テラーノベル
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ある日の午後
煌びやかな王宮のサロンに来ていた。
その陰で、耳を塞ぎたくなるような、クスクスという品性のない、粘りつくような笑い声が漏れていた。
俺──デュークは、今日の激務を秒速で片付け、リリアーヌに内緒で用意した特製スイーツを手に、さきほど「少し待っていてくれ」と言って離れたリリアーヌの元に戻ろうとしたとき
ぴたりと足を止めた。
華やかなはずの空間。
だが、そこから漂う悪意の気配に、廊下の冷たい空気がさらに数度、温度を下げたような気がした。
「あら、リリアーヌ様。そのドレス、先月の流行ではありませんこと? ヴァリエール公爵家もお労しい。殿下に執着しすぎて、お買い物をする余裕もございませんのね」
声の主は、中心に陣取った高位貴族の令嬢たち。
扇子で口元を隠しながら、勝ち誇ったような歪んだ笑みを浮かべている。
彼女たちは、リリアーヌが最近俺に溺愛されているという噂が、面白くて仕方ないらしい。
原作のシナリオ…溺愛を選んでもここでこうして周囲から孤立し、プライドを傷つけられたリリアーヌが
防衛本能ゆえに周囲に当たり散らし、悪役令嬢と化し、どう抗っても処刑されるという破滅へのカウントダウンが始まる流れだったはずだ。
だからこそ、今ここで俺がリリアーヌを助けなければいけない。
リリアーヌは、言い返す言葉も喉に詰まらせたまま、ただドレスの裾を指が白くなるほどぎゅっと握りしめて俯いていた。
「……っ、これは、デューク様が『似合う』と言ってくださったものだから……」
蚊の鳴くような、今にも消えてしまいそうな震える声。
その瞬間、俺の脳内で何かが音を立ててブチ切れた。
大切な宝物を土足で踏み荒らされたような、ドス黒く激しい怒りが全身を駆け巡る。
俺は足早にサロンへ踏み込むと、獲物をいたぶる蛇のような令嬢たちの背後から、死神のような足取りで近づいた。
「そこまでにしていただこうか」
地獄の底から響くような冷たい声音。
楽しげに鳴り響いていた嘲笑が、一瞬で凍りついた。
令嬢たちは、まるで本物の化け物でも見たかのように一斉に振り向いた。
「なっ……!」
「俺の婚約者への無礼は見過ごせません」
リリアーヌは驚きに目を見開き、信じられないものを見るような顔で俺を見上げていた。
その大きな瞳には、今にも溢れ出しそうな涙が溜まっていて、窓から差し込む陽光を反射してキラキラと揺れている。
「こ、この子が私たちのことを睨むから……っ!」
一人の令嬢が、顔を青ざめさせながらも、苦し紛れの言い訳を口にする。
そして、あろうことか、逃げ場を失った彼女の口から最悪の罵倒が飛び出した。
「ブスのくせに堂々と歩くからよ……!!」
……一瞬、時が止まった。
「ブス……?」
ブス……だと?おい、今なんて言った?と言いそうになって口を塞いだ。
いや待て、冷静になれ。
確かに二次元キャラとしては美形度がやや控えめかもしれない。
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