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「いえ。そんなことないですよ」

「ふぅん。今夜から来てくれるのかな」

「はい。上司の命令は絶対ですから」

「そう。じゃあ楽しみに待っているよ」

「冷蔵庫からっぽですよね。お買い物してから行くので、遅くなります」

「じゃ、退勤後に一緒に行く?」

「けっこうです」

エレベーター前にきて、呼び出しボタンを押そうとした。

けど

「やっぱり、ご機嫌ナナメだね」

押させないように、課長の手がボタンを覆った。

「どうしたの、急におへそ曲げちゃって」

面白がっている口ぶりだった。

「あなたのその人を食うようなチャラい感じに腹を立てているんですよ」と言ってやりたかったけど、ぐっとこらえた。

「別に、これが普通ですよ。わたし、朝は機嫌が悪くなるんです。あなたもこれから毎朝出勤するようになれば解かると思いますよ」

わたしなりの精一杯の皮肉だった。

けど課長はむしろもっと楽しそうに笑った。

「そっか、じゃあ俺も出勤したくなくてイラついたらキミに駄々をこねようかな。いいな、朝からキミを困らせるのも楽しそうだ」

またこの人はそういうことを…。

そんなことを言えばわたしが尻尾振ってなんでもいうこと聞くと思ってるんだろうか。

残念。

恋愛に疎い田舎娘とお思いでしょうけど、あなたの嘘はとっくに気づいているんですからね。

「そういえばわたし、肝心なことを訊くのを忘れていました」

「なぁに?」

「この「命令」はいつまで続くんですか」

課長は腕組みしてうーんとうなってみせた。

「それは状況によるな。一年、二年…いやキミが退職するまでかもしれないし、もしかたら一ヶ月したら「もういいよ」ってなるかもしれないし…俺の気持ち次第かな」

「真面目に訊いてるんです。こんなふざけたこと、長く続けるなんて馬鹿げてます」

「ふぅん。じゃあ俺も訊くけど、キミが俺のこの秘密を黙っといてくれる保証はどこにあるの?」

「…は?どうして課長の秘密と命令が関係あるんですか?」

「この関係をただの利害関係の一致だと思ったら、ちがうよ。キミを束縛するのは、俺の秘密を守るために監視するためでもあるんだ。なにしろキミは、知り過ぎてしまったからね」

「だって、それは自分から…!」

「ちがう」

はっきりとした口調で遮られて、わたしは言葉に詰まった。

「そもそも最初に出会ってしまった時点で手遅れだったと思わない?こうなるのはきっと、運命だったんだ」

かつり、と課長が近づいてきた。

その顔からは、いつの間にか笑みが消えていた。

射抜くような真剣な眼差しを向けられて、わたしは知らず後ずさる…。

「いいだろう。こういうことは最初が肝心だ。もう一度業務内容と雇用条件を確認しておこうか」

「……」

「キミは俺につくし、俺の要望に応え、俺と一緒に過ごす」

もちろん、身体の関係は免じてあげるけど。

と、ぞくりとする低い声で付け足されて鳥肌が立った。

「そしてその代償に、俺はキミを全力で助け、守り、支える」

圧倒されながらも、わたしの胸は高鳴っていた。

有無を言わせないその態度と強い口調に、甘い眩暈を覚えていた。

「そして、もしこの取り決めを破った場合は、互いは互いに賠償することになる」

「ば、賠償…?」

「大したことじゃないよ。その時に一番してもらいたいことを相手にしてもらう。子供だましみたいなものさ。どう?ここまではオッケー?」

「…全力でって、ずいぶん大きくおっしゃいましたね…そんなことできるんですか」

「できるよ。絶対に、できる」

あまりの即答に戸惑った。

「…ず、ずいぶんな自信ですね。わたしは自信がありませんよ。課長に尽くすなんて」

「そう?簡単じゃない?俺を恋人と思えば、やりやすいじゃないか」

は…?

「好きな男にならなんだって尽くせるだろ。むしろ夜だけじゃ、足りないくらいじゃないか?」

なにを言ってるのこの人…。

どこまでふざけてるの?

わたし以外の女の子にも、こんなことを言って翻弄しているんだろうか?

「そうそう。ちなみにこの命令を拒否できる方法が、ひとつだけあったよ」

「なんですか…」

「それは、ある事情が生じた場合。そうなれば『命令』は自然消滅することになる」

「事情?」

くす、と課長は口端を上げた。

「それは『キミが俺を好きになった場合』」

な…。

「俺のことを好きになって自らの意志で俺に尽くしたい思ったら、もうこの命令は命令じゃなくなる」

「そ、それは絶対にありません…!」

悲鳴に近い声でわたしは遮った。

君に恋の残業を命ずる

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