな、と私は重いながら続けることにした。夢という予防線を張って、でも、ばれてしまう恐れもあって。
「好きな人がいて……その人と付合っていたんだけど、ある日、その人と付合っている私の身体が奪われちゃったとする。で、私は違う身体に入って違う人生を歩むことになって。その奪った人は、私の身体で、そのすきな……人と幸せになってるの。身体を取り戻す方法はないし、幸せを見せつけられているし……こういう場合って、どうすればいいの?」
「身体を交換する魔法……ですか。事例はありませんが、魔法なら出来るかも知れませんね」
「取り戻す方法とか分かる?」
「いえ、そこまで魔法に詳しくないので。でも、好きなら……その人も愛してくれていたのなら、もしかしたら思い出してくれる可能性とか……あるんじゃないですか。って、これは夢の話でしたねーすみません」
本気で考えてくれたのは嬉しいし、ちゃんと夢だって言い訳をしてくれた。それが嬉しかった。でも、やっぱり取り戻す方法は分からない。けれど、会ってみたら案外思い出してくれるかもとか……
「せ、洗脳されていたら。その好きな人が……洗脳されていたら、どうしようとか」
「大丈夫ですよ!愛の力は偉大ですから!洗脳魔法っていうのは、その人の記憶とか、感情に制御をかけるものです。だから、全くその気持ちがなくなったわけじゃありません。まあ、ステラ様はこういう話し嫌うかも知れませんけど、真実の愛は、どんな魔法よりも強いんですよ」
「真実の愛」
「ああ!信じてませんよね!子供っぽいかも知れませんけど、そう言うことなんです!愛は強いんですよ!だって、想像を超えてくるものだから。ほら、運命とかって想像出来ないじゃ無いですか。運命!愛!」
と、アウローラは熱弁する。確かに、運命や愛は、想像の範囲を超えるときがある。それが、攻略キャラや、リースの記憶を取り戻す鍵になるかも知れない。現実でそんなことがもし出来るのだとしたら……
あり得ないわけじゃない。だってそれこそ、運命とか、あり得ない話だもん。
魔法は、イレギュラーに弱い。いや、魔法はイレギュラーの連発なのかもしれない。感情によって、威力も精度も変わる魔法なら……とく方法はあると。
「ありがとう。アウローラ。何か元気出た」
「そ、そうですか。お役に立ててよかったです。でも、今のはなさいが本当ならいいですねー何かロマンチックですし、それでこそ、その好きな人が身体が変わっても気づいてくれるなんて。愛ですよ!」
「ま、まあ、そうだよね」
嬉しそうに、アウローラは笑うので、私も取り敢えず笑ってみた。すると、アウローラは何かを思い出したようにいきなり立ち上がる。
「あっ、そうだ。今日でした」
「な、何が?」
「貴族の訪問ですよ。この間いっていた。あー手伝うってフランツ様にいっちゃったのに!今からでも間に合いますよね!?」
「た、多分……」
「もう、この際、ステラ様ついてきてくださいよ」
「わ、私なんかいってもいいの!?」
「はい。まあ、優しい人なんで。ああ、今日お見えになるのはブリリアント家のブライト・ブリリアント侯爵様で」
「ブライト……?」