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神野事件

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神野事件

1 - 第11話

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2025年03月20日

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神野事件


爆豪くんと一緒にヴィラン達と交戦する。

向こうは否が応でも私たちを誘拐したいらしい。


「クソチビ!!仮面のやつにっ、っオラァ!!」


触れられちゃいけないんだねわかってる!!


6対2….1人3人を相手にしたら楽だけど、そうさせてくれないのが現実だ。

ヴィランの個性か何かで、爆豪くんと私が引っ張られる。


「クソチビ!!」


「わかってる!!」


私が勝手に考えた爆豪くんとの合わせ技!


“ 水蒸気爆発 ” !!


「っぐ、」


「うわっ…..っとと、」


もちろん自分たちに負荷がかからない訳じゃない。けど、変に頭ぶつけ合って気絶するよりマシだ。

周りのヴィランたちも少なからず距離を取れる。自分だけの個性じゃ出来なかった。

爆豪くんと協力することで、何とかやって行ける。

最初に合わせ技撃つことになるのが爆豪くんだとは思わなかったけど….。


「そこですよねっ」


「っ、」


セーラー服に向かって水を放って距離を取る。


本当は全員を高波で流し去ったっていい。けど、相手の個性やその後の反動を考えるとそうはいかない。それならむしろ小分けにして徐々にこの場所から距離を取らないと…..。


オールマイトも、私と爆豪くんがいることで本気を出せない。さっきの強者とオールマイトが戦っているところを見ると、後ろに私たちがいては邪魔になるだけだ。


現況退くために目の前の6人をどうにかしないといけない。

気管を防ぐには、水を細かくして狭い場所に入れなきゃいけない。けど、この攻撃を避けながら的確に水を入れるなんて….というか、仮面だのスーツだのしてるのは狡いだろ!!


メジャーにナイフに怪力に触れられちゃいけない手に刀の集合みたいなやつに手いっぱい付けたやつ!

接近戦が多い分、距離をとって戦うのが鉄則….!


「来い!!」


どこからか聞きなれた声がした。


よそ見なんてできない。それどころじゃ、


「っグェッ?!」


襟をグンと引っ張られて、身体が宙に浮かぶ。


「ば…..くご….くん….しまっ…てる、くび、しまってる…..」


「バカかよ…..」


やっとの思いで視線を上げると、切島くんの目が見えた。切島くんが飛ぶってことは、誰かジャンプ台になった子と運んでる子が、


「愛嶋くん!俺の合図に合わせ、水を!」


飯田くんの声だ。


A組で1番コミュニケーションが取りにくいと言っても過言では無い爆豪くんと合わせられたんだからそんなこと!


「お安い御用!」


「おいクソチビてめぇ今失礼なこと考えただろうが言ってみろ手ェ放したるわ!!」


「思ってません思ってませんお願いだからて離さないですみません!!」


「謝るっつーことは思ったんだな

アぁン?!」


「言い争うなこんな時にィ!!」


ご最も!!


飯田くん・切島くん・緑谷くんのおかげで、爆豪くんと私はあの状況から逃げることができた。

Mt.レディやグラントリノのおかげもあって、着地にも無事成功。駅前まで逃げて来られた。辺りには避難誘導をしているヒーローたち。


「いいか 俺ァ助けられたわけじゃねぇ

一番いい脱出経路がてめェらだっただけだ」


「ナイス判断!」


「オールマイトの足引っ張んのは嫌だったからな」


そう。

オールマイトの足を引っ張らないように。


拉致されたのは私の落ち度。だけど、そこからどうするか。頑張ったんですよ。オールマイト。貴方に感化されて、ここまで。

ヒーローを目指すみんなと一緒に。


個性をプロヒーローに認められてから、正直嫌いだったんです。年に1回の個性調査。だって苦しいですし。使い終わったら体調が悪くなって、症状を調べてみたら脱水症状だって。あんなのに毎回毎回なるくらいなら、個性は使わない方がいいんじゃないかって思ったこともありました。


けど、この個性で救って来た人がいる。

小学校の同級生。

下校途中での男の子。

そして貴方に言われたから。” ヒーロー “

だって。この個性を人のために使いたい。


プロヒーローたちが幼少期からずっと警戒してくれていた。守られていたんです私は。だから、今度はって思ったんです!


モニターを見上げると、そこに映っていたのは、


黄色い髪を靡かせて 左の拳をこちらに向ける 細く痩せた オールマイトの 姿。


『えっと….何が え….?皆さん見えますでしょうか?オールマイトが….しぼんでしまってます…..』


ヴィランの親玉にやられたのか?だから、そうなっているのか?そうさせてしまったのは誰だ?


足でまといになったのは 私 か?


不安の声が周りの避難民から聞こえる。でも、不安はすぐに応援に。周りの期待と重圧と。


ポツリと声が漏れた。


「勝って…..オールマイト….!!」


同調か。

周りの声も膨れ上がって。


画面を通して伝わって来た、オールマイトの美しさ。恐怖でも安心でもなく、ただ溢れ出てきた涙。必死な彼の姿。


静止画のような静寂が流れ、オールマイトは左手を突き上げた。

歓声は止むことを知らない。全員が全員、声が枯れるまで彼の名を叫び続けた。


『元凶となったヴィランは今….あっ今!!メイデンに入れられようとしています!オールマイトらによる厳戒体制の中今、』


『次は』


オールマイトの声がして、人の波に押されながら振り返る。画面の中のオールマイトは、こちらに指を指し、


『君だ』


避難民は震え、歓喜の声を上げただろう。

しかし、私に響いたのは別の意味だった。


オールマイトは、No,1ヒーローとして名高い。No,2、3と続くヒーローはもちろんのこと、その後ろに続く者は多くいて、ヒーロー保有社会とまで言われている。


それでも、 永遠 という生き物はいなくて。言葉として、心に刻まれることはあるがいつか終わりを迎える。


そして、オールマイトも同様に。


そう、私には聞こえてしまった。




オールマイトの映像が終わって、みんなで移動する途中。


「…..あ….爆豪くん」


「あ?」


「言わなきゃって、思ってて、」


「……..」


足を止めた私を、爆豪くんは振り返って、何も言わずに聞こうとしてくれた。


「あの時、かっこいいって言った時もそうだけど、爆豪くんがいてくれたから、私、大丈夫だって思ったんだ。ありがとう」


「はっ」


爆豪くんは嘲笑ったようだった。でも、爆豪くんに安心を覚えたのは本当。戦闘訓練の時もそうだったけど、爆豪くんには本当に感謝している。


轟くんとヤオモモと合流したあと、警察に呼ばれた。


爆豪くんにも話したいことが言えた。ヴィランたちからも、一時的かもしれないが開放された。とすると、私の心に残っているのは、恐怖と、失望感。




家に帰った時、父と母がいた。預けておいた合鍵で入ったらしい。

母は私を抱きしめ、泣いた。父は何も言わず、ただ座っていた。

温もりに安心して、涙が枯れるほど溢れた。今日は母と一緒に狭い風呂に入って、3人で川の字になって眠った。





家に相澤先生とオールマイトが来たのは、それから3日後。それまでも、プロヒーローたちからの監視はあった。両親は言わなかったが、多くの視線を浴びたことだろう。

私も、昼間は1人になりたくて海へ走った。波が足首まで届く。


私は何ができただろうか。私は何をしたら良かったのだろうか。あれが最前だった?私がもっと強かったら、そもそも拉致なんてされなかったんじゃないか。オールマイトに感化されて、オールマイトに憧れて。それで、オールマイトを終わらせてしまった。

何をしたら償える?何をしたら許される?何をしたら、無かったことにできる?


「消えてしまえば」


無かったことにしたかった。私なんていなかったことにしたかった。けど、オールマイトが命をかけて守ったものが、自分で死を選んだらどうなるだろうか。


無かったことにもできない。…..それなら。あの人が。あの人達が、” 守るべき価値があった “ と思うくらい、立派なヒーローになるべきでは無いか。


命を捨てるなんていつでも出来る。私の個性を使えば。だが、今しかできないことは、個性の強化。特訓しか、ないのだ。



「ゆう、まだ雄英行きたい?」


「え」


「雄英に行けって言ったのは私たち。だから、こんなに怖い思いをするくらいなら、行く必要ないと思うんだ」


母さんがポツリと言った。

確かに、親として不安なのはわかる。父は何も言わなかった。


「…..怖かったよ。とても。死ぬかもって思った。2人にも、二度と会えないかもしれないって思った。けど、じゃあ雄英を離れますって言って、雄英以上に安全な場所ってあるのかな」


「………」


母は黙ってしまった。私は気づいていたのだ。良くも悪くも、私は雄英にいるしかないんだ。


家庭訪問の日。

家に相澤先生とオールマイトがいらっしゃった。母は泣いていて、寡黙な父は腹から出す大きな声で私のことを頼むと言った。

普段見せない父からの愛情に泣きそうになる。


家をあとにした相澤先生とオールマイトの背中を追いかけて、私は走り出した。


「…..愛嶋少女」


私を振り返ったオールマイトも、泣いていた。


「本当に….本当に申し訳なかった。怖い思いをしただろう。苦しい思いをしただろう。…..我々のせいだ。本当にすまない」


オールマイトが私に頭を下げる。相澤先生も。違う。違うんです。私が、私が今思ってるのは、ちゃんと、ちゃんと言わなきゃ。


「オールマイト、…..あの」


「なんでも、受け止めよう」


「……..」


私は手を伸ばせば触れる距離まで近づいた。


「ヒーローだって、言ってくれたのは貴方でした。貴方は覚えてないかもしれないけど、中学生だった時の私に言ってくれました。体育祭で、私を守ってくれたのも、オールマイトと相澤先生と….。

私は、雄英高校にいなければならない。けど、それ以上に、オールマイトからの授業を、まだまだ受けたいです。オールマイトのその姿で、生きていてくださることを感じたいです。

相澤先生に、まだまだ叱られたいです。まだまだ教えて貰いたいです。…..だから、お願い、ですから、元気で、いて欲しいです……」


途中から何が言いたかったのか分からなくなって、感情がいっぱいいっぱいで、涙が溢れてきて、


「ありがとう….愛嶋少女」


オールマイトの手が、私の頭にポンと触れた。影が落ちて、まだ貴方は元気なのだと安心する。相澤先生は、車にもたれながらじっとこっちを見ている。


安心、した。




8月中旬。


私は、雄英高校の寮へ入った。


寮前に集められたA組全員。許可が降りたとはいえ、もちろん勝手な行動をしたことで、お咎めなしという訳にはいかないらしく….。


「いつまでもシミったれられっと こっちも気分悪ィんだ。いつもみてーに馬鹿晒せや」


爆豪くんはウェイになった上鳴くんをみんなの前に出したり、ポケットから出したお金を切島くんに渡したり。ケジメってやつかな。男らしい。


「あっ!みんな、みてみて!虹!」


「あっホントだ!」


「なんかいい事ありそう!」


せっかくの寮

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